第81話人形少女は深く考えない

「さて、まず聞きたいのだがあの魔族の娘はお前にとって重要度が高い人物だったと思っていいのかな?」

「重要度?うん、マオちゃんはね世界で一番大好きな人なの!」


「ならばその娘の命の恩人である我はそれなりのものを受け取ってもいいと思うのだよ」

「だね~」


コウちゃんの黄金色の瞳が私を射抜くように見つめる。

なんだかむずむずしたものを感じてしまうのでやめてほしい。


「…ならば先にも言っていたように、悪魔神の奴を倒すのに手をかしてはくれないか」

「いいよ~」


「もちろんこちらもただとは言わない。それなりの…ん?」

「ん?」


二人で同じ方向に首を傾げた。


「いいのか…?」

「いいよ~」


目をまん丸に見開いて茫然とした表情で私を見つめる姿が少し可愛かった。

コウちゃんは美人系だけど割とお茶目なところがあるのがポイント高いね。


「いったいどうしてそんな簡単に心変わりを…?」

「え?だってコウちゃん困ってるんでしょ?マオちゃんを助けてくれたんだし、それくらいならぜんぜんいいよ!」


「…ちなみにだが以前この話が出ていた時はいろいろとそちらから条件が出ていたな。家の用意だとか戦争の事だとか「下」の事だとか…それは少し受け入れるのが難しいと言ったらどう思う?」

「仕方ないかな~って思うよ?」


コウちゃん、今度はガクッと肩を落とした。

後ろのジラウドさんもなんとも言えないような表情している。


「ずいぶんあっさりと…本当にいいのか?」

「うん~。「下」のことはなんだかもういいやって感じだし、コウちゃんが困るならもういいよ~。戦争の件も最初はできればって思いだったし…あ~でもメイラのためにもお家は欲しいんだよね~…まぁでもコウちゃんがダメって言うなら諦めるよ~」


さっきから私が何かしゃべるたびにコウちゃんの表情がコロコロ変わっていく。

調子が悪いのかな?そんな寒そうな格好してるからだよ全く!


「なぁリリ…それはつまりその…私が「マオちゃん」とやらの命を助けたからか…?」

「そうだよ?」


「…そうか、そこまでか。それほどまでにお前の中でその娘は大きな存在という事か」

「そうだってさっきも言ったじゃん。コウちゃん本当に大丈夫?ちゃんと服着なよ」


「我はあんまり服は好かんのだ。風邪などひかんしな…しかしここまで話がうまく進むのは予想外でどうしたものか…」

「うまくまとまったらいいじゃん」


なにが不満なのさ。偉い人って本当に何でも難しくするよね。


「いやいや、これは我の感情の問題よ。我は我のために動いてくれると言うものに報酬も払わないような人間ではないよ」

「じゃあ何かくれるの?」


「…その前に少し話を纏めるか。我の願いは悪魔神の討伐。そしてこの忌々しい呪いを解くことだ。リリに頼みたいのはその討伐の部分…あれは腐っても神だからな。同じ神でないと戦いにすらならない。ここまではいいか?」

「うん」


「では次、お前は悪魔という種族についてどこまで知っている?」

「え?ん~と…人を食べる?」


「つまりはあのメイラという娘の事しか知らないという事だな?」

「うん」


コウちゃんがジラウドさんに何やら耳打ちをするとそのままジラウドさんが奥に消えていき、少しして大きな本を持って戻って来た。


「よし、ではまず悪魔について説明しようか」

「あ、それは大丈夫。めんどくさいし」


正直説明されても全く分からないしね。

魔族の話だって以前教えてもらったものの全く記憶に残ってない。


「…まぁいいだろう。ならば悪魔神の話だが」

「うん」


「見た目は何でもない人間なんだが…まぁしかしなかなかに気持ち悪いやつでなぁ。とにかくあまり会話をしないことだな」

「え~私おしゃべり好きなんだけどなぁ」


「やめておけ。あいつとまともに会話をしようとすると頭がおかしくなる」

「は~い」


しかしそこまで言われると逆に興味が湧いてくるのでおそらくおしゃべりしてしまうだろう。


「そしておそらくはお前ひとりで戦ってもらう事になるのだがそこも問題ないか?」

「コウちゃんは行かないの?」


「行かない…というか行けないだな。何度も言うが我はあいつに悪魔憑きにされている。もうあと一押しで我は悪魔にされてしまうだろうから接触はできない。あとは今の我はお前との戦いで身体にかなりガタがきていてな…正直もはや戦える状態じゃない」

