第70話舞台に選ばれた者たち

≪メイラside≫


リリさんと皇帝さんの戦いが始まった後、私は残された皇帝さんの配下の騎士の人たちに武器を向けられていた。


「あの…?」


騎士の人たちは私の事をまるで親の仇の様に睨みつけ、今にも襲い掛かってきそうな雰囲気で少し怖い。


「よくも同胞を喰ったな悪魔め!」

「え?」


一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、少し考えて先ほど食べていいと言われたリリさんに首をさっくりやられてしまった騎士の人の事かなと思い至った。


「ああ…え~と…」

「お前元は人間だと聞いた。それなのに人を喰うことを何とも思わないのか!」


あるかと聞かれればある。

リリさんの言葉で吹っ切れたけれど、それでもまだ少し罪悪感も感じる。だけど…それでも何も知らない彼らにそんなことを言われる筋合いはないし、憎々しく睨まれるいわれもない気がするのです。

それにそもそもあなた達の同胞さんが皇帝さんの意に反して勝手な行動を起こしてリリさんにさっくりやられて、しかも食べていいよとのお墨付きをもらったので私が食べたのであって責められる部分はないと思うのですよ。


「私は食べていいと言われたので食べただけです。…美味しかったですよ?」

「貴様!!」

「はい、そこまでにしておきましょう」


騎士が私に攻撃をしようとした時、教主様が間に入った。


「落ち着きましょう。皇帝陛下は客人に手を出すなと言われていたはずです。これは命令違反になってしまうのではないですか?」

「人間が悪魔を庇うつもりか?」


「そういうわけではありません。ただあなた達の立場も危うくなるのではないかと…」

「正義は我らだ!陛下もわかってくださる!」


教主様の言葉にほとんどの騎士は気まずそうに矛を収めたけれど一人だけやけに噛みついてくる人がいる。


「はぁ…そういう思い込みが原因で先ほどの騎士は我が神に制裁を受けたのではありませんか。そういえば彼女たちが来る前に彼を諭していたのはあなたでしたね?…もしやとは思いますが皇帝陛下に叛意でも…?」

「なっ…!ふざけるな!そんなはずないだろうが…!!」


恨めし気に教主様を睨む騎士だったが、後方から一際目立つ鎧をまとった男性が現れると雰囲気を一変させ姿勢を正した。


「騒がしいぞお前たち。陛下の命令は絶対、勝手な判断で動くなど我らのすることではない」


周りの騎士たちもその男性に一斉に姿勢を正し敬礼する。

どうやらかなり偉い人らしいですかね?


「彼はジラウド卿…この国において皇帝陛下の次に偉い方です」

「なるほど」


教主様が小声で耳打ちしてくれた。

確かに雰囲気がすごい人だ…この国で偉いという事はそれだけ強いという事で、私が今戦っても殺されそうな気がする感じですね。

ただ私も昨夜の事で自分の中にある力というものを自覚して、その結果意外に私は戦えそうだとも思っていて…それに明らかに強そうだとわかるからなのか、あのジラウドとか言う人はすごく美味しそうなので…おっといけないいけない。


