第250話 魔女の心理

「すごかったんですよその女の子。見た目も身体組織に構造も全部一般的な人と違いはなかったのに内に図り切れないほどの力を秘めていたんです。検体名は「レイ」…まっすぐで一生懸命で、とても好感の持てるいい子だった。だから私はその子を徹底的に解剖したんです。ここまでする?って思うほど調べて調べて調べ尽くしました。そうした結果…私は人という種に無限の可能性を見出すことができたんです」


硬いブーツでゆっくりと床を踏みしめながらマナギスは今だ人形に組み伏せられている王に近づき、その目を覗き込む。


「それまでは私以外の人間なんて等しく馬鹿で存在価値のない劣等種くらいに思ってたんだけど…とんだ思い上がりだったよね。馬鹿だったのは私だった。人の素晴らしさに気づかずに見下して…本当に恥ずかしくなるよ。黒歴史ってやつだね」

「貴様…頭おかしいのか…?」


「自分じゃいたって正常だと思ってますけど?」

「ならばアレはなんだ!?いとも簡単に人間を殺しているではないか!」


「殺す?嫌だな王様、よく見てくださいよ」


マナギスが芝居がかかった動きで映し出されている映像を指さす。

そこには相変わらず暴れる巨大な人形がいたが先ほどまでとは様子が違っていた。


人形の胴体部分が中心から縦に開き、その中に兵士たちが乱雑に放り込まれていたのだ。

そして人形の中にいる兵たちは糸のようなもので四肢を投げ出すような形で拘束され、お世辞にも広いとは言えない空間に敷き詰められるように捕らえられている。


映像からは良く見えないがどうやら胴体部分だけではなく脚や腕、顔部分の空洞にも兵たちは無理やり詰め込まれているようだった。

それだけでも気味の悪い光景だったがまだ終わりではなかった。



身体いっぱいに兵を詰め込んだ人形兵が胴体部分を閉じて数秒後、無数の悲鳴が人形兵の中から聞こえてきたのだ。

耐えきれないほどの苦痛を受けた人間が発することのできる心からの悲鳴…それが何重にも重なりまるで人形兵の鳴き声のようになっていた。


さらには関節の隙間等から赤い液体がこぼれ落ちだした。


いったい人形兵の中では何が行われているのか…いつまでもやまない悲鳴を聞きたくなくて王は耳を塞ぎたかったが王を拘束するパペットがそれを許さない。


「うふふふふふふふふふ!すごいすごい!ちょっと無理があるかな?と思ってたけどやっぱり人間はすごい!あの大きさの人形兵を動かせるだけの動力を確保できるなんて!あぁ…やっぱり人には無限の可能性が眠っている…ね、ほら見てください王様!神の力がない人間でも、頑張ればあんなこともできる!これはと~っても凄い事なんですよ!ね?私のやっている事理解していただけました?私の研究のすばらしさを分かっていただけました?哀れで無知で矮小で愚かな人間も、少し手を加えてあげるだけでこんなに素晴らしい力を生み出すことができる!うふふふふふ!!」


王はここに来てようやく理解した。

自分が手を組んでしまった相手は…人の形をした何かだという事を。


──────


≪リリside≫


「うーん…あれなんだと思う?メイラ」

「さぁ…リリさんのお友達ではないのですか?」


「あんな知り合いはいないなぁ」


突然出てきて突然暴れ出した大きな人形をメイラと二人で見上げる。

身体中から血を流しながら、悲鳴をたてて狂ったように動き回るその姿は異常としか言いようがない。


人形としての自分に誇りや自尊心なんてこれっぽちも持ってないけど、さすがにアレの同類だとは思われたくはない。


「それにしても…さすがに不愉快ですねアレ」


メイラは巨大な人形に怒っているかのような視線を向けていた。

元人間としてあまりにもあんまりな虐殺に思うところがあるのかもしれない。

優しい子だからねメイラは。


「…まだお腹すいてたのに…」


優しさなんてなかった。


変わっちまったメイラ…まぁでも気兼ねなく食事ができるようになったのはいい事だと思うの私は。

いっぱい食べる君が好き~みたいな。

妹分にはいつまでも元気でいて欲しいからね。


「ところでどうしようかアレ」

「どうしましょうね。放っておくわけにも行かないとは思いますが…」


「それはそうなんだけど…なーんか地味に直接戦いたくないよね」

「わかります。なんとなく生理的に嫌ですよね」


「うん、あれが自然発生したモンスターじゃなくて作られた人形なら、製作者はだいぶ性格悪いよ。間違いない」

「同感です」


メイラと頷き合っていると、とうとう人形が私たちのほうを向いた。

いや、顔の部分に目とか口とかついてないからこっちを向いてるのかはよく分かんないけど、たぶんこっちを見ている。

そしてそのままものすごい勢いで襲い掛かってきた。


「メイラ!」

「はい!」


お互いに目で合図をしてメイラと別方向に跳ぶ。

グリン!と人形の顔は私のほうを向いてそのままこっちに巨大な手を振り回してきた。


懐かしいね、この感じ。


結構前にまだ巨大人形ちゃんだったころのクチナシに殴られたこともあったなぁ。

なんて無駄な事を考えてる場合じゃない。

なぜかあの人形は私を標的にしてるようだったからだ。

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