第233話 悪魔ヒーローは報告する
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようで、目を覚ますと先に起きていたレクトが腕立て伏せをしていたので視線を外して身を起こして衣服の乱れを整える。
「ん…そういえば擬態を解いたんだったな。服のサイズが合わん」
「男には戻らないの?」
僕の呟きで起きたことに気が付いたレクトが水を手渡してくれたので軽くのどを潤す。
「さっきも言ったがすぐには戻れんのだ。恥ずかしながら僕はほとほと魔法という物が苦手でね」
「なるほど…でもヒートって戦う時に炎を出してないか?」
「あれは魔法じゃないんだ。あれは僕の…何というか悪魔としての能力のようなもので魔法とは原理が違うんだ」
「そうなのか…なんかごめん」
気にするなと軽く手を振る。
僕が勝手にやったことだしレクトが気に病むことでもないだろう。
服は不格好だが裾をまくり上げでもすれば着れるし大丈夫だ。
「あーっと…ヒート、そういえば身体は大丈夫?」
「ん?」
「いや…昨日その…いろいろあったから」
一応確認してみるが特に異常を感じる場所は無かった。
「大丈夫みたいだ。まぁ膜もほとんどなかったしなぁ…普段から動きすぎたか?」
「あ~…戦いになったら俺よりも前に出て殴る蹴るしてるからねぇ…」
「だなぁ。あ、本当に初めてだったからな?」
「いや、そこは疑ってないよ」
「ならよかった」
悪魔としては若干侮られているような気がしなくもないが見栄を張っても仕方がない。
そもそも彼のようなタイプには「経験豊富ですぅ~」よりも「初めてだったの…」のほうが効くだろう。
いやそんなくだらない話は置いておいて、いつまでもダラダラしているわけにも行かないし皆にも心配をかけているだろうからとりあえず部屋を出ようということでレクトと二人で人の気配がするリビングのほうに向かい、入ると家の主であるマナギス女史以外の全員が集まっており、何故か僕らの姿を見た途端に妙な雰囲気が場に流れた。
フリメラとアグスは気まずそうに目を逸らし、母上はニコニコと嬉しそうに笑い、その膝の上のフォルスレネスは呆れたような表情で、最後にレイはあくびをしていた。
「どうしたんだい皆」
「いやお前がどうしたんだよ。なんで女になってんだ」
皆を代表してフォルスレネスがそんな事を聞いて来たので軽く説明をした。
勿論僕のあれやこれを話すわけはないので今までは男に擬態していたとかその程度だけ話したのだけどね。
「そうか…あーちなみにだがな」
フォルスレネスが自らの小さな耳をトントンと指で軽く叩いた。
なんだ?
レクトと二人でどうしたのかと首をかしげているとフォルスレネスは大きなため息を吐いた。
「この家、壁が薄くてな。お前ら二人のあれな声とか全部聞こえてたからな」
「おや、それは失礼した。うるさくしてしまったかな?」
隣のレクトが膝から崩れ落ちた。
どうしたのだろうか?
いや…待てよ?僕はそのような光景が主に母上や色欲のせいで日常的にあったから麻痺していたが本来はそういう行為を他人に知られるのは恥ずかしいのだ、たしか。
「あっは!うふふふふふふふふふ!私は嬉しいですよヒート。肉欲に溺れるというのはとても素晴らしい事です。本来なら子をなすという神聖な行為を快楽を得るために消費する背徳感…そして得られる極上の快楽…なんと素晴らしい事でしょう!」
正直初めてだったので快楽を得られたかはよく分からないのだけど…。
妙なスイッチが入ってしまっている母上はとりあえず放っておいてレクトがかなりダメージを負っているようなのでどれくらい声が聞こえていたのかを尋ねてみると、どうやら僕らの喘ぎ声のようなものとレクトの大声での告白が聞こえていたらしい。
「殺してくれ…」
地面に倒れてぶるぶると震えるレクトの背中をさする。
「いやいや、頑張って生きておくれよ」
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ!いいですねいいですね、とってもお似合いの二人じゃないですか。うふふふふふふふふふふ」
「お前…いつになくテンションがおかしいぞ」
フォルスレネスの言う通り、母上のテンションがかなりおかしい。
いつもは優しく微笑んでいる感じなのだが今日はもうこれでもかというほどニコニコしている。
「だって嬉しいじゃないですか~そんな気の無かった子供のような存在がようやく身を固められそうなのですから~うふふふふふ!」
「お、おう…なんだ意外と母性的なものがあったのかお前」
「失礼な。私をなんだと思っているのですかフォス様」
「頭ピンクの悪魔」
「その通りです。なので親子ど、」
「それ以上言うとぶっ殺すぞ」
「?」
母上とフォルスレネスの会話はよく分からないがこういう時は深く考えないほうがいいとは僕の持論だ。
「いえでも私、ちゃんとした知り合いの女性と一緒というのが経験無いのですよ~色欲も私と一緒というのは嫌がりますし…だからもしかしてヒートなら」
フォルスレネスは手に光るナイフのような物を握り、それを母上に突き付けた。
「ほんとに次は無いぞお前」
「はぁい、本当にフォス様の独占欲は強いですね~早く成長してくれないと禁欲もそろそろ限界ですよ私」
「ちっ、色ボケが」
「あっは!今さらじゃないですか」
母上はやさぐれた顔をしているフォルスレネスをニコニコとして抱きしめた。
喧嘩しているのかいちゃついてるのか…不思議な二人だと思った。
「くだらん話はここまでだ。勇者のガキ、お前にはいろいろと働いてもらうぞ」
「え…?」
気を持ち直し、母上の膝の上で偉そうにふんぞり返ったフォルスレネスがレクトに向けてそう言った。
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