第252話 人形少女は全部出してみる

 気を持ち直したのか身体の隙間から血をまき散らしながら狂ったようにドスドスこちらを追いかけてくる人形から逃げる。


とにかく逃げる。

何でかは分かんないけどあの人形は間違いなく私を狙っている。


「まぁいいんだけどさ!」


タンク役はあんまり得意ではないけど最近は家族とか仲のいい人が増えた影響か、皆に被害が行くなら私のほうに来てくれればいいやと思ってる。


これよくないよなぁ…もともと自分の人形の身体になんの思い入れもないところがモロに出てる感じだ。

いや、それでいいのならほんとにいいのよ私は。



でもさぁ同時に私は死ぬわけにも行かないわけで…娘たちの事もできる事なら成長を見守ってあげたいし、私が死ぬと多分マオちゃんもついてきちゃうからね。


うぬぼれとかそう言うんじゃなくて…私ならそうするなぁってか約束だからね。

まぁだからみんなを守りたいけど、なるべく死にたくはない。


なんというか最初はひたすらに死にたくない、生きたいって思ってたのに随分と遠くまで来ちゃった気がする。


でも今の私はきっと前世を加えても今が一番幸せな私だから。


「そういうわけでいい加減諦めてくれると嬉しいんだけどな!」


この世界に来てからここまでアグレッシブに動いたことは無いんじゃないか?というほど今動いてる。

気分はパルクールの選手だ。

着てるドレスも汚れるし…後でマオちゃんに怒られないだろうか。


そうこうしてしばらく逃げていたところでクチナシから合図があったので、そのままUターンして人形に向き直る。


「──────!!」

「クチナシ!いいよー!」


そう叫ぶとどこからともなく四方八方から真っ白な糸が現れ、人形の身体に巻き付いた。

メイラの棘はすぐに無力化されていたけど、この糸は大丈夫なの?どういう理屈なんだろう?


「マスターの神性を帯びている糸なので。さすがに神の力に耐性は無いようですね」

「ほぇ~」


相変わらず器用な子だなぁ~。

感心しているとどこにいるのかは見えないけれどクチナシのじとっとした視線を感じた気がした。


ふっ…どうやらまた「マスターの力なのですが…」的な事を言いたいらしい。


どれだけ言われてもそんなものは知らない。

クチナシが全部やってくれるからいいのだ。


…もし本当に将来あの子に裏切られたらヤバそうなので近いうちにクチナシの好物のハンバーグを献上してあげようと思った。


作るのはマオちゃんだけどね。

なんとなく前世を思い出して食べたくなったのを、ふわっとマオちゃんにどういう物かを教えたら作ってくれたのだ。

出来たお嫁さんだよ…可愛いし、料理できるし、柔らかいし、可愛いし、優しいし、可愛いし最強じゃんね?


「っ!マスター…!」

「ん?」


クチナシの焦ったような声にトリップ仕掛けていた思考を慌てて引き戻してみると…なんと少しずつだが人形がクチナシの糸を引きちぎりながら動き出していたのだ。


「うおっ…すごいなぁ」

「こんなはずは…でも…!」


悔しそうなクチナシの声に連動するようにして闇の中から這いずりだすように顔の無い人形が無数に現れた。

どっちだ!あの人形たちはどっちの陣営だ!わかりにくいぞ!


闇から出てきた人形たちは大きな人形にしがみつくようにして何とか動きを止めようと頑張っている。

という事はどうやらこっちの味方らしい。

でもあまり長く持ちそうには見えない。


「うーん…やっぱもう一か八かやってみるしかないよね」


カオススフィア…ではなくカオスブラスターをぶつけてみよう。


「クチナシ!カオスブラスター使ってみるから一直線上にいるならちゃんと逃げておくんだよ!」

「しかしマスター…」


「ま、やるだけやってみよう。どうせ他にいい手は思い浮かばないしね」

「…わかりました。サポートはお任せを」


「うん~よろしく~。よし!」


両手を叩いて気合を入れ、右手を大きな人形に向けて構える。

久しぶりにやるから失敗しないように気を付けないとね。

ま!そんな難しい魔法じゃないから失敗のしようがないんだけどさ。


「地水火風、光に闇!全てを混ぜ合わせて一つに!そしてそのまま~ぶっ放す!オリジナル魔法!カオス…ブラスターーーーーーーーー!!!!」


ありとあらゆる色が混ざり合った黒が、一本の柱となって大きな人形に直撃する。

手ごたえは…ない。

やっぱりあの人形に触れる直前で霧散してしまってる感じがする。


「いえ…マスター、わずかですが魔法が届いています」

「おお!ほんとに?」


「ええ、間違いありません。ほとんど防がれてますがわずかに通っています。相変わらずマスターの魔法は無茶苦茶ですね」

「そっか~じゃあ…限界までやってみようか」


わずかでも通っているというのなら…やってみましょう限界まで!

やればできる!為せば成る!勢いでさぁレッツゴー!


「マスター!?」

「うおおおおおおおおおおお!!!」


私はカオスブラスターにさらなる魔力を込めた。


いや、込め続けた。

今までどれだけ戦っても私の魔力は減っていいところ総数の4割くらいだった。


だからここで自分がどこまでやれるのか試してみようじゃないか。

全てを出し切る私が、はたしてどこまで行けるのか…お人形さんと力比べといこうじゃないか!

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