第8話人形少女は追いかける

 前回までのあらすじ!なんか人が増えた!

もう少しでレザの首をすぱっと行けるところだったのに突然現れた赤髪のとっても大きな剣を持った女の子に邪魔をされてしまった。

さてさてどうしましょう。


「だめだ…べリア…やめろ…!」


ありがたいことにレザが女の子を止めようとしてくれている。そして名前はべリアちゃんというらしい。


「そんな姿見せられてやめられるわけないでしょう!この馬鹿!」

「そんなこと言ってる場合じゃない…!このままだとお前も殺され…!」


いやいや、レザさんそれは間違いでございますわよ。


「ううん、べリアちゃんでいいのかな?私はべリアちゃんを殺すつもりはないよ。理由、ないでしょ?」


無駄な殺生はしない主義でござるのよ私。


「信じられるかこの化け物め!」

「おっと」


鍔迫り合いを続けていた私たちの間に突如巨大な炎が上がり、驚いてとっさに後ろに引いてしまった。


「へ~すごいねコレ。魔法?」

「答える義理はないわ」


「そんなつんつんしなくてもいいじゃないか~仲良くしようよ~」

「あんたおかしいの?仲間をここまでやられて黙ってられるわけないでしょう!」


ん~…そうなっちゃうか~レザの代わりに仲良くなってくれるかもしれないと思ったけれど魔族って案外仲間意識強いのね。もっと「ふん!雑魚などに用はないわ!」みたいな感じかと思ってたのに。


「そっか~残念。でも仲良くなれないならなれないなりにちょっとだけお願い聞いてほしいな~なんて」

「・・・」


めっちゃ怖い顔で睨まれた!なんだよ!私そんな悪いことしたかなぁ?


「ちょっとそこどいてくれると嬉しいな~なんて」

「何度も言わせないで」


「う~ん…どうしたものかなぁ」


本当に困った。

べリアちゃんを殺さずにこの位置からレザだけを殺す手立ては何かあるだろうか?

二人はほぼゼロ距離…何をやってもべリアちゃんを巻き込んでしまいそうだし…ざっと見たところべリアちゃんは勇者より少し強いくらいみたいだから簡単に殺してしまいそうで不安だ。


「今!逃げるわよレザ!」


瞬間、大爆発が起こった。

もうほんとに大爆発。私自身には一切のダメージはないけれど爆風も煙もすごい。

お風呂入りたい~。

いやその前に、逃げられるのはまずい。私は何が何でもレザを殺さないといけないのだ。


「やれやれ~ケガしても恨みっこなしだよべリアちゃん」


私は二人を追いかけるべく走り出した。



_________



「べリア…!俺はいいから一人で逃げるんだ!リリはお前を敵だと認識してない!お前だけなら助かるはずだ!」

「うるさい!ただでさえあんたを抱えてて重いんだから無駄口叩くな!」


べリアはこうなると話を聞かない。

普段はそのたぐいまれな戦闘能力と驚異的な勘の良さで頼れる良きパートナーだが今はダメだ。

たとえ彼女でもリリには勝てない。

闘争心旺盛なべリア本人が逃げることを選択していることからべリア自身もリリから何かを感じ取ったはずだ。


「すぐに追いつかれる!あれは敵に回したらダメなんだ!今はよくてもこうなったらお前も敵になってしまうかもしれないんだぞ!」

「うるさいって言って…っ!?」


べリアが突然地面を転がるように大げさな動作をとった。

その直後、何かが俺たちの頭上を通り過ぎ、べリアの長髪の一部を切り取った。

初めに俺の右腕を奪った謎の斬撃だ。


「ちっ!なんかヤバい気がして避けたけどなによあれ!何も見えやしない!」

「やはりすでにお前ごと俺をやるつもりだ!」


「ああもう!このまま追い付かれる前に突っ切るわよ!」

「べリア!」


なぜわかってくれないんだ!このままでは二人とも殺されてしまう!

それにこの先は…!


「逃げ切れたとしてもこの先は魔界だ!あいつは危険だ、魔界に連れていくにはリスクが…!」

「なんであたしがここまで来たと思ってんのよ!アルギナ様があんたがヤバいって教えてくれたの!この先でアルギナ様と魔王様が何か対策を用意してくれてるはずだからとにかくそこまで逃げるのよ!」


俺だってべリアが来た時点でそんなことは分かってる!でもダメなんだ…!何をやってもリリは止まらない…!それが伝わらないのがこんなにももどかしい。


「ぐだぐだすんな!もう覚悟決めるしかないでしょうが!」


覚悟なんて決められるはずがない、なぜなら俺の耳にはずっとその音が聞こえているから。


カタカタカタカタカタ

ギギギギギギ


それはどんどん近づいてきて。


「やっほー」


俺の顔を覗き込んでいた。


「ちぃ!」


べリアはリリの姿を確認したその瞬間に間髪入れず剣をリリにたたきつける。

劫火の魔剣と呼ばれるその剣は、べリアが得意とする炎の魔法を極限まで高め圧縮された全てを焼き尽くす魔剣だ。

生半可な存在では触れることさえできはしない。だが、あぁ…。

やはりリリは顔色一つ変えず剣を素手で受け止めていた。


「うおっなんだこれ?なんかあったかいね?この剣」

「馬鹿にすんな!起爆!」


べリアの掛け声で再び大爆発が起こる。べリア本人に火は一切効果を及ぼさず、べリアの頭髪を加工した特殊なアクセサリーを持っている俺にも同じくダメージは起こらない。だからこそ至近距離でも爆発を起こせる。


「こうなったらできるだけたたみかける!」


べリアが俺を地面に横たわらせ魔剣を構えて次々と技を繰り出していく。


「燃えろ!!!」


べリアはもてる技術、魔法その全てを持ってリリに炎を叩き込んでいく。

半壊しているこの空間そのものを焼き尽くしてしまいそうなほどの地獄の業火。

これを受けて無事であるものなんてこの世界でもほんの一握りだけだろう…そしてリリは。


その一握りだった。


「終わった?もうネタ切れかな?諦めついた?」


関節からあのいびつな音を鳴らして涼しい顔のリリが姿を現す。


「…嘘だろ…化け物なんて生易しい物じゃないじゃない…!」

「わかっただろべリア…もういい。俺を置いてお前だけで逃げろ」

「うんうん、私もそうしてくれるととっても嬉しいよべリアちゃん」


「いいや、一か八か倒せないかやってみただけで…どちらにせよもうゴールだ」


そう言ってべリアが魔剣を地面にたたきつけた。

そして起こった爆発は爆風を起こし、べリアと俺を吹き飛ばす。

その先にこの空間の出口があった。


空間を突き破り、出てきた場所で腕がないから受け身を取ることもできず転がる。


「げほっ!げほっ!…ここは…魔王城…?」

「ああ、よく戻って来たなレザ」


俺を抱き起したのは魔王様だった。


「べリアも良くやってくれた」

「やれたのかどうかは分からないですけどね…来ますよ」


空間を突き破るように人形の腕が出てきた。不気味にカタカタと音を鳴らしながら指が動いている。

あの動作を見るだけで強烈な吐き気が襲う。

やがてその全身が魔王城に降り立った。

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