第244話 人形少女はしがみつかれる
「ん~なんか妙な事になってきたなぁ」
とある場所で軍服のようなものに身を包んだ女性が水晶のようなものを手に首を傾げていた。
「おい、大丈夫なんだろうな?」
腹にたっぷりと脂肪を蓄え、一際豪華な服を着た男がイラついたように女に話しかける。
男はとある国の王であり、今まさに隣国に侵略戦争を仕掛けようとしているところであった。
「さぁ~?」
「なんだその返事は!?この計画は全て貴様が!!」
「と言われましてもねぇ?そもそもは私は一切の責任を取らないという契約であなた方に力を貸しているわけでして」
「だが貴様の作戦で我が国の兵のほぼすべてを動かしたのだぞ!?」
「それはまぁそうですね。それが最適な作戦だと思ったんですけどね~。なーんかいろいろとおかしなことが立て続けに起こってるんですよね~。ほら、あなたの何番目かの息子を隣国の姫の婚約者としてようやく送り出せたのに大量惨殺事件に巻き込まれたり」
「貴様…本当にその件について何も知らないのだろうな!?」
「知りませんって。あれのせいで私も計画の大幅修正を迫られて大変だったんですから」
一国の王を相手に無礼ともとられかねない言動を行いながらも軍服の女は水晶から目を離さない。
国王からは見えていないがその顔は楽しそうな笑みを浮かべている。
「それで貴様は先ほどから何を見ている」
「ん~まぁ気にしないでくださいな。ちょ~っと侵略先の隣国の様子を覗いていただけですよ」
「ふん!あんな国力を失った弱小国を覗いても得られるものなどないだろうに」
「そーですねー」
女の視線の先では先ほどまで神による壮絶な戦いが行われていたことを王は知らない。
「それで…本当に大丈夫なんだろうな?」
「しつこいですね~大丈夫ですって。私の「人形兵」もお貸ししてますし、リスクとリターンを説明したうえで納得されましたよね?」
「うむ…」
「この作戦がうまくいけば隣国だけでなく、さらに周辺の諸国まであなたの物になるのですから王様ならもっとどっしりと構えましょうよ」
「しかし…わざわざ兵を遠回りさせてまで隣国以上に手を広げる意味があるのかと疑問に思えてな…」
「魔の領域といわれる中立地帯と、帝国跡地を隣国との戦争にかこつけてついでに手中に収める。戦争中で相手方の抵抗が激しく、やむを得ず中立地帯に軍を置くことになった。そう言い訳しつつやがては完全に占領する。住んでしまえばこっちのもの。そして国土が増えれば国力は上がり、大国となったこの国に逆らえるものはいなくなる。力技だけどここの軍と私の力があれば十分可能だと結論が出たでしょう?いまさらグダグダ言わないでくださいな」
この怪しげな雰囲気の女に騙されている…いや、いいように使われているのかもしれないという疑念は晴れないが、それでも国王は作戦がうまく行くことによって得られるものを前に欲望で目がくらんでしまっていた。
そんな王の様子を横目でちらりと見る女の顔には嘲笑が浮かんでいた。
そんな中、眼鏡をかけた神経質そうな男が二人が話す部屋に入ってくるなり女に対して膝を折る。
「報告します「マナギス」様!」
「んん~?なにかあった?」
軍服の女…マナギスは水晶を懐にしまうと男に向き直る。
「はっ!魔の領域に進軍していた兵から報告があり…どうやら何者かが居住しているらしき巨大な建造物を発見したとの事です!」
「はい?本当に言ってる?」
「はっ!肉眼で確認できており、間違いないかと!」
「あの場所に人が住んでいるなんてありえないはず…私の魔法でもそのような物は確認できていないし…う~む」
「いかがいたしましょうか…?」
「そうだなぁ…とりあえず仕掛けてみようか?人が住んでいるように見えるという事はそこそこ綺麗だってことだよね?奪えれば色々便利だし、中の人は…とり合えず話ができそうな一人二人は生け捕りにして残りは殺していいよ」
「かしこまりました!」
そんなマナギスの一言で多数の王国の兵がとある屋敷を襲撃することが決まった。
その場所がいったい何なのかも知らず、哀れな兵たちはその扉を開く。
そこは…この世の地獄が広がる屋敷。
目を奪われるほど美しく、そして恐ろしい人形と…この世で最も純粋で邪悪な神が住まう場所だった。
──────
≪リリside≫
「「リリちゃ~ん!!」」
クチナシの元に駆けつけて戻って来た後に、少しだけ気疲れしたので椅子の上で仮眠をとっていた私の顔を何かが覆った。
脚にも何かがしがみついている気がする。
慌てて目を開くも、視界が真っ暗で何も見えない。
「いっはいなにふぁ…」
いったい何が…と言ったつもりだったけど柔らかい何かが顔全体を覆っているようで、うまくしゃべれない。
「リリちゃんたすけて~!」
耳元でびっくりするくらい大声で叫んでいるのはたぶんリフィルだ。
という事は私の顔を覆っている何かはつまりリフィルで、おそらくは顔にしがみついているのだろう。
とりあえず、べリっとリフィルを顔から引きはがして胸元で抱きかかえる。
う~んやっぱり大きくなったなぁ…日々成長する娘の姿に感動ですよ。
「リリちゃん変な顔してないでたすけてよ~!」
感慨に浸っていると瞳をうるうるとさせたリフィルが私の胸をポカポカと叩く。
よく見ると脚には同じく半泣き状態のアマリリスがセミのようにしがみついている。
「どしたの二人とも」
「気持ち悪いのが家のまわりにいっぱいいるの~!!」
「ふぇぇ…」
「気持ち悪いの?」
虫でも出たのだろうか。
私もどちらかと言うと気持ち悪い類の虫は苦手なのだけど大丈夫だろうか。
「人間がいっぱいいるの~!」
「…はい?」
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