第362話 人形少女は並び立つ
レイリ…可愛らしい名前だ。
ただ一つ言うのならわざわざ名前に「レイ」という文字を入れている辺りに性格の捻じれ具合を感じる。
「言っておきますが「リ」の部分はおそらくあなたから持っていかれてますよ」
「え!?ほんとに!?」
マリアさんの言葉に戦慄しながら恐る恐るマナギスさんを見ると「うんうん」と頷いていた。
恐ろしい事しないでほしい。
「なんでそんな気味の悪い事するのさ。なんなのその女の子」
「我ながらいい命名が出来たと思うんだけどなぁ…。まぁいいや、聞いておくれ。リリちゃんには前に話したよね?私の悲願、私たち人をさらなる高みに連れて行ってくれるパペット…そのプロトタイプだ」
マナギスさんの悲願…そんな話していただろうか?何も覚えていない。
記憶が摩耗しない私だがあんまりにも興味ない事柄はそもそも記憶していないのだ。
というかなるほど…人形ちゃんなのね、あの子。
まさかそれだけで勝手に私の名前を取られたの?納得いかないんだが?そもそもだよ?レイリなんて名前、まるで私とレイの子供みたいじゃないか。
いや仮に私とあの子の間に子供がいたとしてもそんな恥ずかしい名づけしないよ今時!てか問題はそこじゃない。
この子の名前をマオちゃんに聞かれたらどうなるのかが怖いのだ私は。
レイという存在をマオちゃんはなんとなくは知っているはずだけど名前はまでは知らないはずだ。
ただ…間違いなくマオちゃんのセンサーに引っかかる。
そして笑顔で問い詰められるのだ。
ひぃぃぃいいいいいい!ダメだ、何か事が起こる前にあの人形ちゃんをスクラップにしなくてはならない。
「とりあえずぶっ壊してオーケー?」
「ダメだね。というかもう少し優しくしてあげて欲しいな。レイリはリリちゃんの妹と言っても過言じゃないんだよ?」
「んー?」
マナギスさんが妙に色っぽい動作でレイリの頬を指でなぞる。
レイリは表情はおろ身じろぎ一つせずどこを見ているのかすら分からない瞳をでぼーっと景色を映している。
私の妹?妹ねぇ…?
「この子はねリリちゃん。君とほとんど同じ製法で作られているんだ。えーとなんだっけ?ま…魔血神樹だ。知ってるでしょう?」
「はぁ…まぁた出たよその名前」
初めてこの身体の自由を手に入れたときにかなり念入りに消したはずなのにたまに出てくるその名前。
今回もどうやらその絡みらしい。
「ふふふ。私のところに流れ着いた子の中にね?その魔血神樹から君の設計図を盗み出していたのがいたんだよ!運命だよねこれは。心が震えるという現象を実感したよね。いやぁ嫉妬を覚えるほどに素晴らしいものだったよあの資料は。人の執念というものは凄いねほんとに!ねーねー君を作った男がどういう人だったか知ってる?」
「…忌々しいほどに知ってるよ」
思い出したくもないほどに不快なゴミカスの顔が脳裏に浮かぶ…いや浮かばない。
正確には浮かんではいるけど…あれ?今浮かんでるこの顔の奴が初代ゴミクソ野郎だっけ…?いや…こいつは三代目の気がする…?あれれ?じゃあこっちは…んん?こっちが三代目…?じゃあさっきのは?
