第6話人形少女は魔族に怒る
「へくちっ!」
なんだかわからないけれど突然くしゃみがでた。
なんだなんだ?誰か私の噂話でもしてたのかな?う~ん?
というかくしゃみなんて出るのかよ私!この数百年で初めてしたわ!
まぁ今までは身体の自由がなかったからな~こんな生理現象なんかも縛られたんかな。
「いやしかし、あらためて不思議な身体だよな~」
自分の身体をぺたぺたと触る。
見た目は完全に球体関節のドールだ…だがしかし顔だけは人間のそれのような見た目をしていて表情も自然に動く…しかし触った感触は硬いという何とも摩訶不思議。
そしてそう感触だ。人形の身体なのに全身に感覚がちゃんとあるのだ…しかし暑さや寒さは全く感じない。
見た目が人形だという以外はなんて都合のいい身体なのだろうか…。
「まぁなんにしても…ここから「リリ」として人形生を大いに謳歌しよう」
私はとりあえず「リリ」という前世でやっていたゲームのプレイヤーネームを名乗ることにした。
まぁ誰に名乗る予定もないんだけどさ。
さてさてまずはこの前なんとなく思った「私以外に意思疎通ができるモンスター」を探して旅をするぜ!ということでてくてく歩くことにした。
しかしこの世界…なかなかにモンスターとのエンカウント率が少ない。
気配は感じるのだが私が近づくと気配はささっと逃げて行ってしまうのだ。
無理やり追いかけてモンスターと会話を試みようとしてもどうやらそんな知能は無いらしく何やら叫び声をあげて逃げていくだけ…幸先はあまりよろしくありませんね!
なんてことを繰り返しながら三日ほどたっただろうか…食べる必要も眠る必要もないから疲れはしないけれど…なんだかやるせない気持ちだけがつのっていく。
もう人間をさがして声をかけてみるのも視野に入れるべきかなぁ…?
「そこの魔族、止まれ」
「およ?」
突然背後から声をかけられた。
振り向いてみるとなにやらやたらと美形な男が私に銀色の大きな銃のようなものを突き付けていた。
しかし私の興味はそこには向かず、男の頭に生えた角のようなものに注がれていた。
「角が生えてる!すげぇ!」
「何を言っている?そんなに珍しい物でもあるまい」
そうなの!?この世界は角がある人いっぱいいるんですか!?
「そんな事よりこちらの質問に答えろ。ここで何をしている」
「何を?ただ歩いてるだけだけど?」
「ふざけてるのか?」
「んーんー超大真面目」
「お前、魔界の出身ではないな?どこからきた」
魔界だって!?名前の雰囲気的にモンスター的なものがいっぱいいるところでいいのか!?
うぉおおおおお!!テンション上がって来たぞ!
はっ!もしかしてこの男…人間じゃない感じか!?
「あの…あなた様は人間ではない…?」
「見ればわかるだろう。俺は魔族だ…お前もそうだろう?」
魔族きたー!これは私に風が向いてきてる予感!
「よかった!あなたみたいな人をずっと探してたの!」
「…なに?」
「ほら!私こんなんじゃない?」
人形の腕を見せつけるようにして大げさにカタカタと動かす。
「だからせめてお話を聞いてくれる人がいないかと探してたところだったの~!」
「…どういうことだ?」
私はこの魔族さんに転生してからのあれこれを話した。もちろん前世だとか転生だとかは話してないけれどね。
「そんな話を信じろと?」
「むしろなんで信じてくれないのさ」
魔族さん…名前はレザというらしい。が私を疑いの目で見ている。
「その話が本当ならお前はパペットモンスターのはずだ。だがあれはかなり存在としては弱いやつでお前の様に話すことはおろか魔法の行使や挙句の果てに自立行動などできるはずがない」
「へーそうなんだ~」
「他人事のような反応するんじゃねぇよ」
「そんなこと言われてもな~現に私はここに今こうしているわけだし…」
「…まさかこんなことになるとは…どうするべきか…」
「ねーねーレザ君はさ~どうしてこんなところにいるの?」
「…このあたりに強大な魔力を持った何者かが現れたと報告があってな…確認している最中だった」
「ほほう…そんな奴がいるのか…怖いね~」
ばったり鉢合わせしたらどうしよう…勝てる奴ならいいけれど…。
「いやお前の事だ」
「あらまぁ」
私の事だったらしい。
強大な魔力なんてそんな大層なもの持ってる実感はないんだけどな~。
てか今レザ君は報告があってって言ってたよね?ということはだよ?やっぱり魔界とやらにはレザ君みたいな魔族が結構いるんだ!
