第261話 糸倉紗々と新崎麗羅

 小中学校と上がるにつれて、私の素行はどんどんと悪くなっていった。

登校も満足にしなかったし、いつもゲームセンターなんかに入り浸った。


たまに学校に顔を出せば陰口を叩くやつを殴った。


異質な私を排除しようとしたのか学校には敵が多く、いじめと呼ばれるもののテンプレートは一通りされたような気がする。

ただ一つだけテンプレートと違ったのは私がやり返すタイプの人間だったという事だろうか。



服を汚されればハサミでそいつの服を切ってやった。


教科書なんて別にいらなかったけど隠されたからそいつの教科書を燃やしてやった。


食べる気がしないまずい給食に虫を入れられたから頭から牛乳をぶっかけて、さらに虫も食わせてやった。


何度も何度も問題を起こして、その度に親に連絡が行ったけど…私の両親は何も言わなかった。

怒りの目も、冷たい目も向けることは無く…ただただ興味なさげに金だけを置いていく。

無駄に金だけは持っている両親が何をしているのかすら私は知らないのだ。



ただ両親が出てくるだけで教師も、私を補導した警察もへこへことして腰を折り、媚びたような顔をしていたから偉い人だったのかもしれない。


でもそんなことはどうでもよくて…私はただ一度だけでいいから両親に私の事を見て欲しかった。

それがいい事でも悪い事でも構わない、私に少しでも感情を向けて欲しかった。



中学の卒業式で私は行動を起こした。

バットを片手に式を無茶苦茶にしてやった。


鬱憤が溜まっていたのもあって散々私を「可愛がってくれた」奴らもこれでもかと叩きのめしてやった。

もう捨て身だった。


「ここまでやれば私を無視なんて出来ないだろ!?なぁ!」


ここからは笑い話で、私は何の罪にも問われることは無かった。

年齢的な問題?違う。

両親の金だ。

そしてこんな事件を起こしたのに両親は私に何も言わず、いつものように金を置いてどこかに行こうとしている。


「なぁ父さん、母さん…なんで私を作ったんだよ」


それがどういう感情から来た質問なのかもう思い出せない。

どんな答えを返して欲しかったのかも…ただ──


「事故だ」


こんな答えが欲しかったわけじゃないのだけは確かだった。

私はようやくそこで諦めた。


高校へは行かず、私一人のために与えられた家に引きこもって、両親の金をひたすら食いつぶそうとしてやった。

そんなことをしたところで両親の財産にはほぼノーダメージなのも笑いどころだ。


そしてそんなもうどうしようもなくなった私とは正反対で…なのに同じくどうしようもない馬鹿が一人いた。

それが新崎だ。


「紗々ちゃん。ちゃんと食べてる?」

「うるせぇ、どうでもいいだろ」


私が何か問題を起こした後は決まって家に来て世話を焼こうとするうざったい女だ。

学校では優等生で通ってるくせに問題児の私と絡もうとするからウザすぎて距離を置くようにした。

だというのにこの女はいつも笑いながら近づいてくる…何が楽しいんだか。


「…今日も殴られたのかよ」

「え?あぁ違うよ、たまたまお母さんの手が当たっただけだから」


新崎は私と同じように…いや、少し違うが親という物に囚われた馬鹿な女だった。


精神を病み、日常的に新崎を虐待している救いようのない母親なのに、その人に振り向いてもらおうと優等生を演じている。


最初のほうは新崎を説得しようとしたがその時に新崎に頬をぶたれて以来は関わらないようにした。

新崎も思わずやってしまったようで謝られはしたが…そこから私はなんとなく気まずくなってしまった。


一度だけ私が新崎の親を殺せばすべて丸く収まるのではないかと考えもしたが…そうしたら新崎が壊れてしまいそうでできなかった。

こんな女どうなろうと気にならないが…目覚めが悪い気がしてなんとなくやめた。


「もっとちゃんとした生活しなよ。紗々ちゃんせっかくかわいいのに」

「知るか」


「も~…私しばらくこれなくなるから心配だよ」

「目障りな女が来なくなってむしろせいせいするわ。なんだ男でもできたのか?」


「違うよ、ちょっとアルバイト始めるんだ。あと勉強の時間も増やさないといけないから」

「あ?まさか独り立ちするつもりか?」


ようやく目が覚めたのかと少しだけ期待した。

だが新崎の答えは…やっぱり救いようのない物だった。


「ううん、お母さん大変そうだから少しでも家にお金入れたいなって。あといい大学に入れたらきっと喜んでくれるもの」

「お前…いい加減目を覚ませよ!」


私の家のゴミをまとめていた新崎の胸倉をつかんで怒鳴った。

本当にイライラする。


「…ずっと起きてるよ私は」

「馬鹿にしてんのか」


「放してよ」

「あのババアはお前の事娘なんか思ってない!お前自身分かってんだろ!?」


「そんなことない、お母さんは今疲れてるだけだもの」

「疲れてるだけって…何年経ってると思ってんだよ!もう無理だってわかれよ!あんな奴のために頑張る意味なんてないだろ!」


新崎は私の目を見ようとはしなかった。


「…私は紗々ちゃんとは違う」

「ああ!?」


「私が…紗々ちゃんと違ってお母さんと暮らしてるからって八つ当たりしないでよ!」


ドンと突き飛ばされて尻もちをついた。

新崎から言われたことが…自分でも驚くほど胸に刺さって動くことができない。


「…ごめん。でもこれは私の問題だから」


新崎は私の顔を見ないまま、家を出て行ってしまった。

律儀にゴミ袋はもって。


「何なんだよ…二度と来るんじゃねぇ!クソ女!」


それ以来、新崎が家に来ることは無かった。

そして…あの日を迎えることになる。

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