第353話 人形少女は説得する

「…行ってくれたね」


それは少し前の事。


私のナイフとマリアさんの刀がぶつかり合って火花が散る。

というか刀とナイフってリーチが違い過ぎてずるくない?私はコウちゃんみたいな達人さんじゃないから正直このリーチ差はかなりきつくて少しづつ追い込まれてる感がある。


久々に「腕からブレード」まで出して対抗してるけど、少しづつ私の身体に刃が触れる回数が多くなっていく。

コウちゃんからこの人の能力は聞いていたけど、その時はいまいちピンとこなかった。

でもこうして実際に戦ってみると確かに厄介だ。


動きは見えている、刀がどう振られているのか、どこを狙っているのか全部分かってる。

なのにそれから逃れようとすると必ず「偶然」が起こる。


後ろによけようと足を引いたら、その部分だけ足場が崩れかけていて体勢を崩す。

刀を受け止めたと思えば風が吹いて巻き上がった髪や服で一瞬視界が奪われる。


これが偶然を操るという事…ずるじゃん?どう勝つのよこれ。

先ほどコウちゃんたちが人形兵を誘導しているのが見えたから一瞬のスキをついてカオスブレイカーを撃ったのだけど外しちゃったし…そのせいで魔力はほとんど尽きたし、やっぱりどうしても隙ができたせいでザックリいかれたし…くそぅ…このラスボス、チート過ぎる!


「ちょっちょっとマリアさん!一度落ち着こう!一回話そう?ね?」

「うるさい」


私の頬を刀がかすめていく。

だめだ…この人完全にやる気だ!いや、私の方もマリアさんがようやく出てきてくれたのならここで決着をつけたい…いや、決着をつけるつもりではある。


でも今この瞬間に考えないといけない事、対応しないといけないことが多すぎる。

マリアさんを倒すのは今だが、今この瞬間じゃない。


なんとかこの状況を打開できないだろうか…?そんな事を考えていると私の耳にたくさんの人の「うおおおおおおおお!!!」という雄叫びのようなものが聞こえた。

なんだなんだ?と一瞬顔を声のした方向に向けるとなんとコウちゃんたちが私の倒し損ねた人形兵を倒していた。


倒せるんかい!?私のきた意味は!?と思いはしたが、まぁそういう事もあるだろうと無理やり納得する。

でもこれはいい流れかもしれない。


人形兵を倒せたのなら私とマオちゃんがここに居る意味は無いはずだ。

それならマリアさんを振り切って屋敷に戻れば…。



それはクチナシの覚悟を裏切るようでいい気はしない…でもやっぱりどうしても納得できない感じがぬぐえない。


私とクチナシが偶然作ってしまったあの魔法。


名前を付ける事すら嫌だったのですぐに廃棄するはずだったアレ。

自爆するための魔法なんて何をどうやっても悲しい事しか起こらない。

でもクチナシが絶対にいると譲らなかった。


あの子が言いたいことは分かる…あの魔法は現状唯一、私とクチナシがクチナシの身体を破壊することが出来る魔法だからだ。


カオススフィアがものすごい破壊力を持っているのに私には効果を及ぼさないように、クチナシにも私の魔法でダメージを与えることは出来ない。

そしてクチナシはどこまで行っても私のサポートが存在理由である都合上、自殺をすることは出来ない。


でもあの魔法はどういうわけか、その枷を完全に無視しているらしい。


それも私があの魔法が嫌いな理由だ。

なんでよりによってそんなものが効果を及ぼすのか…頭にきてしょうがない。


しかしその特性が私たちにとって都合がいいのも事実だから…最後には折れるしかなかった。


「ああもう」

「この状況でよくできますね、考え事」


「あ」


マリアさんの刀が肩に突き刺され、そのまま切り飛ばされる。

私はすかさず闇の中に手を突っ込み、適当なパペットから腕をもぎ取り自分に装着する。


少し待てば再生するけど、こうするほうが早い。

これも過去を振り切ってからなんとなくできるようになった奴だ。


最初からできたんだろうけどまぁそこはいいじゃない。

完全に人間やめてるから知っててもやりたくなかったよ前までは。


今は気にならないけどね。


「…めんどうな」


マリアさんが吐き捨てるようにそう言って刀を振る。


「そう、面倒でしょ?だからさ一回お開きにしない?」


隙を見つければ直ちに突っつく。

それが私のスタイル。


「しません。死になさい」

「そんな殺生な」


取り付く島もないとはまさにこのことだ。

しかしもう少し時間を稼げばマオちゃんやコウちゃんが私のこの状況を察知して駆けつけてくれないだろうか?