ごめんなさい、よく覚えてませんでした。
記憶が摩耗しないって気のせいなんじゃないかと思いはじめてるよ私は。
「ふふふふ!だよねだよねぇ!いやぁ凄いよねぇ…それこそ嫉妬と虚栄心。実力に反比例したプライドの高さと他人に対する妬み嫉み。それだけの小物も小物のはずなのに彼はそれを突き詰め遂には君という素晴らしい作品を作り上げた!あはははははは!ねぇやっぱり人は皆やればできるんだよ…っとまぁそれはひとまず置いておいて、ね?リリちゃんの妹だと言っても過言ではないでしょう?」
「まぁ確かに」
同型機という事ならまぁ妹だと言ってもいいのかもしれない。
ただ私の妹はクチナシだ。
それを踏み荒らしてくるマナギスさんは死ねボケと思うけれど、あのレイリという子には罪がない…のかは分かんないけど…まぁ「お前なんか妹じゃない!」と頭ごなしに否定するほどでもない。
「だったらほら、壊すなんて言わないで仲良くしてあげてよ」
「うーん」
向こうが仲良くしたいというのなら受け入れるのもまんざらではないけれど、レイリは見ている限り自意識があるのかかなり微妙なところだ。
マナギスさんの完全な操り人形だというのなら…解体するしかない。
はてさて一体そこら辺はどうなっているのか…私がなんとなく悩んでいると隣にいたマリアさんが一歩前に出た。
「マリアさん?」
「私の記憶違いでなければリリは世界樹の枝を核とすることで完成を見ているはずです」
そう言えばあったねそんな設定。
我がことながら興味なさ過ぎて気にも留めていなかったよ。
「ふむ?」
「世界樹の枝などそう都合よく何本も残っているはずがない。ならばそのガラクタ人形は何で動いているのです?」
何故マリアさんがそんな事を聞くのか分からない。
重要な事なのだろうか?それは。
世界樹の枝がどれだけ貴重なものなのかはいまいちわからないけれど、実際にレイリは動いているのだからその枝が調達できたのか、他の代替品でも用意できているのでしょう。
で?それがどうしたのだと…。
そう軽く思っていたのだけど横目で伺ったマリアさんの顔は真剣そのものだ。
いつもの無表情とかではなくて真剣。
マリアさんにとってはそれだけ重要な事らしい。
「何で動いている?そんなの決まっているじゃないか。心だよ」
何言ってんだこいつ。
それが私の感想だった。
しかし発言した本人は実に楽しそうに笑っていた。
「そんな戯言を聞きたいのではありません。何で動いているのか答えなさい」
「あははは、神様はこれだから…だいたいわかってて聞いてるでしょ?でもどう聞かれてもやっぱりレイリは心で動いているんだよ。誰かを助けたいと願った純粋で眩しくて健気な少女の心さ」
ギリっとマリアさんの口から歯を食いしばるような音がした。
流石に私でも理解できた。
レイリが何で動いているのか、どうしてマリアさんがそこに拘るのか。
つまりはそう言う事なのだろう。
レイリは…レイの欠片で動いているのだ。
「世界樹の枝なんてもはや神話にしか語られない壮大なものに人一人の思いが匹敵するんだ。あぁ…なんて素敵なんだ」
ザクザクとマリアさんが地面を踏み鳴らしながら進んでいく。
その手にはいつの間にか刀が握られていて…。
「むむむ、やる気かな神様?」
「やる気も何も私の中にあなたを殺す以外の選択肢なんて最初からないのですよ」
「物騒だなぁ。でもね私も実はそのつもりなんだ。レイリの性能テストをしたくてさ」
「先ほどは無様を晒して逃げたようですが?」
「のんのん。さっきのは緊急避難…今はその必要はないしレイリの魂の補給も十分すぎるほどに終わっている。人の英知と想いの結晶…それが神様を越えるという事を証明しようじゃないか」
「ならば私はそんなくだらない人の全てを否定し踏みつぶしましょう。思い知るがいい、自分達がどれだけ思い上がっているのか…この世界に沸いた害虫がいかに存在価値がないのか」
なんだか二人で盛り上がってるなぁ。
ここは後ろに控えておいて「ふっ、ここはあいつに任せるとするか…」ムーブでもしようかな。
なーんて、わざわざこの状況でそんなことするわけないじゃんね。
私はマリアさんの隣に並び立ってナイフを構える。
「何のつもりですか」
「いやぁほら、私もあの人には思うところがあるからさ?また逃げられても面倒だし、ここは一時休戦という事で、ね?」
「…」
不服そうな視線が私にこれでもかと突き刺さる。
おそらくマリアさんはこの場で私を切り捨てるか、それともマナギスさんの方を優先するか悩んでいるのであろう。
さぁどうするマリアさん!
「…途中で首を落とされても文句は受け付けませんよ」
「あいあい」
どうやら一時休戦が受理されたようだ。
よかったよかった。
とか思っていたら鋭い一閃が飛んできたからあわてて避けた。
油断ならねぇ…!しかし追撃はこないので一応は大丈夫…なのかな?
「うふっ!うふふふふふふふ!!結局リリちゃんも来るのかぁ…ふふふふふ!まぁいいよ!ちょうどいいさ!ただ技術を丸パクリしただけと思われるのも癪だからね!私の作ったレイリが君にすら勝るところもついでに見せてあげよう!…【人形転身】」
にこにこと笑っていたマナギスさんが人形の糸が切れたかのようにぱたりと倒れた。
それとは逆にレイリが不気味な動きを始める。
全身をカタカタギーギーと鳴らしながらダンスでも踊っているかのように全身を動かしている。
そして動きが止まったかと思えばレイリは今までの無表情が嘘のような無邪気な笑顔を浮かべて顔を上げた。
「いいね!いい仕上がりだ!動きに問題もない!さぁ遊ぼう、リリちゃんに神様!私の夢への第一歩…その障害となるのなら、是非とも乗り越えさせておくれよ!」
レイリはそう言ってマナギスさんの声で笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます