第164話 人形姉妹は喧嘩する
何処とも知れない真っ白な空間。
そこで鎖に繋がれた漆黒の龍と向き合うようにしてフィルマリアが飾り気のない椅子に座っていた。
「聞いてくださいなクラムソラード。そんな姿になっても声くらいは聞こえているでしょう?」
クラムソラードと呼ばれた龍は鎖から抜け出そうとしているのかフィルマリアの問いには反応を示さず、唸り声を上げながら身をよじっていた。
「いえね、最近何もかもがうまくいかないのですよ。やることなすこと全て邪魔が入って全部台無し…。せっかく無理やり起きてきたのにあんまりだとは思いませんか?」
クラムソラードが聞こえているのかいないのか、そんなことはフィルマリアにとっては重要ではなく、ただひとりごとのように話を続ける。
「そこで本腰を入れて世界中に散らばった私の力を取り戻そうと思っていたのですが…これまたうまく行かなくてですね。帝国の英雄から回収したはずの「力の欠片」はボロボロにされていてあの戦いの影響で私ともどももう少し休息時間が必要で…では残りの力をと思ったのですが…これはあっさり見つかったのです。どこにあったと思いますか?」
その問いにも答えは返ってこず、苦し気な咆哮が聞こえて来るのみだった。
「なんとびっくり、魔王とあの人形の娘が全部持っていたのですよ。全部ですよ全部。私の散らばった力の残り全部です。しかもこれがまた厄介なもので…私の残りの力という物が私の「神性」や「それに付随する力」ばかりでそれを一人で抱えてるなんてとても怖いとは思いませんか」
言葉とは裏腹に緊張感を一切感じさせない無表情でフィルマリアは自らの髪を指先で弄びながら話し続ける。
「私の神としての力…つまりはこの世界のありとあらゆるものに対しての絶対性。ね?恐ろしいでしょう?だって幼い無邪気な少女がそんなものを何の制限もなく持っているのですよ?あぁ怖い怖い」
声色にはちゃんと緩急が付けられていて、感情も込められているように感じられるというのにフィルマリアの表情は一切動かない。
「それだけならまだしも手元を離れていても私の欠片なのですよ。もしかしたら私の考えや恨み何かが少しばかりあの子供の思考に影響を与える可能性もあるわけで…例えば先天的に人間という種族を見下していたりね?そんな子が大勢の人間のいる場所に出向いてまかり間違って「全員死ね」とか口走ってしまったらどうなってしまう事でしょう」
言葉を切ったフィルマリアの顔にはいつの間にか歪んだような笑みが張り付いていて…。
「考えるだけで恐ろしいですね」
心底楽しそうにそう言った。
────────
それを一番最初に始めたのは誰だっただろうか。
一人がリフィルの声を聞いた途端にテーブルに置かれた料理を切り分けるためのナイフを手に取った。
次の瞬間にはそのナイフで自らの喉を切り裂き、真っ赤な血をまき散らしながらその生を終える。
その次に動いたのは今しがた死んだ者の血が顔に飛び散ってしまった女性だった。
先ほどまでは悲鳴を上げようとしていたのに、今は虚ろな目で死体を見つめ、その手からナイフを拾い上げると迷わず胸にそのナイフを突き立てた。
その次は隣国からきた王子の付き人だ。
その男はまるで見せつけるように自らの舌を口外に露出させ…嚙み切った。
そうして一人、また一人と続々王宮内の人間たちが自ら命を絶っていく。
なぜか?それが神の命令だから。
ただそれだけで理不尽に、何の抵抗も許されず、人はその命を捨てさせられてしまう。
リフィルの言葉からものの一分で部屋の中で生きている物はリフィルとアマリリスだけになってしまった。
そしてこの状況を生み出してしまった本人はと言うと…。
「あーん!違うって言ってるのに~~!!」
「ふぇぇええええええん!!」
妹と二人で泣いていた。
「私アマリの事きらいなんていってないぃぃぃ!」
「でもお姉ちゃん人間いやっていったもん~!うぇえええええええん!お姉ちゃんのばかぁ~!」
「あ~っ!?ばかっていっちゃダメなんだよ!?」
「知らないもん!!」
まるで死体の山など存在しないかのような、それだけ見れば微笑ましい姉妹喧嘩を繰り広げるリフィルとアマリリス。
だが本人たちはいたって本気であり、次第にヒートアップしていく。
問題となっているのはリフィルとアマリリスはお互いに自らの事を理解しており、リフィルは人間ではないという事、アマリリスは人間であることを知っていた。
でもそんなものは些細な事で、二人は誰が見ても仲良しな姉妹である。
故に喧嘩もしてしまうこともあるがアマリリスが泣きじゃくりながら振るった手がリフィルの頬に当たり、爪が引っかかってしまい、その肌に傷をつけうっすらと血が滲んでしまった。
「あっ…お、お姉ちゃん…わたし…」
「…」
リフィルが自分の頬に触れ、指についた血を確認した後、その赤い瞳がアマリリスに向けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます