第30話勇者少年は悪魔と戦う
勇者レクトと聖女フリメラが悪魔メイラと戦闘を始めて数分…戦況は大きく傾いていた、否ほとんど決着はついていた。
「う、あ…ぅぅ…?」
地面に血まみれになり膝をついているのはメイラだった。
「どうなることかと思いましたが…こちらの手がことごとく有効なのは幸いですね」
「うん…」
「うぅぅ…あぁあああああああ!」
絶叫と共に立ち上がったメイラが血に濡れた爪を突き出しレクトを襲う。
レクトは冷静に自身の持つ魔を討つ能力を持った聖剣を構え、刃の部分をあてないように迎え撃つ。
そうしてメイラの手が聖剣に触れた瞬間、メイラの腕は弾かれ、血を噴き出してダメージを受ける。
「あぐぅ…あぁ、う」
「どうやら本当に悪魔みたいですね、聖なる力にとても脆い」
フリメラがその首に下げた聖なる力が込められたネックレスを握りしめ近づけるだけでメイラの身体は少しづつ崩れていく。
フリメラは神都で産まれた聖女であり、聖なる力の扱い方や魔の者の対処などに関して右に出る者はいないほどの実力を持っている。
そしてレクトも勇者としての実績や実力から聖剣を託されており、二人が負ける理由は一切ないと二人自身がこの数分の戦闘で確信していた。
そうなってくると二人が次に思うことはメイラをどうするかだった。
「ね、ねぇフリメラ、一応確認しておくけれど…この子悪魔なんかじゃなかったよ…ね?」
「はい、なにか不思議な感じはしましたけれど人間でした」
「それじゃあこの悪魔はよく似た別人…とかじゃないよね…」
「そうであってほしいですが…」
二人の視線が教会の真ん中に描かれた血で埋もれかけた陣に向けられた。
「調べてみる必要があるとは思いますが…あの陣から尋常じゃない邪悪な魔力を感じます…おそらくあれが原因で…」
「そんな酷いことってないだろ…なんとか戻せないの…?」
「前例がない事件です、術者も全員殺されているようですし…」
「どうすれば…」
「残念ですが殺すしかないでしょう」
ザナドが神聖騎士団を引き連れて戻って来た。
しかしザナドのその言葉はレクトには受け入れられないものだった。
「待ってください!殺すって…彼女は」
「人喰いの悪魔、です」
「それでも彼女は人間です!帰りを待ってる家族だっているんですよ!?」
「ええそうですね。しかしすでに違います」
「教主様!それではあまりに…救いがないではないですか!」
フリメラも声を上げた。
しかしザナドは表情を一切変えず首を横に振った。
「もはや彼女を救うと言っている場合ではありません。彼女は人を喰うのです、それが外に解き放たれたらどうなるか…想像できないはずはないでしょう?」
「でも…!」
ガリガリガリガリ
ザナドと言い争うレクトの背後で、そんな音が聞こえた。
振り向くとメイラが地面をゆっくりゆっくりとひっかいている。
それでもかなりの力をこめているらしく、指と爪の間から血が流れ落ち、地面に引っかき傷のような血の跡を残していた。
「なんだ…?お前たち急ぎなさい、彼女を眠らせてあげるのです」
ザナドの指示で背後にいた神聖騎士達が動き出す。
もちろん悪魔の弱点など知り尽くしているザナドは神聖騎士達に相応の武装をさせており、全てここで決着がつく…はずだった。
「あはっ…!」
メイラが両腕を勢いよく振るった。
その指から流れ落ちていた血が辺りに飛び散り、濡らしていく。
そして…その血に濡れた場所から突然、真っ赤に錆びた大きな棘が隆起した。
「な、なんだ!?」
「うわあああああ!?」
その棘は人を貫くには充分の大きさがあり、神聖騎士たちをその装備ごと貫いた。
また、被害はそれだけにとどまらない。
串刺しにされた騎士から流れ落ちた血からも棘が発生したのだ。
最初は数人の被害だったにも関わらず、連鎖するように棘が広がっていき被害を広げていく。
「くっ…!これは…だんだんと悪魔としての力を使いこなしている?」
棘をかわしながらザナドは内心笑っていた。
(殺すつもりでしたがこの悪魔がどれほどのものかやはり測りたくなってきましたねぇ…さて…)
そんな中、レクトとフリメラは突然の出来事に不意をつかれ危険な状態に追い込まれていた。
「棘の浸食が早すぎる…!このままじゃ…」
「レクトさん!前!」
レクトの死角から棘がせまる。
「しまっ…!」
棘がレクトの胸に刺さろうとしたその瞬間、グイっとレクトの身体を何者かが後ろに引っ張った。
「いいタイミングだったみたいだなぁ!」
「アグス!」
「ナイスですアグス!」
「だろぉ?ところでどういう状況だこれ?」
「説明は後です!とりあえず救助を!」
三人は頷き合い、生き残っている人を助けようと動き出そうとした…しかし三人が見たものは…。
「うふふふ…おいしぃ…」
棘にささった騎士たちの死体を、とても美味しそうにほおばっていくメイラの姿だった。
ぶちぶちぶち
くちゃくちゃ
肉を引きちぎる音、肉を咀嚼する音、骨を砕く音。
どうなっているのかメイラが口にした部位はサイズに関係なくその口に収められ、ものすごい勢いで一人の人間をその胃袋に収めていく。
明らかに胃袋の容量などといったものを無視しているが全て関係ないとばかりに次の食事を始める。
そして事態は最悪な方向に向かっていく。
棘がその浸食をついに教会の外に広げたのだ。
「まずい!棘が外に!」
「こうなったらもう本体を止めるしか…」
「でもこうも棘があっちゃああそこまで行けないぞ!」
「とにかく棘を止めるんだ!」
三人は教会の外に飛び出し、すでに教会から数メートル先にまで現れた棘を見た。
その上にいつの間にかメイアが立っていた。
「いつのまに!?」
「まさか棘の間を瞬間移動できるんですか!?」
メイアはレクト達を一瞥すると背中の翼を広げ、闇夜に飛び立った。
人喰いの悪魔が、神都に解き放たれたのだった。
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