もしかしたらそこに私の居場所もあるかもしれない!
「レザ君さ、私を魔界に連れて行ってよ」
「・・・」
じっとレザ君がよくわからない視線を私に向ける。
なんだそれは。どういう感情なんだ。
「お願い~こんな身体だし人間とはいられないしさ~頼むよ~」
レザ君はしばらく考え込むそぶりを見せたがすぐに頷いてくれた。
「わかった。こちらとしてももう少しお前の事を知っておきたいし…魔界に案内しよう」
「わーい!ありがとう!」
レザ君が何もない場所に手をかざす。
すると空間に黒い穴のようなものが開いた。
「少しだけ待っててくれ。すぐに戻る」
「おっけ~」
レザ君が黒い穴の中に消えた。
これ置いて行れたりしないよね?とドキドキしながら待つこと数分。穴の中からレザ君で呼ばれたので恐る恐る入った。
「おお~!」
そこは不思議な空間だった。真っ暗な空間に白い道が向こうまで続いてる。
「ここを通っていけば魔界に行けるの?」
「ああ。とりあえずこっちまで来てくれ」
少し先のほうにいるレザ君に向かって歩みを進めた。
こんないたいけな人形さんなんだしエスコートしてくれてもいいのに~とか考えていた時だった。
レザ君のところまであと10歩ほどの場所を踏んだ時、私の足元で魔法陣が発動したのだ。
そして魔法陣から伸びた鎖のようなものが私の身体を縛っていく。
この魔法…覚えがある。
まさかと思いつつレザ君を見る。すると案の定、レザ君の指から光る糸のようなものが私に伸びてくる。
間違いない…これは私という人形を縛るための魔法だ。
その瞬間、私の思考は一気に切り替わる。
こいつは、殺さないといけない敵だ。
_________
魔界で雑務をこなしていた時、魔王様から呼び出しがあった。
「お呼びですか?」
「ああ、呼びつけてすまないなレザ」
「いえ、それで要件は」
「お前とべリアが勧誘を続けていた人間たちの住処があっただろう?」
魔王様が言ってる場所はすぐにわかった。
人間でありながら魔の研究を続けるもの好きな人形遣いが支配する領域の事だろう。
我々魔族は人間に比べて総数が少ない…。お互いに争い合う間柄でありながら数の差があるというのは致命的だ。
故にそういった人間たちも勧誘をしていて、その者たちはかなり長い間根気強く勧誘をかけていたところだ。
「そこがどうかなさいましたか?」
「先ほどアルギナからそのあたりで尋常じゃない魔力を持った「何か」の反応があるとの報告を受けてな…一応お前に伝えておいたほうがいいかと思ってな」
「なるほど…わざわざありがとうございます。少し様子を見てきたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「ああ構わんよ。べリアもいずれ戻ってくるだろうし、気にせず行ってくるがよい」
そして俺は人間界に出向き、まずはあの人間たちの住処の確認をした。
あの者たちがなにか変なものを生み出した可能性があると考えたからだ。
しかしそこには無残な光景が広がっているだけだった。
何がったのかと俺は原因を捜し歩き、そして見つけた。
遠目でもわかるほどのありえない魔力量…そしてそれだけでは説明できない圧倒的恐怖を感じる何か。
俺は意を決してそれに接触した。
話してみると割と普通の…いやなんなら少しだけ頭がふわふわしているような言動を繰り返すパペットだった。
なんとか恐怖心を抑えつつ話を聞く。
明らかに普通ではない…それをどうしようかと悩んでいるとき、自分を魔界に連れて行ってほしいとの申し出があった。
未知数な部分が多いがこいつを味方にできればかなりのメリットが見込めるかもしれない。
そう考えた俺は魔界に彼女を連れていくことにした。
その時俺は考えてしまったのだ。
もしも魔界で暴れられたら少しだけまずいかもしれない…彼女がパペットならば少しばかり制御権を握っておいたほうがいいかもしれないと。
そして俺はこの時の早まった考えをすぐに後悔することになった。
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