第265話 人形少女の最後の一撃

「リリちゃん。悪いけど勝ちは貰うから」

「やってみなぁ~」


レイが剣の柄の部分をくるっと回す。

するとカチャッと音がして刃の部分と柄の部分がどんどん離れていく…いや、まるで鞘から引き抜くような感じでするすると抜けていき、刀のような形状の…というかまんま刀が現れた。


大きな剣の中に刀を仕込んでいたらしい。


「…何の意味が?」

「…かっこいいから?」


何故本人も疑問形なのか。

その行為に何のメリットがあるのか全て謎である。


「雷轟電撃の電光雷轟!雷轟電転をもって迅雷怒涛なり!」

「わけわからん」


異常に頭の悪そうな口上だがレイの身体から溢れ出している雷はシャレにならないことになっており、そこそこ距離が離れているにもかかわらず、痛みさえ感じるほどだ。

これ仮にだが私が生身の人間だとした場合は普通に死んでいるのではないだろうか。


やがて雷は一か所に渦を巻くように集まり、何かの形に纏まっていく。


「織天雷翼…【火雷神(ほのいかずちのかみ)】」


幾重もの翼をはためかせながら、レイの背後に顕現したのは雷の天使とでも言うべきもので…それは以前見た私たちが天使と呼んでいたものにどことなく似ていた。


「それがレイの全力?」

「ううん、これはダメ押し。私はね自分の事は自分でやる女だから…とどめを刺すのは私自身」


レイが刀を数度振り、切っ先を天に向ける。

刀の軌跡に合わせて青白い閃光が奔り、私の世界を切り裂くように照らしていく。

そして背後で雷の天使が吠えたかと思うと一際大きな雷がレイに墜ち、あまりの衝撃と光に視界を奪われた。


ヤバいと思って慌てて目を開けると先ほどまでレイと天使がいた場所には誰もおらず…なんとなく嫌な予感がした。


「上だよ」

「上か!」


弾かれるように上を見上げるとそこには私の世界の上空を乗っ取っているかのように青い雷が広がっていた。


雷が渦を巻き、四方八方に広がっていく様は、神話の1シーンと言われても信じてしまいそうなほど現実離れしている光景で…その中心で雷の天使と共に刀を構えて私を見下ろすレイはまさに地上にいる私を滅ぼさんとする処刑人のように見えた。


「雷は空から地上に落ちるものでしょう?」

「確かに」


まさかあの空の雷全部一緒に落ちてくるつもりだろうか?さすがにそれは死ぬ。


「死ねえぇえええええええええ!!!!」

「おい!!!!」


とんでもない女だ!軽々しく死ねとか言うもんじゃないよ!全く…。

まぁ死ぬわけにもいかないので宣言通りに全力で対抗することにする。


「地水火風、光に闇!全てを混ぜ合わせて一つに!そしてそのまま~全力でぶっ放す!オリジナル魔法!」

「何それ!?かなりヤバイってそれ!殺す気!?」


死ねって言ったのそっちやろがい!!!

しかし今さらお互いに止まる気もなく…にらみ合いながらも動いたのはほぼ同時だった。


「紫電一閃、我が身を持って全てを討ち滅ぼす雷刀の一振りとならん!ライトニングノヴァーー!!」

「技名は横文字なんかい!!…ああもう!全力フルパワー!カオススフィア遠慮なしバージョン!!」


天から落ちる浄滅の雷と化したレイと、私の文句なしの全力…遠慮なしのカオススフィアがぶつかり合った。


何の比喩も誇張もなく、世界が揺れた。

これさ惟神がこの場を形成している私が一方的に被害を受けているようでなんだか損した気分なんだけど!


実際笑い話ではなく、前の戦いで私の魔法に惟神が耐えられなくなっていたように、今もぶつかり合う二つの力がとんでもない衝撃を生み出しており、闇を吹き飛ばしてしまいそうな勢いだ。


今なら分かるけど私の強さはこの世界で十全に発揮されるものなので、もしこの闇を晴らされるようなことがあればまずいなんてもんじゃない。


現にカオススフィアとぶつかり合って飛び散る雷が私の闇を傷つけるたびに少しづつレイが魔法を押しのけていくのが分かる。


このままでは負けてしまう…別にいいじゃんと思わなくもないけれど…なんとなく悔しいじゃないか。

なにか手はないかな…と必死に考えていると、ある物が目に留まった。


「ちょうどいいのあるじゃん」


つい口に出してしまった私を不審に思ったのかレイは眉をひそめたが…もうどうしようもないだろう。


「何かするつもり?ふふん!どうやってももう私の勝ちだよ!」

「ふふふふ!そうかな?どうかな?」


「何を笑って…」


そこでようやくレイは私の視線がレイではなく、その背後に向けられていることに気づいたようで…ゆっくりと振り向いたが時すでに遅し。

レイの背後には闇から伸びた赤い糸で雁字搦めにされた雷の天使の姿があった。


「なぁ!?なにやってんの!?」

「ちょっとだけ借りようと思ってね!」


雷の天使は暴れて糸から抜け出そうとしているようだが、さすがにアレに比べれば私の力のほうが強いらしく、どんどん闇の中に引きずり込まれていく。


「ちょっと!?やめてよ!!」

「いやだ~」


レイは焦りながらもそちらに意識を割く余裕はない。

でも私は違う。


私の本体と惟神は完全に別なのでこうして私が動けない状況でも闇の中で蠢いている無数の人形や糸は自由に動くことができる。

やがて雷の天使は完全に闇に飲み込まれ、それと同時に巨大なエネルギーを補充できた私の世界は一気に修復されて完全に体勢を立て直した。


しかし──


「じゃあここでいきなりドーン!!!!」


なんと急にレイの力が上がった。


どうやら全力とか言いながらこちらを油断させるために余力を残していたらしい。


まずい…手を抜いていたわけじゃないけどこっちも余力はあると言えばある。

でもこちらは魔法という都合上、威力をあげるには魔力を込めないといけないわけで…絶対に間に合わない!!


「今度こそ貰ったああああああああああぁああ!」


レイの雷がカオススフィアを完全に砕いた。

そのまま巨大な雷となったレイの刃が私に落ちてきて…。


「甘いよ」


刃が私を捉えるその瞬間に「人形化」が完了した雷の天使を解放した。


「はぁ!?」

「ねーねーあなたの雷って同じ力であるこの子にも効くのかな?かな?」


効くのならお手上げだ。

でももし一瞬でも止まるのなら…。


「ちょっといい加減にしてよ!やってる事がさっきから怖すぎるんだって!」


なにやら文句が聞こえてくるが雷の天使はなんとなんとレイの一撃を完全に受け止めてくれていた。

私はレイの側面に回って拳を握り締め…助走をつけてその顔にストレートを叩き込んだ。


「めぷっ」


なにやら妙な声を残して面白いように飛んで行ったレイを見て一言。


「はい、私の勝ち~」


数百年越しの喧嘩、ここに決着である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る