第118話 人形少女は子育てする

 真っ赤に染まった出産劇から早くも三ヵ月。

私たちは未だにコウちゃんのお城に居座っていた。

というのもまぁ色々あり…というかコウちゃんがいるといろいろ安心なので魔王城のほうはレザたちにうまくやっておいてと言っておいたから多分平気なはず(一応マオちゃんが起き上がれるときは帰って少しだけお仕事をしている)。


産まれた子供…私とマオちゃんの「娘」は私たちにより「リフィル」と命名された。

何でも魔王という役職はめったにない事だけど子が産まれた場合には命名ルールがあるらしく、それに則ると「アルリフィル」になるそうなのだけど意外にもマオちゃんがかなり嫌がった。

でも私が綺麗な響きだしいいかも!と言ったのをきっかけでリフィルの部分だけいただくことにした。


そんなわけでリフィルなのだけれどもう髪もふさふさだしおめめもくりくりでほっぺはぷにぷにしててまぁ可愛い事可愛い事。

特筆する点と言えば髪色がすっごい不思議で基本は黒なのだけれどそこに白赤青金といろんな色がメッシュみたいに混じっている奇々怪々な髪色だ。

瞳はマオちゃんと同じ色なのだけれど私の瞳みたいにガラス玉のような光沢がある…いやまさかそんなわけは無いだろうとは思うのだけれど触って確かめるわけにも行かないので謎のままだ。


ちなみにだけど種族はよくわからない。私の人形的要素は瞳がそれっぽいと言うだけであとは髪色の黒くらいしかなく、その他のパーツはマオちゃんに似ている気がするけれど魔族的特徴は一切ないので人間っぽい…けれど人間なのかというと「そんな髪色の人間がいるか。瞳もおかしいし」とコウちゃんは言っていた。

別に気にしなくても良くない?と思っていたけれど寿命とか食べ物の問題もあるだろうと…なまじ種族がいっぱいいる世界も大変だなぁと今さらながら異世界的カルチャーショックを覚える今日この頃。


まぁでもただ可愛い可愛いとだけ言っていられるわけでもなくて…子供を育てるというのはそれはもう大変なことだとメイラからこれでもかと叩きこまれ、マオちゃんもあれだけ壮絶な出産だったものでなかなか疲れが抜けず、ほとんどベッドから起き上がれないので私が基本的に面倒を見ているのだけれど…。


「…」

「…」


我が愛娘リフィル、微動だにせず!

いやそりゃ生後数ヶ月なんてそんな動くわけではないだろうけれどそれにしても微動だにしない。

私が赤ちゃんベッドを覗き込んでも、そのまま抱きかかえてもひたすら無言で微動だにせず私をじっと見つめている。

しかもこれ誰に対しても同じような反応らしく…メイラもクチナシも、コウちゃんもアーちゃん(普通に無事だった)も様子を見に来たときに似たような反応をされたと言っていた。


唯一の例外はマオちゃんで、マオちゃんが母乳を上げたり、あやしたりしている時は…。


「あぶあぶば」

「今日はご機嫌だね~リフィル~よしよしよしよし~」


「あぶあばぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」

「いいこいいこ~」


超ご機嫌な我が娘。

これもしかしてあれか?私も母親だと認識されていないのか?そうなのか娘よ。


「あ、あの…リフィルさん…?」

「…」


私が話しかけたとたんカッ!と目を見開いて微動だにしなくなる娘。

心が折れそうです。


「恥ずかしいのかな?リフィル、この人はね私と同じであなたのお母さんなのよ~」

「あぶあぶ?」


くそぅ…楽しそうに会話してるぅ~…もはやどっちに嫉妬をしているのかさえ分からない。


「リリそんな顔しないで。リフィルは今いろいろと学んでる最中なだけだよ。ほら、おいで」

「うん…」


誘われるままに大きなベッドの上で三人で横になった。

マオちゃん、リフィル、私という位置でゴロンと寝っ転がる。


「ほらリフィル、リリお母さんだよ」

「あぶぶぶ…」


マオちゃんがリフィルのお腹をぽんぽんと叩きながら私のほうを指さす。

相変わらずそのガラス玉のような瞳はカッ!となっているが今度はめげずに人差し指をそっと近づけてみた。


「ちゅう…」

「あっ!マオちゃん見て!」

「見てるよ」


リフィルが小さな口で私の指に吸い付いた。

私はなんとなく嬉しくなって大いにはしゃいだところでマオちゃんに怒られた。

ちょっとだけ気落ちしていたところで吸われている指に何か硬い物が当たっているような違和感を感じた。


「ん?なんだこれ」

「どうかしたの?」

「あぶ?」


ちょっとごめんねとリフィルの口を開かせると歯茎の中央の下…そこに小さな歯のようなものがあった。

それを伝えるとマオちゃんも驚いたように口の中を覗き込んだ。


「え、もう?」

「うん。ほら」


「ほんとうだ…なんとなく成長はやいな~って思ってたけどやっぱりちょっと早いね」

「そうなんだ~うちの娘はやっぱり優秀だね~!」

「ぶぶ?」


「それは優秀というのかな?」


実は私もよくわかっていない。


「あ…ぶ…あ…」


なんか突然リフィルが震えだした。


「え…どうしたの?」

「口閉じたいんじゃない?」


「あ、そっか。ごめんね」


そっと口から指を引きぬいて閉じさせる。

すると…。


「えぼぼぼぼぼぼぼ」


盛大に我が娘がリバースした。


「ぎゃあああああああ!?」

「あら大変。リリちょっとお着替えとか取ってきて」


大慌てな私と冷静なマオちゃん。

なんだか出産を経てマオちゃんがすっごく頼もしく見えるようになった…そしてさらに可愛くというか綺麗になった。

そんなこんなで私たちの日々は流れていく。

子育て方面ではマオちゃんに敵わないなぁと思っていたけれど意外に私が役立つ場面もある。

どれだけいい子でも赤ちゃんだ、夜泣きとかもちろんあるわけで。

そうなるとここで普通に眠れるけれど眠る必要はない私が少しばかり相手をする。

さすがに母乳が…って時はマオちゃんを起こさないとだけれどそれ以外は私が対応できるので人形ボディに感謝である。

そして今日も泣き声が聞こえてきてそっと目を開ける。


「お~よしよし~…ってあれ?」


目の前にいるリフィルはスヤスヤと寝息をたてており夜泣きなどしていない。

しかし私の耳には確かに赤ちゃんの泣き声が聞こえていて不思議に思い辺りを見渡す。

どうやら部屋の外から聞こえているらしく、私は声のするほうに向かって歩いた。

その声は厨房から聞こえているようで扉を開いて中に入るとそこには泣きじゃくる赤ちゃんを抱えたクチナシが呆然と立っていた。

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