「ありゃ」


「そういうわけだ。どうだ?」

「いいよ~」


一人で行けと言われるとは思わなかったけれど、まぁやることは変わらないと思うし大丈夫でしょう。


「ちなみにだが能力はよくわからん。会話はしたことあるが正面から戦ってはいないからな…「惟神」を持っているのは間違いないが…我との正面激突を避けたことからおそらく我ほど戦闘に特化した能力ではないとだけだな」

「ふむふむ」


それはいわゆる情報なしと言うのでは?と思わない事もない。


「…で、だ。次は報酬の話をしよう」

「報酬?」


「先ほども言ったが我は無報酬で人を働かせはしない。そこでお前の希望になるべく沿う形でこちらで考えたのだが聞いてくれ」

「あい」


「まずは先に出されたお前からの条件について、「下」は悪魔神を倒してくれれば問題はほぼ解決する。だからここはとりあえず無視だ。そして次に戦争の事だが…こちらもひとまず保留。そして住処の話だが、悪魔神を倒せばアレを頂点として成り立っている悪魔どもはその組織体制を保てず崩壊するはずだ。だからそこでその住処を奪ってしまうというのはどうだろうか?」


なるほど。

確かにそれはいい考えかもしれない。神様ってぐらいだからきっといいところ住んでるだろうし…どうせ誰もいなくなるのなら貰ってしまうのもありだ。

それに悪魔の家ならメイラも過ごしやすいかも…。


「いいね!」

「そうかそうか」


「ところでいつ行けばいいの?」

「気が早いな。まずはあれの居場所を探すところからだ」


「え、知らないの?」

「もうすぐわかるかもだがな」


「なんで?」

「今まさに様々な国から精鋭を集めた連合軍が「黒の使徒」という集団のアジトに乗り込んでいるところだ。あのメイラの事件で奴らの排除にようやく各国が腰を上げてな。うちからも何人か騎士を送り込んでいる。そこに奴がいるかは分からないが何かしら報告はあるだろう」


ということはすぐにどうこうという話ではなさそうだ。


「じゃあ少し暇なんだね。あ!ねぇねぇ何か美味しいお菓子売ってるお店とかある?お土産で買っていきたいのだけど!マオちゃんにも持って帰ってあげたいし!」

「…あぁ、あとで案内させよう」


「ありがと!」

「ところでリリ」


「うん?」

「これ、とってもらえないか?」


コウちゃんがその白くてきれいな首元を指さして私に見せてきた。


「え…首とるの…?」

「いや、ここにある「糸」だ」


「糸?」


目をこすったりして注意深く見るけれど糸のようなものはない。


「なにもないよ?」

「そうか…いや忘れてくれ」



――――――――


≪皇帝side≫


「ふむ…あの感じは本当に知らない感じだな」

「大丈夫なのですか?その首の呪いのほうは…」


「ああ、今のところは問題ない。まぁもしかしたらこっちは無事に転生できれば消えるかもしれん」

「だといいのですが…ところで陛下」


「ん?」

「いいのですか先ほどの報酬の話…結局こちらからは何も提供していないと思うのですが」


「…正直いけるとは思っていなかったんだ我も。さすがに何か考えるさ」

「しかし驚きましたね…まさかあれほどまでに友好的な態度で来るとは…敵意は一切感じませんでしたが」


「ほんとにな。恩を売れれば儲けものと思っていたがここまでとは…あの「マオちゃん」とやら少し調べたほうがいいかもな。リリに対する切り札になるやもしれぬ…いや、やはりやめよう」

「触らぬ神に祟りなし、ですか」


「うむ。リリが友好的…という事実で我らは満足するべきだな。そしていい加減下級の騎士共にもちゃんと教育しておけ。あいつらは品がなさすぎる」

「申し訳ありません。すぐに手配しておきます」


「ああ、まぁ今は…次の身体を作るか」


するりと皇帝がテーブルクロスを脱ぎ去り、その裸体をあらわにした。


「へ、陛下…」

「この身体はもうダメだ、早急に新しい身体を作らねばならん。リリも今日はひとまず帰ると言っていたし、連合軍から報告が上がってくるのもまだ先だろう?」


「い、いやしかし…」

「しかしもへったくれもあるか。やるなら今しかないんだよ…この言いようのないむしゃくしゃを発散もしたいしな」


そう言い残して皇帝は奥の部屋に消えていった。

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