第9話人形少女は魔王と出会う
逃げた二人を追ってたどり着いた場所はなんだか豪華な部屋だった。
まるでお話に出てくるお城みたいな。
そして少し離れた位置に目的のレザとどうしようか迷い中のべリアちゃん。さらにもう一人、知らない人がいた。
また増えたな~どうか邪魔されませんように。
「およ?」
とりあえず近づこうとしたのだけど…何か目に見えない壁のようなものがあって前に進むことができない。
いや前だけじゃなくて横にもあるし、いつの間にか後ろにも…閉じ込められた?
「う~ん?」
目に見えない壁をコンコンと叩いてみる。壊そうと思えば壊せそうだ。
やってみる?そうしよう。せーの。
「はじめまして、だな」
「あら」
私が渾身の右ストレートを繰り出そうとした時、知らない人が声をかけてきた。
挨拶をされたならちゃんと返さないとね。
いや、前世では考えられなかったけれど、数百年も黙りっぱなしだと人と会話できるのがなんだか嬉しくて、お話をするの好きになっちゃったんだよね。
「はじめまして~どちらさま?」
「…私はこの城、ひいてはこの魔界を統べる者…皆からは魔王と呼ばれている者だ」
「おやまぁ」
意外や意外、魔王様なんと女性でした。
艶やかで独特の色の髪を腰まで垂らしたややたれ目気味だがクールそうな表情をしたやたらと美人な女性だ。
「…少し君と話がしたい。時間を貰えないだろうか」
「うーん…」
ちらっとレザを見る。逃げる気配はない…どうやらこの場にとどまるようだ。
「少しならいいよ~」
「感謝しよう。まず単刀直入に言わせてもらいたい。レザを許しては貰えないだろうか」
「ダメ」
「即答か…もちろん相応の謝罪は用意する。それでも考慮は無理か?」
「じゃあ私が諦めたら今この場で代わりにレザ君を殺してくれる?」
「それは…無理だ」
「じゃあダメ」
魔王が少しだけ考え込むようなしぐさをする。
うむむ…あんまり楽しい話じゃないなぁ…もうさっさと用件だけ済ませたほうがいいかもしれない。
「よく聞いてほしい、パペット…いや、名はあるのか?」
「リリ」
「リリか。ならば聞いてほしいリリよ。お前は今、お前用に作られた特殊な結界で囲まれている…それは理解しているか?」
「これのこと?」
コンコンと壁を数回だけ叩く。
「ああ、そうだ。こんな手は正直好まないがレザの命を狙うというのならそこから出すことはできない」
「うーん…これって何か特殊な壁なの?」
目に見えない以外は普通の壁のきがするけど?
「ああ、君用に私の配下が特別に作った結界だ。自力で出るには…少しばかり苦労するだろ?」
「そうなの?どれどれ」
少しだけ力を入れて殴りつけてみる。
え…ひびが入っちゃったけど…?魔王を見ると少しだけびっくりしたような顔をしていた。
「えっと?」
「なるほど…だがリリ。そこから出るには少しばかり時間がいるだろう?その間に君を魔法でしば、」
「魔王様!!!」
魔王の言葉を突然、レザが大声でさえぎった。
上司の言葉に横やりを入れるなんていいのかい?というか魔王は今何を言おうとしたんだろうか?
「魔法で?なに?」
「…いや」
それっきり魔王は口を閉じてしまった。
お話はもう終わりかな?じゃあそろそろレザにはしんでもらいましょう!
ひびの入った場所をもう一度、先ほどよりも力を込めて殴りつけると壁は全て砕け散り普通に歩けるようになった。
「じゃあレザ君、そろそろ終わりにしようね」
「…頼みがある」
「なあに?」
「魔王様や他の皆には手を出さないでくれ」
「もともと何かする気はないよ~私が殺すのは君だけ」
「…わかった」
レザ君がゆっくりと目を閉じた。
うんうんそういう聞き分けのいい子は大好きです。残念だな~仲良くなれたかもしれないのに。
「じゃあね」
「待て!」
レザを殺そうとするとすごく邪魔が入る。
そして今、間に割り込んできたのは魔王だった。
「危ないよ?」
「待ってくれ。いまこいつを殺されるわけにはいかないんだ」
「そんなこと私には関係ないんだな~これが」
「…取引だ」
「取引?」
「ああ。もしレザを許してもらえるのなら…リリ、君に「君が誰にも縛られなくなる方法」を教える」
なんですと?それは…もしそれが本当なのだとしたら…?
「嘘じゃない?」
「正直、成功するかはわからない。だが試す価値はある方法だとは思う」
「そっか~…うん。いいよ」
「本当か!?」
「ただし、成功したらね。もし失敗したらレザ君は殺す」
いいや、それだけじゃだめだ。
きっと今のこの希望に溢れた私の心は突き落とされたらとんでもない事になってしまう。
ならばそれを償ってもらわないといけない。ということはだよ。
「魔王、君も殺す」
「っ!この、あんたいい加減に!」
「静まれ!べリア!…わかった。話を聞いてもらえるだけで今は僥倖だ」
私はとりあえず刃を収めることにした。
ドキドキワクワク。楽しみだな~!成功するといいなぁ~!
この心は期待と希望でいっぱいだった。
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