「そして、これは陛下の意志だ」


ジラウドが先ほどまで噛みついてきていた騎士の首を突如はねた。

真っ赤な血が首から噴き出し地面を濡らしていく。

なんでいきなりそんなことになったのかはよくわからないけれど、それよりも血が無駄になって勿体ないと感じ…ない?あれ?不思議とまったくおいしそうだと思わない。


「失礼、客人たちよ。見苦しいところを見せたな」

「それは構いませんが…ふむ?まさか彼は?」


「ああ、陛下が悪魔神に浸食された影響で悪魔に乗っ取られかけていた軟弱ものだ」


私にはよくわからない会話だけれど、教主様達には理解できているらしい。


「貴様たちも肝に銘じておけ。悪魔に唆される者など我らには不要だと」

「「「はっ!!!!!」」」


騎士達が一斉に敬礼をして、切り殺された男の死体の片づけを始めた。

私が食べてあげれば早いかもしれないですが…悪魔に乗っ取られかけてたとか言ってましたけどそのせいか食欲が微塵もわかないのでやめておきます。


「なんだか変わりましたねメイラ」

「はい?」


「いや、あなたがまさかこの光景を見て顔色一つ変えなくなるとは思いませんでしたから」

「ああ…確かに変わってしまったのかもしれませんね」


教主様に言われて気づいたけれど確かに私は今の光景を何とも思わなかった。

それは確かに私の中で変化が起こってしまったという事だろう…悪魔になってしまったからなのかそれとも…。

その時だった。

突如として私の胸がドクンと跳ねたかと思うと私の身体から何かが無理やり引きづり出されるかのような感覚が襲ってきた。


「うぅ…!!?」

「メイラ?どうしたのですかメイラ!」


声も出せないほどの強烈なその感覚に耐えきれなくなりうずくまってしまう。

私の中の何かを引きずり出そうと力が加わっている方向を見ると目の前に闇が広がっていて、そこから透けているような赤い糸が伸びていて、それが私の中の何かを引きずりだそうとしているようだった。

その瞬間、この現象を起こしている人が誰なのかを理解して…かなり耐えがたい苦痛なのにも関わらず、私の心は不思議と嬉しいという気持ちでいっぱいだった。

だって私の神様が…私の事を必要としてくれているのだから…!!!


そう思うと不思議と苦痛は無くなって…そのまま糸は闇の中に消えていった。


「・・・」

「大丈夫なのですか?」


「ええ、何ともありません」


私の肩に手をかけた教主様を見る。

この人も何をしたいのかさっぱりわからないけれど…リリさんに何か…信仰心のようなものを持っているのは感覚でわかる。

だけどあの人は教主様でなく私を選んでくれた…それが少しだけ嬉しかった。


――――――――


≪アルギナside≫


リリがいないタイミングを見計らって私は再びレザとべリアに声をかけた。

クラムソラードからの情報により、奴の召喚された原点を知ることで対策ができるかもしれないというかすかな希望を手繰り寄せるために二人にも協力をしてもらおうと思ったためだ。

だが、


「すみませんアルギナ様…俺たちはもうリリに敵対は出来ません」

「・・・」


二人からは協力はできないと言われてしまった。

確かに前の戦いで二人はリリにかなりむごい仕打ちを受けてしまった。

目の前に立つ者になぜか恐怖心を抱かせるあのパペットに再び立ち向かえと言うのは酷かもしれない。

だが今、私には一人でも多くの協力者が必要でもあった。

だから私は二人に頭を下げる。


「頼む…お前達しか頼れる者がいないんだ!どうか恐怖に打ち勝ち、手をかしてはくれないか」


私のその頼みに…べリアが泣き崩れた。


「違う…違うんです…!」


座り込んだべリアの瞳から涙がこぼれ落ちる。


「どうしたんだ…?」


いくらなんでも異常な様子だった。

べリアは根は素直な子だったが、その勝気な性格が多少は問題視されるくらいには負けん気の強い子だったにもかかわらず…今は恐怖におびえる小さな子供のように泣きじゃくっていた。


「アルギナ様は無事だったんですね…それが分かっただけでも俺たちには僥倖です」


レザが何かを諦めたような表情でべリアの肩を抱く。


「まってくれ二人とも…本当にどうしたと言うんだ…?」


ぐいっとレザが自らの服を少しだけはだけさせ、首を見せてきた。

そこに何か紐のようなもので絞められたかのような跡があった。


「それは…なんだ…」

「…アルギナ様には見えないと思いますけど…俺たちにはここに常に赤い糸が巻き付いているように見えるんです」


レザが少しだけべリアの服もはだけさせ首元を露出させた。

そこにはレザと同じような跡があった。


「この糸から伝わってくるの…!今度リリに逆らったら…私はきっとあの時よりもひどい目にあう…!そんなの耐えられない…!」


自らの身体を抱くようにして震えだすべリアをレザが強く抱きしめた。


「大丈夫だ、べリア。俺も一緒だから…」

「うん…うん…!!」


そんな二人を私は震える手を握りしめながら見ていた。

まさか…あの時に何かされたというのか…あいつは本当になんなんだ…!

絶対にあいつを何とかしなければ…私が今一度そう決意した時だった。

二人が急に胸を押さえて倒れたのだ。


「おい!レザ!べリア!?」

「うぐぁぁ…!これは…!」

「やめて…!もう許して…リリ…!」


「リリが何かしているのか!?くっ…二人をクラムソラードに見せるしか…」


私が二人に触れようとすると、なにかに阻まれ手が弾かれてしまった。


「っ!なんだこれは…!!」


そのまま苦痛に顔を歪めた二人は、苦しみの中で意識を失った。

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