人形兵が全機いなくなったのなら、もう消化試合だろうし…。

でも悪い事はここぞとばかりに重なりに重なるもので、私の耳には拾わなくてもいい声を拾ってしまう。


「おい!どうする!?このままじゃ俺たち…」

「うるさい俺に聞くな!人形兵が倒されるなんて聞いてないんだ!」


どうやら帝国のみんなに追い立てられているマナギスさんの部下?たちの話し声らしい。

近くに隠れているようだ。


「待て!そ、そうだ…マナギス様からもしものとき使えと言われてたあれを…」

「お、おお!そうだ!今がその時だ!早くしろ!」


いや、それ絶対に危ないやつだ!止めないと間違いなく変な事になる!

私は身体を捻って声が聞こえるほうに向かおうとしたけどマリアさんの刀が私の行く手を阻む。


「マリアさんストップ!一瞬だけ見逃して!お願いだから!」

「さっきからうるさいと言っているでしょう。あなたのそういうノリが嫌いだというのです」


くっ…こうなったらダメージ覚悟で無理やり突破するしかない!私はマリアさんの首に向かってナイフを突きつける。


しかし私とマリアさんの間にいつ投げられたのかもわからない刀が落ちてきて、地面に刺さり私のナイフを受け止める。

そしてそのままマリアさんが私の左腕を切り裂いた。


ここだ。

私はこの戦いで気がついたことが一つだけある。

マリアさんの偶然は攻撃を始めてから、こちらにダメージを与えるまでの間しか発動していない。

感覚的な話になるけれどそんな気がするのだ。


マリアさんに一回斬られると次に動き出すまで、私の身におかしなことが起こっていない…気がする。

だから意を決してマリアさんが次の行動に移る前に私は戦っていた建物の頂上からダイブ。


不穏な事を話しているローブの男たちの姿が見えたのでそのまま腕からブレードを展開してその首を切り落とした。


「え?」


間抜けな声を出しながらゴトリと首が地面に落ちたのを確認、よし確実に死んだな。

でも隣にもう一人いる。


「ひ…うわぁあああああああああ!?」

「うるさぁい!」


耳元で叫ばれて本当にうるさかったのでそのまま首をザックリ。

無事に不穏な二人を始末出来て胸をなでおろしたのもつかの間、突如として真っ黒な光が首の無くなった男の手の中から発せられたのだ。


ヤバイ!と思って慌てて男の手を踏み砕いたのだけど、肉と骨以外に何か硬い物…石のような物が砕けるような感触がしたのでおそらく何かを握っていたのだと思う。

だけど問題はそれでも光が止まらなかったことだ。


「何をしているのです?あなた」


私と同じように建物から跳び下りてきたマリアさんが光を眺めながら目を細めた。

…私が言うのもなんだけどあの高さから跳び下りてよく無事だなこの人。


「この人たちが何かをしようとしてたから止めたんだけど…止められてないのかなこれ」

「なにか気味の悪い魔力がこの国中に拡散していますね。まるで何かを探して一か所に集めるような…しかしそんなこと今は関係ありません」


マリアさんは光から視線を外すと刀を持って踏み込んできた。


「うおおおおおおお!?」


ギリギリで腕からブレードで受け止めたけどすごくびっくりした。


「いや、今なんとなく休戦するノリだったじゃん!何が起こるのか見守る感じだったでしょう!?」

「関係ないと言っているのです」


「融通が利かないなぁ!」


この我が強い感じ…やっぱりレイの母親だ!お似合いだよ畜生!

慌てて切り離した腕を再び補完しマリアさんと向き直る。


この場所は未だに止まない光が眩しくて戦いにくいのでマリアさんと剣戟を繰り返しながら、再び建物を上がっていく。


中々に無茶な動きをしているのだけど、マリアさんは普通についてくる。


この人怖すぎるな。

涼しい顔をして執念が凄い。


いや…実際強いのだろうね。

何千年とレイの事を引きずっているのだから。

だから私はこの人にどうしても教えてあげないといけないことがあるのだ。


「マリアさん、お願いだから話を聞いて」

「聞きません」


聞く耳なんか持たないと刀を振るい、私の顔に一直線に刃が向かってくる。

私は身動きをせずに、静かにマリアさんの瞳を見つめる。


「レイをあんな目に合わせた人がまだ生きてるの知ってる?」


ピタっと刃が私に触れる寸前で止まった。

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