第43話 人形少女の嗤う舞台3
レザは不思議な違和感を感じていた。
ずっとずっと何かを感じているのにそれが何か気づけない。
自分達は今あのリリとの生死をかけた戦いの最中だ、他の何かを気にしている余裕はない…しかしそれが重要な事なら?レザは意識を集中させ違和感の正体を突き止めようとした。
そして気づいた。あの巨大な人形の動く音に紛れて耳に届いていなかったがいつの間にかまた無数の人形が動く音が周囲から聞こえていたのだ。
「周りに何かいる!気を付けて!」
レザがそう叫んだとほぼ同時、闇の中から無数の手が伸びて全員に襲い掛かった。
それはおかしな光景だった。
何処を見渡しても闇しか見えない空間だが自分の姿も、仲間たちの姿もリリの姿でさえはっきりと見えているのにもかかわらずすぐ隣の何もないはずの空間の闇から自分たちに向かって人形の腕が大量に伸びてきているのだ。
「くそっ!」
アルギナがとっさに鎌を振るい魔法を発動させ腕を攻撃する。
あっさりとその腕たちは音を立てて崩れ去り、消えていく。
真っ先に気づいたレザとクラムソラードも腕から逃げのびることに成功したが…。
「きゃぁあああああああ!?」
べリアは運悪く真っ先に剣を握っている腕を掴まれ、次に脚、胴体、首、顔と次々に人形の腕が絡まっていく。
そして次第にその身体が闇に引きずられていき消えていく。
「べリアー!!!」
「助けて!助けてレザーっ!!」
レザが必死に手を伸ばすが、その腕をまた闇から現れた人形の腕が掴もうと迫ってくる。
アルギナがその腕を払い、さらにべリアも救出しようと試みようとするも、
「ダメだ!腕を狙ってもべリアを巻き込んでしまう…!クラムソラード!何か手はないか!」
「無理じゃ、あの腕に掴まれている部分にワシの惟神が作用しない…あの人形の力に取り込まれておる」
べリアは必死に抵抗しようと暴れるが腕はどんどん本数を増やし、べリアの身体を闇の中に引きずりこみ、押し込んでいく。
「いや!いやぁあ!やめてお願い!助けて!」
恥も外聞もなくべリアは泣き叫ぶ。
闇にこのまま完全に引きづりこまれたらどうなるのか…それを想像するとたまらなく怖かった。
すでに飲み込まれた部分からは大量の硬くうごめく何かが這いまわっているのを感じていた。
「レザ!レザーーーー!!!」
「べリア!!」
駆け寄ろうとするレザをアルギナが掴んでいた。
対処する手段がない今、戦力を失うわけにはいかない。
「いやぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」
喉が張り裂けんばかりの絶叫を残し、完全に闇にべリアが飲み込まれていった。
「そんな…べリア…」
「…くそっ!」
レザは膝をつき地面を殴った。
アルギナは拳を握りしめうつむいていた。
そんな中クラムソラードはべリアの所在を力を通して探ろうとしていたが何度やってもべリアは見つからず、また自らの眷属が一人減ったことも自覚していた。
「立て、二人とも。もうなりふり構ってはおれんぞ。仇を取りたいと思うのならば、生き残りたくば…戦って奴を殺すしかない」
「うわぁああああああ!!!」
叫びを上げながらレザは立ち上がり、リリを睨みつけた。
「リリぃいいい!!絶対にお前を許さない!よくも…良くもべリアを!!」
ありったけの憎しみと怒りをこめてレザはリリを睨みつけた。
「う~ん…な~んでそう怒るかなぁ…私はただ殺されようとしたから必死に抵抗してるだけだよ?まるで私が悪いみたいじゃない~酷いなぁ…人を殴ろうとするのなら自分たちは猛獣に轢き殺される覚悟を持ちましょう。そういうの大事だと思うよ?」
どこまで行ってもいつも通りのペースを崩さないリリにレザはさらに怒りを募らせていく。
「ならばリリ。お前も覚悟はできているんだろうな」
「ほえ?」
大鎌を構え、リリに向かってアルギナもまた怒りと憎しみをぶつける。
「誰かを殺したのだから、貴様も殺される覚悟はあるのだろうかと聞いている!」
「ないよ」
あっけからんと、それもいつもの調子で、本当に意味が分からないと無邪気な様子でコテンとリリは首を傾げた。
「どこまで…どこまでお前は私達を馬鹿にするつもりだ!」
「馬鹿にしたことなんて一度もないんだけどなぁ…そもそも私は自分から手を出したことなんてないんだよ?たぶん。私は静かに楽しく生きていきたいだけなのにさ~それの邪魔をしようとする人がいっぱいいるから~そういう人は殺しちゃってるし…あとは人を殺そうとしてた人?何かにも手を出した気がするけど…それで覚悟なんて必要かなぁ?せいとうぼうえーだよ、うん」
「ふざけるなぁあああああああ!!!」
破壊の力を纏ったレザがリリに殴りかかる。
その一撃は再び巨大な人形の腕に阻まれるが、そこでクラムソラードがレザに力を注ぎ、その能力を強化する。
レザの力を受けた巨大な人形の腕が少しづつ砕けていき、中からまるで血のように赤と青の液体が流れ落ちていく。
ダメージが通ったことを確認したレザは怒りのままに人形の腕を殴り続ける。
「うわぁああああああああああああ!!」
「こわいなぁ…なんでそんなに怒られるのか…私そんなに悪いことしたかなぁ…」
「お前はべリアを奪った!絶対に許せない!!」
「う~ん…何か勘違いしてるようだけれどべリアちゃんは生きてるよ?」
ぴたりとレザの腕が止まる。
「なんだと…?」
「べリアちゃんは殺すまでもないかなぁって思うから生きてるよ~早とちりはいけないなぁ~…まぁ暴れられても困るから少しだけ「動きにくく」なってもらってるけどね」
にっこりとリリが笑う。
「どこだ…べリアはどこにいる!?」
「会いたいの?まぁそうだよね~殺してないって信じてもらわないとだよね。私は嘘つかないからちゃんと見せてあげるね」
カタ…カタ…カタ…
何処からともなく不気味な音が聞こえる。
それはどんどん近づいてきており、不安を駆り立てる。
「べリア!どこだ!いるのかべリア!?」
「…レ…ザ…」
レザの背後からべリアの声が聞こえた。
「べリア!!!」
心から安堵したレザは振り返る。
そこにべリアはいた。
いや、吊り下げられていた。
地に足はついておらず、全身を赤い糸で空につながれていて…虚ろなその瞳からは涙を流し…その身体は無機質な硬質の…人形の身体となっていた。
「たす、けて…れ、ざ…た…すけ…て…」
「…っ!!!!!!!うわぁああああああ!!????!!!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます