第251話 人形少女は人形と戦う
さてさてあの大きな人形がこっちに来てくれたのは実はかなりいい感じだ。
どれくらい強いか分からないからメイラに向かってあの子が怪我をするよりは全然いい。
相変わらず耳障りな悲鳴の鳴き声を上げながら人形はまさかの這いつくばるような四足歩行でドスドスと私を追いかけてくる。
怖すぎるよ、何あれ。
何を思ってあんなの作ったんだよ本当に!
とにかく直接的な攻撃はしたくない…というかあんまり近づかないでほしい。
というわけで魔法で小突いてみる作戦を実行に移す!
「さてさて君はどれくらい強いのかなっと!できれば見掛け倒しであってほしいな!」
適当に手ごろな風の上級魔法を振り返りざまにお見舞いしてみた。
上級魔法というやつはスナック感覚でぶっ放せる割に威力もあるし魔力もあんまり使わなくて実に効率がいい。
さすが上級魔法だ、コスパ、使いやすさ、威力すべてそろっている。
…この発言がクチナシに度々指摘される勘違い発言でないことを祈りたい。
とにかく私の放った魔法は周りの木々をなぎ倒しながらも人形に見事に当たった…ように見えたけど何故か直前で魔法が軌道を変えた。
私が魔法の制御を間違えたかな?と思わなくもないけどかなり不自然に魔法がズレたのだ。
こう…ど真ん中に当たるはずだった魔法が人形に当たる直前で四方にそれたというか…。
つまりはこの人形は…。
「魔法が効かない系の奴だな?間違いない」
となると途端にめんどくさいなぁ…そもそも何度も言うけどアレに接近戦を挑みたくない。
まぁでもそうも言ってられないよね!
私は久々に腕から刃を展開していざ迎え撃とうと足を止めて人形に向かい合った。
うわぁ…やっぱ気持ち悪ぅ…。
「リリさん!後ろに跳んで!」
「お!?」
人形の後ろから追い越すように地面から無数の真っ赤な棘が生えてきた。
さすがはメイラ、出来る女の代表格。
これならうまく行くかも!?
しかし私の期待虚しく、メイラの棘は人形に触れると同時にばしゃっと液状化して地に落ちる。
どうやらあれも魔法判定のようだ。
まさか攻撃全部無効とかではないよね…?
「すみませんリリさん!」
「大丈夫~どこにいるか見えないけど、そのまま離れててね~」
覚悟を決めて真正面から立ち向かう。
耳障りな悲鳴がどんどん近づいてくる。
どうやら向こうはそのまま突進してくるようで…なら迎え撃とうじゃないか!
べちゃべちゃと全身から血をこぼしながら四つん這いで突進してくる巨大な人形。
そのおそらく顔面のど真ん中に刃を突き立てる!
そして…。
「嘘でしょ…」
結果として人形は動きを止めた。
だけど私の刃は全く通っておらず、完全に力だけで人形の動きを止めている状態だ。
向こうは私より力は弱いらしく、私の腕を押しのけることは出来ていない…しかし私の攻撃も届いていない。
かなり不思議な感じで…なんというか刃が「拒まれている」とでも言えばいいのだろうか?
そんなに硬そうには見えないけれどとにかく刃が通らない。
「──────!!!!!」
「っ!」
膠着状態にしびれを切らしたのか人形は片腕を上げて私を薙ぎ払うようにして振るった。
全く痛くはないけど質量差の問題か結構な勢いで吹っ飛ばされてしまう。
とりあえず受け身を取って立ち上がっては見たもののどうしたものか…。
ちょっとだけ触ってみた感じ負けることは無さそうだけどこちらも有効打がない。
うーん…。
「カオススフィアぶつけてみる?」
「リリさんそれは…屋敷ごと吹き飛ばしてしまいそうな気がします」
「ありゃ」
いつの間にか私の後ろにいたメイラが少し慌てたように指摘してくれたけど確かにその通りだ。
誰もいないなら、まぁしょうがないかで済ませたかもしれないけど娘たちがいるし却下だ。
となると…昔使ったカオスブラスター何かは一直線攻撃なので何とか使えそうだけどアレはカオススフィアに比べて威力はそこそこ落ちる。
一点に集中させれば威力は増す…と思いがちだがあれは結構繊細なコントロールがいるので何も気にせずドカンとできるカオススフィアのほうが実は破壊力は上なのだ。
でも使うわけにはいかないので何とか頑張ってみますかね…。
「あの…すみません私はあれにもう対抗手段がない気がします…」
「んだねぇ。あぶないから避難してて」
「はい…」
メイラの戦闘力はあの棘に集約してるから、それが効かないとなるとそうなるよね。
「あ~一応まだ生き残りがいないか見回っててくれる?食べててもいいよ」
「了解です」
小走りで駆けていったメイラを見送って、再び人形に向き合う。
向こうも私を警戒しているのか先ほどのように無暗に突っ込んでこない。
「通用するかなぁカオスブラスター。してくれるといいんだけど」
正直な話あんまり期待は出来ないと思う。
そんな気がする。
本当にどうしたものかと悩んでいると、上空になにか白いものが見えた。
闇の中で白く流れていくそれは…流れ星のように見えた。
「じゃないな、あれ多分くっちゃんだな」
予想は当たったようで、白い軌跡は人形の頭部に勢いよく墜ちた。
人形は地面に顔がめり込んでしまったようで、手足をじたばたとさせて暴れており、流星の正体…案の定クチナシは人形を一瞥すると右の拳を握りしめてその身体に叩き込んだ。
かなり大きく、鈍い音がして人形の巨体は数メートルほど跳んで行った。
クールで物静かな見た目をしておきながらフィジカルが凄い。
「クチナシ」
「マスター、ただいま戻りました」
服の汚れを手で払っていたクチナシに声をかけると、ぺこりと頭をさげる。
「うん、おかえり」
「ところでアレはマスターのお友達ですか?」
「ちがう」
なんでメイラもくっちゃんもアレを私の関係者だと思うのか…。
だいたいどちらかと言えば昔のクチナシのほうが見た目は近くない?
「なるほど、あまり良くないもののようですが…サポートは必要ですか?」
話している間に人形は態勢を立て直し、再びこちらに向かって悲鳴をあげている。
「うん、お願い~」
クチナシが帰ってきたのなら惟神を100パーセント使うことができる。
これなら何とかなるだろう。
悲鳴はうるさいし、見た目は気持ち悪いしで早く終わらせてしまいたい。
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