第80話人形少女は恩返しがしたい

「貴様何をしに来た!」


開口一番、鎧を着た人たちに武器を突き付けられ、囲まれてしまった。


「んん~?ちょっとなになに~?ダメだよそんな危ない事したら。まずは挨拶だよ。私は挨拶ちゃんとしてくれない人嫌いだよ?」


ここは帝国。

あれから数日。マオちゃんの容体が落ち着いてきたのでコウちゃんにお礼を言おうと思い、空間移動でぬるっとやってきたのだけれど、何故かこんなことになってしまっている。


「悪しき魔物が人の真似事とは滑稽だな!」

「我らが皇帝陛下に害をなそうとしたのであろうが、我らが許すと思うな!」


なにやら誤解されてしまっているようだ。

今日はそんなつもりで来たんじゃないのにどうしてこうなってしまったのか…。


「違う違う。この前はコウちゃんにお世話になったから、そのお礼に…」

「コウちゃん…?何を言っている!」


「だからお礼に来たって言ってるじゃん!コウちゃんはどこにいるの?」

「そのような者はいない」


「うっそだ~今さっき言ってたじゃん「我らが皇帝陛下」って」

「なっ…!?偉大なる陛下になんという不敬な…!もはや許してはおけぬ!」


この前から思ってたけどここの人って沸点低すぎるよね!すぐ怒る!圧倒的カルシウム不足!…糖分のほうだっけ?まぁいいや。

もうめんどくさいからもう皆殺しちゃおうかなぁ~…でもお礼を言いに来たのにコウちゃんのたぶん手下の人たちを殺しちゃうのはなぁ~。


「お前たち何をしている」


なにやら圧を感じる男の声が。

そちらを見ると周りの人たちとは違ってやけにラフというか、バスローブのような恰好をした無骨な男が奥から出てきた。


「ジラウド様!」


周りの男たちが一斉にジラウドとやらのもとに走って行った。

なんだかアイドルとそのファンみたいになってるな。


「ふむ…これは、リリ殿。何か御用でしょうか」


軽くだが少しだけ礼をしてくれたので私もぺこりと頭を下げた。

ちゃんと挨拶をしてくれる人は好感が持てるね、うん。


「こんにちは!この前のマオちゃんの事でお礼がしたくて来たの!コウちゃんはいる?」

「コウちゃんとは我らが皇帝陛下のことで間違いはないでしょうか…ならば少し時間をいただくことになるのですが問題はないでしょうか」


「え~…」

「…陛下は基本的に外には出ないのでこちらも客を迎える準備などになれていないので、理解をしていただきたく」


「別にもてなしてくれなくていいよ?」

「そういうわけにはいかないのですよ」


これだから偉い人はめんどくさいのだ。

さっと出てきてくれればいいのに…。


「おーーーーーーい!コウちゃーーーーーーん!!!あーそびーーにーーきーーたーーよぉぉおおおおおおおお!!!」

「リリ殿!?」


なので大声で呼んでみた。

いるならこれで出てきてくれるかなぁという考えで実行したわけだけど…。


「なんだ。誰だ我の安眠を妨害したアホは」


眠たげに細められた目をこすりながら、コウちゃんがジラウドさんが出てきたところと同じ方向から出てきた。

なんだやっぱりいるじゃん。しかもその感じ、準備に時間がかかるって寝てただけじゃん。

しかも何と、コウちゃん裸である。


「陛下ーーーー!?」

「なんだジラウド、うるさいぞ…ふぁ…先ほどまでお楽しみだったのだ。余韻を大事させんか馬鹿者め」


「だぁああああああああ!!とにかく服を何か着てください!貴様たちも見るな!出ていけ!」


ジラウドさんが周りの男たちを追い出した。

もちろん私は出ていかない。じっくりと見てやったともさ。

肉付きがいいという感じではないがスラッとしてて、まさに美しいという言葉が似合う身体つきでした、はい。

身体の半分を覆う黒い痣は気になるけどね…いや、あれ?なんか痣の範囲が広がっている?

丁度体の左半分に会った痣が右側にも浸食してきているように見えた。


「ん…?なんだリリか…一応聞いておくが何をしに来た?」


コウちゃんはそこら辺のテーブルからテーブルクロスをはぎ取るとローブの様に羽織った。

それでいいの?まぁいいんだろうな。


「やっほー!コウちゃん!この前のお礼をしに来たの!」

「…今度こそこの首を取りに来たか?」


「…?」

「…?」


「なに変なこと言ってるの?私はただマオちゃんを助けてくれたからそのお礼を言いに来たの!」

「あぁ…なんだそのままの意味か」


「そのままって?」

「いや、気にするな。まぁ座れ」


コウちゃんが近場のテーブルの椅子に座ったので、私もその向かいに座る。

ジラウドさんはコウちゃんの後ろに控えるように立っていた。


「それで?あの魔族の娘はその後どうなんだ?」

「うん!おかげでだいぶ良くなったよ!ありがとうコウちゃん!」


「そうか、それはよかった。で?お礼って何をしてくれるんだ?」

「はい、これ」


私は適当に魔王城から持ってきたお菓子をコウちゃんに渡した。

マオちゃんの命の恩人なんだし文句は言われないだろう、たぶん。


「…あぁうん。ありがとう」


コウちゃんはお菓子の缶を掴み上げると、それをジラウドさんに手渡した。


「嬉しくない?」

「微妙だな。だが我は大人だから笑顔で受け取るぞ」


「ひゅぅ~!コウちゃんおっとなぁ~!」

「だろ?」


コウちゃんと二人、声を上げて笑いあった。

その後少しだけ真面目な顔になったコウちゃんが咳ばらいをした。


「それでリリ。我はお前の「お礼」に満足してないわけだ」

「うん」


「で、だ。どうだろう?もう一度だけ我の話を少しばかり聞いてはくれないだろうか」

「いいよ~」


メイラも連れてきてお茶を入れてもらえばよかったな~と思いつつ、コウちゃんのお話は始まった。

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