第7話人形少女は魔族を許さない
レザから伸びた糸が私に触れる。その瞬間急速に身体の動きが鈍くなっていく。
あぁ…あぁあああ、ああ!ダメだダメだ、これはダメだ。
これを許したらまた私は…ただの人形に戻ってしまう…それだけは絶対に許せない。
私は腕に刃を生成してそれをレザに向かって全力で振り下ろした。
それはせめてもの抵抗のつもりだったのだけれど、その斬撃は空間を切り裂いていきレザの糸が伸びていた右腕を切断したのだった。
「なっ…!?」
片腕を失ったレザが驚いているが私も驚いている。
自分でもまさかこんなことになるとは思わなかったから。だけど関係ない、これはチャンスだ。
こいつは確実に殺す。
少しだけ自由を取り戻した身体を動かし、思いっきり足元の魔法陣を踏みつける。
力いっぱい踏みつけ過ぎたのかこれまた地面がすごい揺れてしまった。
まぁ魔法陣の破壊はできたしオッケーでしょう。
そしてそのまま自由を取り戻した身体で全力で一直線にレザに向かう。
狙うはその命。
_________
なんだ、何が起こっている…?
俺は確かに魔法を発動させた。リリがパペットである以上、確実にその身体の制御権を得られるはずだった…なのに突然俺の右腕が切り飛ばされた。
いや、そんな生易しい物じゃない。空間ごと腕を持っていかれた…そんな感じだ。
あまりに突然すぎて腕の痛みを認識できていない。
まずい…何かよくないことが起こっている。そう思い始めたときにはすでに遅く…事態は動き出してしまっていた。
地面が揺れた。リリが魔方陣を踏みつけた、ただそれだけで。
ここは遥か遠くに位置する魔界へのショートカットを可能とする魔法的な通路だ。
それがただ踏みつけられただけで半壊している。
「ありえない…なんだこれ…っ!?」
リリと目が合った。
その目は先ほどまでのリリの目じゃなかった。
殺意…それだけがその瞳を彩っていて…。
それは偶然だった。たまたま勘が働いて首を少しだけ後ろにそらした。
その刹那、刃のついたリリの腕が俺の首元をかすった。
俺は今、リリから一瞬たりとも視線を外さなかった。いや正確には外すことができなかったのだが…問題はそこじゃない。
俺はリリが移動した瞬間がわからなかった。気づいたら目前にいて、首に刃が…!
ダメだ、殺される…。
ギギギギギといびつな音を立ててリリの首が動き再び目が合う。
見たくないのに見てしまう、その瞳を。俺を映しているようで映していないその瞳…そこから目を離せない。
まるでもうお前は死ぬ以外の選択肢はないのだと言われているようで…。
「う、うわああああああああ!!!?」
とっさに左腕で腰に下げていた愛用の銃を取り出しリリに発砲した。
これは俺の愛用の物で、銃自体に特殊な効果はない。
だが弾丸が特性であり、俺の得意とする破壊の魔法が込められている。
用意するのがかなりの手間だが命中さえすれば確実に命中した部位を再生不能なほどに破壊できる…ましてやパペットのリリには効果抜群の一撃のはず…。
「やった…のか…?」
魔法が発動した衝撃の煙でよく見えない。
だが…倒せていないとしても行動不能にはできたはず…とにかく今は魔界に戻って…。
カタカタカタカタカタ
先ほどの音とは違う、なにか硬い物が細かく動くような音が耳を突く。
「な、なんだ…?なんの音…」
言い終わらないうちに特徴的な関節をした腕が伸びてきて左腕を掴まれた。
「ひっ…!離せ…!」
振りほどこうとするもその腕は微塵も離れることは無く…まるで万力の様に指が俺の腕に食い込んでいく。
煙がはれるとそこには一切無傷のリリが立っていて…。
「・・・」
「リリ、違う。俺はお前に敵意があったわけじゃないんだ!ただ、」
無表情に俺を見つめるその無機質な目に耐えられなくなって、惨めにも言い訳を口にする。
でもしょうがないんだ、俺は魔族の中では若いほうだ。だけどそれでもそこそこの長い時を生きている。
長く生きていれば恐怖を感じる場面なんていくらでもあった。
だけどこれは、今感じているそれはただ怖いなんてものじゃない。
正常な思考をすることさえ許さない、頭の先からつま先まで、中身を全て抉り出されて恐怖というものだけを詰め込まれた気分だ。
「ただ、なに?」
ギ、ギ、ギと音を立ててリリが首を傾げた。
やめてくれその音をもう聞かせないでくれ!
リリの身体から発せられるパペットが稼働する独特な音が怖くて怖くて仕方がない。
「あ、ひっ…」
「…なんで何も言わないの?」
「お、おれ…は、」
「まぁ何を言われても、もう君を生かしておくつもりはないんだけどさ。残念だよ仲良くなれるかもって少しだけ期待してたのに」
勢いよくリリが掴んでいた俺の左腕を引っ張った。
俺の腕はあっけなく身体から引きちぎられた。
「あぁあああああああああ!!!!!」
その痛みに倒れ込む。
どうする?どうするどうするどうする!!?
両腕を失ってしまった。もう銃を撃つことはできない。
どうする、どうすれば生き残れる!?
「ねぇ、どうやって死にたい?」
顔を上げるとリリが俺を優しげな顔をして見下ろしていた。
俺は今まで何を馬鹿な事を考えていたんだろうか。
ようやく理解した。こいつを怒らせてしまった時点で…もう生き残る道なんて存在しないのだ。
「は、ははっはははは…」
それを理解した俺は何故か笑っていた。
リリが刃のついたその腕をギギギと持ち上げた。どうやらそれを振り下ろすつもりらしい。
あぁ、これでいいんだ…これでようやくこの途方もない恐怖から解放される…。
死ぬことがこんな安らぎにつながるなんて思わなかった。
そして刃が振り下ろされ…。
「レザぁああああああああああああ!!!」
誰かが俺とリリの間に割って入り、リリの刃を受け止めていた。
しなやかな身体に真っ赤な長髪の女性…それは俺の仕事上のパートナーのべリアだった。
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