第214話 人形少女は呆れる

 メイラを探しに神都にやってきてびっくりした。

だってなんか見たことあるような光景が再び目に飛び込んできたのだもの。

街中に真っ赤な棘が突き出していてそこに串刺しにされている人たち…うん、やっぱり以前見たよこれ。


「も~メイラ何やってるの~」


とりあえず棘を辿ってメイラを探すことにした。

困った妹分だよ全く…。


「あれ?」


しばらく歩いていると以前はメイラの家があった場所までたどり着いたのだけどそこには何もなかった。

完全に更地になっていて新しく何かを建てるという事もないようだ。

街中には所狭しと棘が生えているが不思議とこの何もない場所だけは棘がなかった。


「うぅ…助けてくれぇ…」


誰かが私の足を掴んだ。

見ると身体が穴だらけになっているおじさんで、よく生きてるなって感心しちゃった。

まぁでも血に濡れた手で触られたものだから服が汚れちゃったのはちょっと腹立たしい。


「おじさんおじさん。服が汚れちゃってるんですけど?」

「うぅ…」


「いや、「うぅ…」じゃなくてさ…はぁ」


私は足を引いておじさんの手から逃れたんだけどもそれでもしつこく再び私に手を伸ばしてくる。


「もうダメだって。助からないよ」

「たのむ…たすけ…」


「ん~…やっぱ無理だよ。私治療なんかできないし」

「そんな…」


そんなわけで悪いけれど死にかけのおじさんを放置していくことにする。


「ちくしょう…なんでこんな目に…全部あの悪魔野郎どものせいだ…」


視界の端でおじさんがメイラの家があった場所に血に濡れた石を投げ込んだのが見えた。

あーあ、そういうことするんだ。

メイラの両親は知らない仲じゃないしそういう事をされるのは少し不快だ。


あんまり気は進まないけれど更地の中に入り、投げ込まれた石を回収しておじさんに投げつけた。

くちゃりと音がして投げた石はおじさんの頭にめり込んんだ。


「それ以上苦しむこともないしよかったねおじさん」


しかしメイラの身に何かあったのかねこれ。

今こうしている間も次々と真っ赤な棘がいたるところから突き出してきている。

あ、お腹に刺さった。

ふっ…私の身体を貫くとは成長したねメイラ。


「いや痛いわ…」


身体をずらしてお腹の棘を抜く。

すると今度は壁から生えてきた棘に腕を貫かれた。


「ちょっとちょっと~冗談になってないよ~」


このままじゃ穴だらけにされてしまう。

いたるところから悲鳴も聞こえてくるしシャレになってない。


「はぁ~真面目にちょっとメイラ探すかぁ~」


集中して棘が飛び出してきそうになったら瞬時に避けて進んでいく。

人の悲鳴やうめき声が聞こえてくる方向に進んでいくにつれて棘はその密度を増していきある種の幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「まぁこういうのはあんまりだけどね」


棘に貫かれた住人たちがオブジェのように吊り下げられていたり、下から貫かれて案山子みたいになったりしているのは普通に気持ち悪い。


また貫かれた人の血が棘を伝って地に落ちるとその血は新たな棘となり広がっていく。


メイラ自身はとってもいい子だけど、その力はかなり質が悪い。

でも思えばあの子もあの子でただのいい子ちゃんじゃ無いのかもね。


悪魔ちゃんたちを初めて見たときとか問答無用で襲い掛かろうとしたし、マオちゃんとも話したアマリリス事件の時もにこやかな顔で悪魔ちゃんをぐちゃぐちゃの肉塊にしてたからね…いや悪魔ちゃん達生きてるけどね。


そんなわけでこの状況もそういうメイラの中の攻撃性が引き起こしているのかもしれない。


コウちゃんとアーちゃんが言ってたけどメイラは悪魔としてはかなり歪で…そして精神も安定しているようでしていないらしい。


人のように理性的だけど…心の奥底には悪魔的な欲望が渦巻いていると。

私にはよく分からないけど両親を失った事の悲しみと怒り。

そんなものが今のメイラを悪魔として構成している要素だそうで…ん~やっぱり早く行ってあげたほうがいいかもね。


多分だけどこの先はあの大きな教会だ。

空間移動を発動させて私は教会へと向かったのだけど…そこは一目では教会と分からなかった。


もはや赤い棘が集まりすぎて別の建物のようになっており…それこそここが魔王城です!とか言われたら信じてしまいそうな雰囲気だ。

そこら中にもはや当然のようにある串刺し死体が一層演出に買っている。

中からは何やら激しい音が聞こえてきておりおそらく戦闘中なのかな?


「ん~…まぁ行ってみるか~」


何が起こっているか分からないので棘を伝って教会の壁をのぼり天井部分にまで上がった。

案の定ここにも棘が浸食してきており、穴だらけになった屋根からは中の様子が丸見えだ。


そしてそこではメイラが血まみれで倒れており、その先には…え~と誰だっけ?あぁそうだ確か教主だっけ?その人が何やらナイフを手に立っていた。


「あらら、結構大変な事になってるなぁ。加勢したほうがいいかな」


驚いたことにメイラは今にも死んでしまいそうなほど追い詰められていて、それとは逆に戦っていると思わしき教主はほとんど無傷のように見えた。

それでもメイラは立ち上がり、教主に向かっていく。


赤い棘を操りながら攻撃を試みているが、教主はまるで消えるようにしてその攻撃を避け、ナイフを投擲。

メイラも防御をしようと棘を展開するが…ナイフもまた消えるようにしてメイラとの間にある棘をすり抜け、メイラに突き刺さる。

ただのナイフくらいでメイラがダメージを負うはずはないんだけど…かなり痛そうにメイラはうずくまっている。


「本当に危なそうだし手を貸してあげますか~」


妹分が死ぬところを見ているだけなんてありえないし…何より私はメイラの両親からあの子を頼むと言われているのだから。


そうしてメイラの元に降り立とうとした時…何故か上を見上げたメイラと目が合った。

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