第45話 人形少女の嗤う舞台5

「趣味が悪い…という話ではすまんのうこれは」


目線の先で人形の身体に作り替えられていくべリアを見つめながらクラムソラードは周囲の警戒をしていた。

突如闇の中から現れる人形…今はかなりの数がべリアに群がっているが未だに周囲からは人形が動くような音が聞こえている。


「まさかと思うがこの闇の向こう側は人形でできている…とは言わんじゃろうな?」

「呑気なことを言ってる場合かクラムソラード!べリアを助けろ早く!」


「無理じゃ。完全に向こうに取り込まれておる…もはやあれはワシの眷属ではない」

「おい!何のために貴様を連れてきていると思ってるんだ!いいのか…お前リリに眷属を奪われたんだぞ!アレより神の格が下だと認めるつもりか!」


クラムソラードが呆れたように大きなため息を吐く。


「ワシの性格をよく知っておるだろ女狐。まぁあの人形がもう少しでも弱く気にする価値もないガラクタなら問答無用で叩き潰したのだが…こうなってはもはや貴様らなどアレの力を計るための捨て駒よ。それを承知で貴様もワシを頼ったのだろう?ならば文句を言わずホレ、行ってこい。安心しろ力はそのまま貸してやるぞ?」

「ちっ…!神というやつはどいつもこいつも…!」


アルギナはクラムソラードに怒りを感じつつも今はリリへの対処のほうが先だと思考を切り替える。

しかし先ほどの決死の一撃が失敗に終わったうえにべリアという戦力も失ってしまった今、うてる手はあるのか…そう考えるアルギナだが彼女は失念していた。

今一番にするべきことは次の手を考えることではなく…。


「べリアを放せえええええええええ!!!」

「っ!ダメだレザ!早まるな!」


「うおぉぉおおおおおお!!!リリぃいいいいいいい!!!」


制止も聞かずにリリに愚直に攻撃を仕掛けようと走り抜けていくレザを止めるべくアルギナも走り出す。

そんなアルギナの行く手をさえぎったのは…べリアだった。


「なっ!?」

「…ある、ぎな…さ…ま…」


天から伸びた糸に操られた無残な身体のべリアが不気味な動きで大剣をふるい、アルギナを攻撃する。

べリアの身体をこの状態で攻撃していいのか、ダメージを受けるとどうなってしまうのか…すべての情報が足りていないこの状況でアルギナはべリアに手を出すことができず防戦に徹するしかなかった。


頭に血が上り周りが見えていないレザはそんな状況に気づくはずもなく…リリにありったけの…と言っても先ほどの全力の一撃の後に残ったなけなしの力だがその全てをこめてぶつける。


しかしそんな攻撃が今さら通用するはずもなく…横から現れた巨大な人形の腕がレザを掴んだ。


「ぐぁぁああ…!くそ!離せ!」


リリは今のこの状況を見て満足そうにうなずく。


「よしよし、みんなだいぶ大人しくなったね!」


レザは巨大な腕に完全に身体を握りこまれ、苦しそうに顔を歪ませている。

アルギナは不意をつかれ操られたべリアがその身体を抑え込むように絡みつき、動きを封じている。


「あとは…」


リリが見たのはこの場のもう一人の神。


「…これまでか」

「お、諦めてくれるの?」


「たわけが、ワシが貴様のようなガラクタに背を見せるとでも思うてか」

「難しい言葉使いでよくわかんないけど…背中くらいなら見ようと思えば見えるよ?」


「!?」


背後に悪寒を感じ振り向くとそこにあの巨大な人形の顔があった。


(馬鹿な!ワシはあのデカブツから目を離してはいなかった!なぜ背後に…!?)


「ほら背中見えた!」


そしてさらに背後、人形に気を取られたわずか数秒の間にリリはクラムソラードに手を伸ばせば届くまでに接近していた。


「舐めるなガラクタがぁ!!」


クラムソラードは一瞬だけ自らの力を解放した。

彼女は龍の神…その真の姿はドラゴンであり目に見えないほどの一瞬…だけ真の姿に戻り、リリに襲い掛かった。

しかしその速度以上の速さで巨大な人形がリリを守るように行く手を塞ぐ。


「そんなものでワシが止められるかぁああああ!!!」


巨大な人形の顔が砕け、赤と青の液体が破片と共に舞い散る。

人形の顔を突き抜けた後はすでにクラムソラードは少女の姿に戻っていたが、その勢いと解放された力そのままにリリにとどめを刺すべく飛び掛かる。


勝ちを確信したクラムソラードだったがリリは…やはり笑っていて…。


「【第二幕】かいま、」

「っ!…その宝を持ち海を渡り故郷へ戻れ!【神綴リ儚ミノ昔話】!!」


闇の世界からクラムソラードの姿が消えた。


「…あれ?」


リリは不思議そうにあたりを見渡す。

先ほどまで感じていた気配もなくなっているのでどうやら完全にいなくなってしまったようだ。


「う~ん…まぁ帰ってくれたのならいっか!君も大丈夫?」


リリが大きな穴の開いた巨大な人形の顔にそっと触れる。

その大きな瞳がリリに向けられ…顔はゆっくりと頭上に上がっていった。


「ありゃ、恥ずかしがり屋さんなのかな?」


リリは少しだけ残念そうにつぶやくと手を数回叩いた。

そうすると闇が少しづつ晴れていき、リリの周囲と巨大な人形の顔と腕が存在している場所以外が元の景色を取り戻した。


「さて…じゃあ「お話」しましょう?」


未だに動けないアルギナたちにリリがにっこりと笑いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る