第5話人々は動き出す

 その日、とある知らせが全世界に響き渡った。

長年にわたり各国から警戒され、その対策が論じられてきた邪教徒集団がその本拠地ごと壊滅したのだ。

今、各国の重鎮たちが魔法により遠隔で会談を開いていた。


「間違いはないのか?」

「ええ、我が神都の監視員たちが直接確認致しました。直接指名手配されていたものも含め構成員の死体も多数発見されております」


そう発言したのは白いローブに身を包んだ若い男だった。

神都…すべての人々の母であり父であるとされる神を信仰している国家…その中枢にある都からの出身で邪教徒たちを人一倍敵視していた国でもあった。


「ならば間違いはないのか…何世代にもわたって世界を乱してきた奴らがいなくなったことを喜ぶべきか…」

「そうなった原因次第でしょうな…事故で全滅してくれたのなら一番良いのだが…」

「内乱なら結局は生き残りがいるでしょうし…考えたくはないですがより強い組織に潰された可能性もありますからね」


全員が悩まし気に首をひねった。


「まずはさらに詳しく調査をするべきだな。神都の報告によると構成員の死体の数はほぼ一致していたのだな?」

「ええ…かなりひどい状態でしたが魔法的方法で照合したところほぼ全員分の死体が確認されました。」

「その「ほぼ」の部分が気になるな」


「ええ、実は邪教徒たちの現頭首とされていた男の死体が見つかっておりません…それに問題のパペットモンスターも見つかっていないそうです」

「一番厄介なのが見つかっていないのか…これは頭首の乱心でおこった事件とみるのが自然か?」

「その説が一番有力ですな…ではそれを元に調査を…」


その時、神都の男の背後で大きな音がした。


「どうした?神都の…なにか問題か?」

「申し訳ありません、部下がなにやら慌てている様子でして…どうしました?今は重要な話し合いの最中だと…なに?それは事実か?」


それからしばらく、神都の男はなにやら話し込んでいるようだった。

なにやらただならぬ雰囲気に他の国の代表たちも口を挟まず静観している。

そしてしばらくして男が戻って来た。


「大丈夫だったか?」

「ええ…いや、大丈夫ではないですね…問題が発生してしまいました」

「問題とは…?」


「勇者たちが先ほど我が国に帰還しました…道中で我々が派遣していた聖女が傷を負ってしまいその治療に時間を取られたため遅くなったそうなのですが…とんでもない情報を持ち帰ってきました…」


その場が一気にざわつく

勇者たちはその強さもさることながら、その身に受けた「神の加護」と言われる特殊な能力を持った者たちであり、その中でも魔法力や神聖な力というものに特化した聖女が治療に時間を要する傷を負ったというその事実が事態の深刻さを現していた。


「して神都の…勇者たちが持ち帰った報告というのは…?」

「はい…どうやら勇者たちは先ほどの話にも出た邪教徒の頭首と接敵し交戦したそうです…そして見事その者を討ち取ることに成功したそうです」

「おお…!それは素晴らしい!なんだなんだ!深刻そうにするものだから何事かと…」


「いえ…話はこれからです。その後、主を失って機能停止するはずの例のパペットが…ひとりでに動き出しそのまま交戦…結果として勇者たちは手も足も出ずに敗北し撤退するしかなかったそうです」

「馬鹿な!そんなはずがあるか!」


勇者たちが…あの人類の中では個人としてもっとも強大な戦闘力を持っていると言っても過言ではない勇者たちが敗北した…その事実も衝撃だが最もありえないのは、そう。


「パペットがひとりでに動き出すなどありえない!あれは人形遣いが召喚し使役することで初めて動かすことができるモンスターだろう!?」

「ええ…そのはずですが勇者たちによるとパペットは流暢に言葉を操り意思の疎通を行い…さらに魔法をも使用したそうです」

「信じられるか!」


「もちろん確認の必要はあると思います…ですが勇者たちが我々にそんな嘘をつく必要も意味もありません」


重苦しい沈黙がその場を支配した。

事実を受け入れるには時間がかかる…だがこの場に居る者たちは国の代表…ならば結論を先延ばしにするわけにもいかないの。


「すぐに対策を講じるべきだ。あのパペットが自意識を持ち世に解き放たれてしまったのだとしたら大変なことになるぞ」

「やつらの拠点が滅ぼされたのもそのパペットの仕業と見ていいだろう…理由は分からぬがな」

「ですね…最近魔族の動きも活発になってきていますし…なんとか事態を早々に収拾したいのは我々の共通意見ということでよろしいですね」

「ああ異議はない。各国から専門家を呼びなんとか対策を練ろう…」


そうしてその場は解散となった。

魔法での通信がきれた部屋で神都の男は無表情に虚空を見つめていた。

そんな男に全身をローブで覆った人物が話しかけた。


「ザナド様、どうされるおつもりですか」

「…ふむ。自らの意思を持ち会話をし魔法の行使まで行えるパペット…それはもはやただのパペットではありませんね。本来パペットモンスターは人形遣いの魔力がきれたり死んだりすれば消えてなくなるほどの脆弱な存在…それがこんな数世紀にもわたって存在しているだけでもありえないというのに」


男…ザナドはそんなありえない事態を口の中で転がし…そして嗤った。


「ふふふっ…これは当たりかもしれませんね」

「ではまさか?」


「ええ、ついに見つかるかもしれませんよ…神の領域にまで至った魔の者…魔神とでも呼ぶべき存在が!」

「おお…!」


「ぜひ一目会いたいですねぇ…そして叶うならこの手に…ふふふっあははははっは!」


闇に閉ざされた空間でザナドの笑い声だけがこだましていた。


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