第292話 人形少女は悪寒がする
「うーん…マナギスさんって学者さんか研究者さんみたいな感じなんだよね?小難しい話しているし」
「そうだね。どちらかと言うと研究者のほうが正しいかもね」
「じゃあ「思いたくない」とかじゃなくて、それを科学的?魔法的?とかで解明しないといけない立場なんじゃないの」
分野の違いなどはあれども、そういうのがしたくて科学者になるのではないだろうか。
よくわからないけどさ。
「そうだね、間違ってないよ。現に私も以前はそう思っていたからね。きっかけはなんだったか…幼いころになんとなく人という存在に疑問を持ったんだ。考えたことは無いかな?どうして私たちには意識や感情という物が備わっているのだろうか?それはどこから来ているのだろうか?そもそもどうして身体を自分の意のままに操ることができるのか…考えれば考えるほど不思議でね。幼心ながらどうしても知りたくなった…というよりは考えすぎて思考の迷宮にどんどんハマっていった」
「ほぇ~」
ちなみにだがマナギスさんが言ったようなことは考えたことは無い。
そんなめんどくさい事考えながら生きていくのは私には無理だ。
人に迷惑をかけずに、楽しければいいのよ人生なんて。
「そうやって気になりすぎた私は何をしたと思う?子供特有の好奇心に駆られるままに何をしたと思う?」
「知らないよ」
私はマナギスさんじゃないのだからわかるはずがない。
本でも読んだのかな。
「その腐った頭で考えたことなんざろくでもない事に決まってる。そこら辺の奴を解剖でもしたんじゃねえか?」
コウちゃんもめんどくさそうに答えた。
しかし煽ることは忘れないあたりさすがだなと思った。
「あはははは!さすがは皇帝様だ!私たち下々の人の心理をよく理解している。その通りだよ」
正解でした。
拍手でも送っておこうかと思ったけど、ものすっっっっごい微妙な顔をしているコウちゃんにそんな真似をしたら怒られそうなのでやめておいた。
あんまりコウちゃんに何かすると、せっかくうやむやにできた流れ星の件を蒸し返される恐れがあるからね!
「正確には最初は「そこら辺の奴」ではなくて母親だったかな。いや…父親だったかも…?昔過ぎて覚えてないや。結局はどちらも解剖したからね」
「両親を解剖したの?うへぇ」
「そんなにおかしい事かな?私はどうしても人という種の構造が知りたくて、近くにサンプルがあったんだよ?手を出さないほうがおかしいと思うのだけど」
いいえ、手を出すほうがおかしいです。
「手を出す方がおかしいに決まっているだろうがボケナス」
うむ。
流石コウちゃんはちゃんと言ってくれる。
「神様にはやっぱり私たち地を這う人間の気持ちは分からないという事かな。まぁいいよ、とにかく私は好奇心の赴くまま、知的探求心に従って両親を解剖した。結果はそこそこ…なんせ初めてのことだったからどれが傷つけたらダメな器官かもわからない。血が流れ過ぎると死ぬとかもわからないから…うん…両親の解剖はほとんど意味はなかったね。とりあえず「人は死ぬ」ということだけ理解したんだ~。でもさそこでやめてしまったら両親の死が無駄なものになってしまうだろう?私を産み育ててくれた大切な家族の死に報いるために今度は近所の子供を解剖し、大人にも手を伸ばしていろいろやってみた」
そこでマナギスさんは俯いて、悲しげな表情を見せた。
いやそんな顔をされても…。
というか当時は事件にならなかったのだろうかそれ?千年単位で昔のことのはずだからまだそういうところも緩かったのだろうか?
「たくさんの人を解剖して私は悲しい現実というやつを知ってしまった。ねぇリリちゃんに皇帝様。知っているかい?人は…死ぬんだよ」
「当たり前のことをもったいぶって言うんじゃねぇ。そんなもん普通に生きてるだけで皆わかる事なんだよ馬鹿が」
「そう、だよね…だけど私は曖昧ではなく、実感として人が死ぬという事を理解してしまったんだ。当時の幼い少女だった私が少し手を出すだけで大人でさえもあっけなく死んでしまう…人の身体という物は驚くほど脆く、か弱い物だんだよ。人が大した存在ではないと理解してしまったんだ…」
人はあっけなく死ぬ。
確かにそれはその通りなのだろう。
前世での私は余りにも唐突に、そして簡単にその生を終えてしまったのだから。
「それからはもうダメだったよ私は。未来への情熱も、夢もなく…ただの一研究員として当時の大国で働いて…ただ無為に人生を浪費するだけの存在に成り下がった。もうその頃には人を知りたいという気持ちもなくなっていてね…本当に真面目に国のために魔法や兵器の研究にやる気もなく打ち込んでいたよ。でもそんなとき私の目の前に一人の少女が現れたんだ…レイという少女がね」
なるほど。
当時の記憶をちょっと覗いただけだから詳しいところまでは分からないけど…つくづくあの子も運がない子だ。
一人で色々な物を抱え込んで、母親のためにと旅立った先でよりにもよってこの人に頼ってしまったのだから。
「あの子はまさに可能性の塊だった。人でありながら様々な条件が重なり、人という種の限界を越えかけていた!あの子に出会ったその瞬間に…私の中で消えていたはずの情熱が再び燃え上がったんだ!だから私は今度は丁寧にゆっくりと彼女を解剖した。死なないように丁寧に丁寧に…そして得た情報を元に研究、検証を行ってレイの身体をいじった。少しでも彼女の持つ素晴らしい可能性を大空にはばたかせてあげたかった!それが私の心に再び火をともしてくれたことへの唯一のお礼だと思ったからね」
「…私もそこそこ好き勝手に生きている自覚はあるけどマナギスさんの独りよがり感はすごいねぇ」
もう敵討ちどうこうの前に普通に殺したほうがいい気がする。
コウちゃんはどう考えているだろうか…。
「独りよがりか…確かにそうかもしれないね。だけどさ人として犠牲になった者たちの命を無駄には出来ないでしょう?だから私は私の研究のために命を散らしたみんなのためにもやり遂げないといけないと思ったの…人の可能性の大きさを。私たちはここまでやれるんだという事を世界に証明したい。さて、どうして強い人形が必要なのかと聞いたね?」
マナギスさんの刺すような視線が私を捉えた。
背筋にゾクッとした感覚を覚える。
なにか…なにか嫌な予感がする…?
「人には無限の可能性が眠っている。私たちがその気になれば出来ない事なんてこの世界にはないし、努力すれば夢は必ず叶う。だけど…そんな可能性に対して人の魂の器である肉の身体は驚くほどに脆い…悲しいほどに貧弱で、無様なほどに虚弱だ。小突いただけで死ぬし馬鹿みたいな事故でも機能を停止してしまう。だから私は…人の可能性に見合っただけのちゃんとした身体が欲しい!そのために私は人の身体より頑丈でありつつ人の形状をした人形に目を付けた。そして今でも私は強い人形を作るために心血を注いでいる。どうだろうリリちゃん…ここまでの話を聞いて私を協力をする気が少しでも起きないかな?」
「起きないねぇ」
寧ろ減ったね。
元からなかったけどさらになくなった。
マイナスだマイナス。
「じゃあしょうがない。どちらにせよこちらの準備も終わったしね」
マナギスさんは私に何とも言えない、ねっとりと絡みつくような視線を送っていた。
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