第107話 人形少女は看病する

 魔王城に戻ってきて一目散にマオちゃんのお部屋に行くとびっくり仰天。

そのお腹が最後に見た数日前とは比べ物にならないほどに大きくなっていた。


「ま、マオちゃん…?お腹が…大丈夫なの?」

「リリ…?」


消え入りそうな声で私の名前を呼びながらもベッドから起き上がることはできないらしく、苦し気な吐息が漏れ出ていた。


「マオちゃん苦しい…?ど、どうしよう!なにか出来ることは…あわわわ…なんだか痩せちゃってるし…ご飯とかちゃんと食べてる!?何か持ってこようか!?」

「…そうだね…なにか食べたいかな…」


「えっとえっと…!お菓子とか…!」


慌てる私の肩を優しくたたいてメイラが前に出る。


「リリさん落ち着きましょう。こういう時は普通の栄養の取れる食事をバランスよく取るべきです。食欲はありますか?魔王様」

「…」


「魔王様?」

「まぁ…微妙かな…」


マオちゃんが苦し気ながらも急に機嫌が悪くなったような気がするのはおそらく気のせいだと思う。


「なら手軽に栄養が取れるものを…リリさんとにかく材料や調理法をメモしますのでその通りにするかどなたかに作ってもらって…」

「何言ってるの!メイラが来てくれたほうが早いでしょ!」


出来る女メイラの手を引いて部屋の外に出る。

あんな苦し気なマオちゃんを目の当たりにして呑気な事は言ってられない。


「ちょっとリリさん!?私一応外をうろつくなって言われてて…!」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!マオちゃんが最優先!」


厨房に入るとおそらくここの使用人と思われる魔族がいたけど気にせずに材料をあさる。


「あーーーー!!よくわかんない!メイラどれ!?」

「こっちで何とかしますのでリリさんは調理器具やお皿の準備をしていてください」


暗に戦力外と言われた気もするが料理なんてできないから仕方がない。

こういうのはメイラ大先生に任せておいたほうがいいと判断したのでお皿や鍋を探すことにする。


「あ、あの…」

「なに!?」


背後から声をかけられたので振り向くと魔族の皆さんが困ったような表情で立っていた。


「いえその…あまり勝手をされますとその…」

「今それどころじゃないの!」


あんまりここで働いている魔族の人と交流がないから私の事を知らない人がそこそこいっぱいいるのだけど…気にしてる場合じゃない。


「リリさん一回本当に落ち着きましょう。焦ってもいい事ありませんからね」

「…わかった」


数回深呼吸を繰り返し心を落ち着ける。

だけどやっぱりつらそうなマオちゃんの姿を思い出すとすぐにでも何とかしてあげたい気持ちになって…いやだめだめ!しっかりしないと!


「ふぅ~…よしっ!お皿とかこれでいいかな?」

「大丈夫だと思います。そうだリリさん数個果物を見つけたので先に魔王様に持って行ってあげてください。それでどれくらい食べられるかもわかるかもしれませんし」


「わかった!」


メイラからバナナのようなものとリンゴのような果物を貰いマオちゃんの部屋に行こうとした。

すると再び魔族の人が私を止める。


「お待ちくださいませ!」

「…さっきからなに?」


こんなに邪魔をするのなら殺したほうがいいのかもしれない。


「ひっ!…あ、あの!魔王様のお部屋に入れるのですか…?」

「はい?」


「少し前から魔王様のお部屋に入ろうとしても何か結界のようなものがあって部屋に入ることができないのです…それでしばらく食事も持っていけなくて…」

「何を言っているの…?私達普通に入れたけど?というかそれって何日も食べてないってこと!?」


私は魔族を押しのけて慌ててマオちゃんの部屋に向かった。

空間移動使えばいいのだけど焦っているとそのことを忘れてしまうの私の悪いところだ。

部屋につくと扉を開けて中に入ったけれど、やっぱり出たときと同じようにすんなりと入ることができた。

あの魔族は何を言っていたのだろうか?


「マオちゃん!」

「んん…」


慌ててベッドに横たわるマオちゃんに駆け寄ると先ほどよりも顔色が悪いように見えた。


「大丈夫!?いま果物食べさせてあげるからね!」


まずはマオちゃんの身体をゆっくりと抱え起こす。


「ん…リリの手は冷たくて気持ちいいね…」


バナナのような果物の皮を剥き、ナイフで一口サイズに切ってからマオちゃんの口に近づけて食べさせる。


「はむ…ん…」

「食べられそう?」


「うん…おいしぃ…」

「よかった…」


もぐ…もぐ…とゆっくりだけど食べているマオちゃんを見て少しだけホッとした。

サイズが小さめの物だったのでマオちゃんはすぐに一本食べ終えた。


「まだお腹すいてる?」

「うん…少し食べたら一気にお腹すいた気がする…」


「じゃあこっちも剝いてあげるね!」


次はリンゴのような果物をナイフで剥こうとしたのだけれど…いや皮むきなんて出来るわけない…仕方ないから皮を残したままで一回切り分けて皮の部分だけはぎ取るようにしよう。


「なんか…ずっと…このままでも、いいかなって…少し思ってきたよ…」

「ん!?何言ってるのマオちゃん」


「だって…こうやって一緒にいてくれて…私のためにいろいろ…してくれるじゃない…」

「もう全部終わったからどこにもいかないよ。ずっとマオちゃんの側にいるから…何でも言ってね」


「うん…うれしい…」


メイラが料理を運んで来るまで細切れにしたリンゴをゆっくりと食べさせ続けていた。

それから少ししてお腹がいっぱいになったからかマオちゃんが寝息をたてて眠りだした。


「とりあえず私はリリさんの部屋にいますので何かあったらまた呼んでください」

「うん、ありがとねメイラ」


「いえいえ」


空間移動でメイラを私の部屋に戻して、私はベッドの横に椅子を置いて眠るマオちゃんを見つめていた。

どれくらいそうしていただろうか?特に何をするでもなく過ごしていた時、急にマオちゃんの部屋が闇に包まれた。

いや違う…これは私だけが取り込まれた?

何かが軋むような音がしてそちらを見ると…そこにいなくなっていた巨大人形ちゃんがいて、その両腕に大切に包み込むようにして何かを抱えていた。

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