第52話人形少女は抱き着きたい
「こんな快適ならマオちゃんも連れてきてあげればよかったな~」
闇の世界で過ごすこと数十分、完全にリラックスモードに入ってしまった私はマオちゃんの優しい笑顔を思い浮かべた。
「魔王様…話によると今忙しい感じなんですよね?」
「うん~なんかいろいろ手続しないといけないことがあるからって~無理してないといいなぁ」
なんだかそんな事は表に出さず抱え込んでしまいそうだから不安なんだよね~マオちゃんにはいつも元気でいてもらわないと困るし…後でここに招待しようかな?そうしよう!
そんなことを考えた途端に私を抱えている人形の片腕がゆっくりと動き…闇を貫いた。
ずっぽりと腕が空間に刺さって見えなくなっている。
「何してるの?」
問いかけてはみるもののもちろん返答はなく…代わりに腕が引き戻されていく。そして闇の中から引き抜かれたその手には…なんとマオちゃんが握られていた。
「あらマオちゃん!」
「…な、なんだリリの仕業か…すっごくびっくりしちゃって叫んじゃったよ…」
もしかして私が考えちゃったから、それをくみ取ってマオちゃんを掴んで連れてきちゃったのだろうか?
この子、私のためにいろいろしてくれるみたいだけれど…ちょっとだけ常識が身についていない感じだね。おいおい教えていったほうがいいかもしれない。
ただマオちゃんを連れてきたことはとてもナイスだよ!
「ごめんね~マオちゃん。うちの子が」
「うちの子…あぁこの前もいたねこの大きな人形。リリのお友達?」
「さぁ…なんなんだろうね?」
聞いてみたいところだけれど口がないからね…喋れないのよ。
「それと…メイラさんだったよね?」
「あ、はい!メイラです!魔王様!」
「うん、よろしく」
「よろしくおねがいしまぁすぅ!」
妙に気合を入れて挨拶をするメイラが少しおかしかった。
「ねーねーマオちゃん、このまま少しお茶しようよ~」
「いや結構忙しいんだよ?私」
「働きすぎは良くないよ~ねーね~」
人形の大きな掌の上でマオちゃんに抱き着いてすりすりしながらおねだり攻撃をしてみる。
「…そうだね、じゃあちょっとだけ」
「わーい!メイラお茶とお菓子お願い!」
「かしこまりです!」
少しの間マオちゃんとのお茶を楽しんだ。
そしてお茶を飲み終えるとここぞとばかりにマオちゃんのお膝に頭をのせて膝枕してもらった。
「食べてすぐ横になるのはいけないんだよ」
「私にそんな法則は適用されません!」
「まったくもう」
そう言いながらも頭を優しく撫でくれれるマオちゃんはさすがです!気持ちよくてこのまま寝てしまいそう。
「寝ちゃだめだよ。そろそろ仕事に戻らないとだし」
「え~」
ぎゅうっとマオちゃんのお腹にしがみついていかないでアピール。
いつも通りのいい匂いと、ほのかな体温と絶妙な柔らかさが私の五感全てに気持ちい刺激を与えてくれる。
「こら、お腹にあんまり圧力かけないの」
「あっと…ごめん」
「大切にしたいからね…リリも優しくしてあげて」
「うん」
今度は優しく、そっと抱きしめた。
「はわわわわわわわ…」
少し離れたところでメイラが顔を赤くして挙動不審になっていたけれど気にしない。それよりもこの時間をゆったりと過ごすことのほうが大事なのだ。
「リリそろそろ離して、本当に戻らないと」
「…マオちゃん無理しちゃだめだよ?ちゃんとマオちゃんも優しくしてあげないと嫌だからね」
「うん…そうだね。ありがとう」
名残惜しかったけれど人形に頼んでマオちゃんを元の場所に送り届けてもらった。
「ん~!さて!じゃあこっちもおうち探し続けますか~」
「はわわわわわわわ…」
「メイラ?」
「ん!?あ、はい!すみません!」
「変なの、ほら行くよ~今度は人間の町の近くとか行ってみよう」
そっちのほうがメイラも「ご飯」を食べやすくていいかもしれない。
「はい、わかりました」
「じゃあ人形ちゃん、私達戻るからね」
心なしか少しだけ悲しい表情をしている気がする人形ちゃん。
「また来るから、ね?」
そう言うと人形ちゃんはしぶしぶといった感じではあるが私たちをここに入ってきた穴まで手を伸ばして運んでくれたのだった。
「んじゃあここからは空間移動で…ん?」
ひらりと私の服に引っかかっていたのかハンカチが落ちた。
「これってマオちゃんのかな?」
「私の物ではないのでたぶん?」
「ありゃ~私ちょっと届けてくるから先に行っててよ~」
「え、待ってますよ?」
「いいから、いいから」
むぎゅっと無理やりメイラを空間に押し込んで目的地まで移動させた。
いや、別にこれを口実にもう少しマオちゃんに甘えようなんて考えてないよ?ほんとに。
そんなわけで私はスキップしながらマオちゃんの元に向かったのだった。
────────
「はぁ…リリさんしばらく戻ってきそうにないなぁ~」
何処かもよくわからない道端で座ってリリさんを待つ。
近くに人間の気配はないけれど…風に乗って私の食欲を刺激する香りが漂ってくる。
「…どうしよう」
「困りごとですか?」
突如背後から声をかけられ、慌てて飛びのく。
「そんなに驚かれるとは思いませんでした」
優しく微笑むその人は、とても見覚えのある人で…。
「教主様…?」
「おや、まだそう呼んでくれるんですね。お久しぶりですねメイラ」
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