第317話 神様といらないもの2
フィルマリアがゆらりと神刀を掲げて、振り下ろす。
数メートルはあるあまりにも長い刀身だが、重さを感じさせないほど軽やかにフィルマリアはそれを振り回し、また距離が離れていて刀身は届いていないにも関わらず、斬撃はレリズメルドまで届く。
レリズメルドは覚悟を決めて正面から斬撃を受け止める。
神刀の一撃に耐えきれなかった鱗が宙を舞い、白い闇の中に消えていく…しかし鱗は剥がれても本体には大したダメージは行っておらず、すかさず踏み込んで残った片腕の爪をフィルマリアに突き立てる…しかし。
「くっ…!」
「どうしたの?」
白銀の爪はフィルマリアに届かず、見えない壁があるかのように阻まれる。
だがレリズメルドの爪から伝わる感覚はそれが壁などではないと伝えてきており、やはり何かがいると確信を強めさせる。
「龍炎衝声撃(ドラゴンフレア)!!」
レリズメルドの口から放たれた炎の混じった衝撃波がフィルマリアに叩きつけられた。
赤を通り越して黒が混じるほどの高温に至った炎が衝撃波により拡散され広範囲を焼き尽くす。
この一撃はレリズメルドが隠し持っていた力の一つであり、ともすればフィルマリアを倒すことのできる
可能性があるかもしれない…それほどの強力な一撃だった。
だが結果としては先ほどの爪と同じようにフィルマリアには届かずに何かがそれを阻んでいた。
「熱そうな炎…この中に飛び込めばさぞ苦しんで死ねるんだろうね。酷い人だ、友達にこんなものを吐きつけるなんて」
「…」
実際の所これはレリズメルドにとってあくまで手段の一つで追い詰められなければ使わないつもりだった。
フィルマリアの言っていたように想像を絶するほどの高温に炙られて死ぬことになるこの技は友に使うには憚られるためだ。
高温ですぐに死ねる者ならばそんな心配は無用なのだろうがフィルマリアはそうはいかない。
なまじ死ににくいために受けてしまえば文字通り死ぬまで苦しむことになる。
そんな技を今レリズメルドは躊躇せずに放った。
追い詰められてではない、ある目的があってのことであり…。
そう、そこにいる何かをあぶりだすために使ったのだ。
「あら…なるほど、これを狙ったんだね」
炎に炙られて真っ白な世界に漂う「何か」の輪郭がうっすらと浮かび上がる。
だが、それがなんなのかレリズメルドには全く分からなかった。
見たことの無いシルエットをしているそれはもちろん壁などではない。
大きく、歪な形をしており、真四角な部分があれば細長い物が無数に這い出しているように見える部分もある。
翼があるようにも見えるが左右で本数が違い、形も違う。
腕のような物もあるが数はやはり左右一対ではなく、何か粘り気のある液体のようなものがこぼれている。
うっすらとしか見えていない…見えていないからこそ異質で不気味だ。
姿を直接見せていないにもかかわらずレリズメルドの根源的な嫌悪感と恐怖心を奮い立たせていく。
だが銀の龍は怯まない。
気持ち悪く、吐きそうなほど怖くとも…背筋を伸ばして凛と立つ。
「何かがいることが分かったのなら…やりようはあるんだ。それが何かは分からんがやることは変わらない」
「ふふふ…」
ゆらりゆらりとおぼつかない足取りでフィルマリアは笑う。
上がった口角に引っ張られているのか頬に入った亀裂は少しづつ広がって行き、石膏のように崩れていく。
そして先ほどの動きを繰り返すように再び神刀を持ち上げ振り下ろす。
直線的なその攻撃を何度も受けるほどレリズメルドは鈍くはなく、最低限の動きで斬撃をすり抜けるとフィルマリアに攻撃を仕掛けた。
すでに謎の存在の輪郭は見えなくなっているが、おおよその大きさと位置は把握しており、回り込むようにして接近し手刀を構える。
人の知覚できるスピードを優に超えている手刀が銀色の軌跡となり、フィルマリアに襲い掛かる。
神刀は確かに強力な武器ではあるが、そのあまりにも長すぎる刀身が災いし小回りが利かない。
手刀の有効範囲にまで近づかれてしまったのならば、反応ができたとしても刀で受け止めると言った動作はとることができず、白銀の手刀はお返しとばかりにフィルマリアの片腕を切り落とした。
刀を握ったままの腕が白が広がる床に落ちて飲まれて消える。
「ふふふ…」
切断面から大量の血を流しながらもフィルマリアはそれに気づいていないかのようにゆらりゆらりと笑っている。
そんな様子に不気味な物を感じつつもレリズメルドは間髪入れずにその心臓を貫いた。
ほとんど抵抗を感じさせず、手刀はあっさりと胸を貫通した。
「終わりだ、フィルマリア」
腕を引きぬき、ぎゅっとレリズメルドはフィルマリアの身体を抱きしめた。
ドクドクと流れ出る血が銀の龍を汚していく。
たとえ胸を貫いたとしてもフィルマリアには致命傷にはならない。
しかし胸を貫くと同時にレリズメルドはありったけの魔力を流し込み、内側からその身体を破壊し尽くした。
偶然では生還することも構わないような徹底的な破壊。
実にあっけない幕引きだが、それが事実で…すべては終わった。
──そのはずだった。
「…?」
それはわずかな違和感。
抱きしめたフィルマリアの身体を、レリズメルドは何かが違うと感じた。
記憶に残っている感覚とほんの少しだけ一致しない。
身体の柔らかさ?匂い?体温?もしくはそれ以外か…とにかく何かが違うと感じたのだ。
しかしそれは考えてみれば当然のことのはずで…レリズメルドが最後にフィルマリアに会ったのはもはや数えるのも億劫なほどの常識外れの時間の前だ。
完全に一致するほうがおかしい…そのはずなのに「違う」とレリズメルドの中の何かが猛烈に警鐘を鳴らし始めた。
「っ!」
レリズメルドは自らの直感を信じ、フィルマリアから離れようとしたがいつの間にかフィルマリア自信が逃がさないとばかりにしがみついてきて離れられない。
「ふふふ…」
不気味な笑い声と共にビシッ…ビシッ…と何かに亀裂が入っていくような音がする。
いやそれだけではない。
巨大な質量を持つ何かが勢いよく振り下ろされるようなそんな音が同時に聞こえてきて…。
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