第245話 人形少女は頭を抱える

 リフィルとアマリリスにしがみつかれながらも窓から外をちらりと覗くと確かに人影のようなものが遠くに見えた。

気配を辿ってみると、この屋敷をぐるっと囲むようにかなりの人数がいるみたい。

何やら物々しい雰囲気で全員武装している感じで…何というかかなりめんどくさそう。


「ん?なんか人間じゃないのも混じってる?」


気配がおかしい人型の何かがちらほらいる気もする。

なんなんだこの集団。


「リリちゃん気持ち悪いよぉ~なんとかしてよー!」

「こわい…」


リフィルは嫌悪感、アマリリスは恐怖感で私にヘルプを頼んでいるらしい。

いやぁでもどうすればいいのか…。


「こういう時はコウちゃんに相談だ!おーいコウちゃーん!」


いつだって頼りになるのは頼もしい友達だ。

さぁ現れよコウちゃん!そしてこの状況を何とかしておくれ!


「こーちゃん出掛けてるよ~。アマリと二人っきりで暇だったんだから!」

「なんてこった」


完全に詰んだ…もうダメだ。

こういう時に一番頼りになりそうな人が肝心な時にいない。

人生というものはなんて世知辛い事だろうか。


「…マオちゃんもまだ帰ってきてないよね?」

「うん」


だめだ…判断をしてくれそうな人が誰もいない…。

あ!出来る女の代表格のメイラさんはどうだろうか!?


…だめだ、人間が相手だから一目散に「食事」を始める気しかしない。

出来る女にも弱点はあるのだ。

クチナシもしばらく戻ってこないと思うし…え、私が何とかしないとダメ?


「むむむ…」

「りりちゃ~ん…」

「りりちゃん…」


正直見ないふりをして寝たいところだけど、娘二人に不安そうな顔をされてはそういうわけにもいかないよね。

私は親から優しくされた記憶なんて微塵もないから親という物はどうあるべきなのかさっぱり分からない。


でもだからこそ…せめて最低限くらいはいい親でありたいわけで。


これでも色々と考えてるんですよ私は。


親から虐待されていた子は、親になると自分の子を虐待する…みたいな話を聞いた覚えもあるし…私は直接的な虐待をされていたわけじゃないけれど、前世の親のように子に無関心な親でありたくないとは常日頃から思っている。


「よし、そんな顔しないの~。このリリちゃんにまかせなさい」


娘の不安を取り除いてあげるのが母親の役目だ。

瞳を不安そうに潤ませる二人をなるべく優しく抱きしめた。

二人もその小さな手で私を抱きしめてくれてなんだか少しだけ温かい気持ちになり、頑張ろうと思えた。


「とは言ったものの…どうしたものかね」


そもそも彼らは一体何なのだろうか?

どうしてうちを包囲しているのか…どうやってここを見つけたのか。

分からないことだらけだ。


弱気になるわけじゃないけどこのまま何事もなくどこかに行ってくれないかなと思ったり思わなかったり。


「う~…でもなんかちょっとずつ近づいてきてるよ~」

「ふぇぇ…」


リフィルの言う通り屋敷を包囲している人間の気配は少しずつだが近づいてくる。

一度姿を見せて話してみたほうがいいかも?廃墟と思われてるのかもしれないし。


「それかむしろ招き入れてみるとか?」


さすがに全員は無理だけど代表者数人を招き入れてもてなしてみるのもアリかも。

話してみると案外いい人だったりするかもしれないし。


「やだ!絶対にい~や~だ~!!」


リフィルが癇癪を起したかのように暴れ出した。

それをみたアマリリスが数瞬何かを考えたのちに…。


「いやだー」


同じようにバタバタと暴れ出した。


「嫌なの?」

「人間がここに来るなんて絶対にいやー!!」

「いやー」


そこまで嫌がるのなら無しかな。

まぁ危ないかもしれないし当然か…そもそもだからメイラが食べちゃうかもしれないしね。


「じゃあどうしよう…」


まず何においても目的だよね。

何をしに来たのかを知らない事には始まらない。


「とりあえず私行ってくるね。二人はここでおとなしくしてて」

「うん…」


二人の頭を一撫でして部屋を出た。

途中で慌ただしく動いていた悪魔ちゃんたちを呼び止めて娘の事を頼んでおくことも忘れない。


…ずっと気になってたけどこの二人だけで屋敷のあれやこれをするのって大変じゃないのだろうか…?

身の回りの事は自分でやってるし、私たちの食事はマオちゃんが作ってるんだけど屋敷全体の掃除や雑用などはこの二人だけでやっているはずで…メイラも手伝ってるとは思うけど今度ちゃんとお礼をしたほうがいいかもしれない。


とまぁそんなこんなで屋敷から出ると…100メートルくらい向こうでなにやらざわついている。

私が出てきたのが分かったのかな?と思いきや…よく見ると人間たちの中心に胴体から切り離された頭部を持ったメイラが嬉しそうな表情で佇んでいたのだ。


…さすが出来る女は仕事が早かった。

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