第300話 人形少女と魔女の失敗
「惟神を作った?なにそれどういう事?」
ほとんど覚えてないけれど、凄く前にクチナシやコウちゃんたちに説明された「惟神」という物は神様の証明を世界に示してなんちゃら~みたいな話だったはず。
それをマナギスさんが作ったとはいったい…?
「そのままの意味だよ。惟神なんてつまらない物を作ってしまったのは私なんだ…」
心底後悔したようにマナギスさんは肩を落とす。
全く意味は分かっていないけれど、もし本当に惟神という物を生み出したというのならそれはとてもすごい事だと思うのだけどどうなのだろう?
「不思議そうな顔をしているね…そうだよね人間じゃないリリちゃんには分からないよね…この気持ちは」
「なんかカチンとくる言い方だなぁ」
身体は確かに人形だけど、心は人間のまま…のはず?
「ああごめんよ。それくらいショックなことでさぁ…いやさ、以前だけど私がレイをいじくりまわしていた時にさ…ふと思いついちゃってね…この子の力を極限まで高めればどうなるのだろうとさ」
その言葉に怒りを覚えたけど顔にも口にも出さない。
今はちょっとでも情報を得るのが優先だと思うから、いちいち話を中断させないほうがいいでしょう。
「だからあの子が持っていた神性を身体が壊れてしまわないギリギリまでまずは高めて、それにレイが慣れてきたところで一気に限界以上まで引き上げた」
「大丈夫だったのそれ」
「ははは、舐めちゃダメだよリリちゃん。限界を超えられなくて何が人間だというのさ。計算上は全身の血液が沸騰したり、筋繊維がはじけ飛んだりって結果は出たけど…数字で人の可能性は計ることは出来ないだろう?現にレイは無事だったしね」
「ほ~」
レイの事を凄いなあの子と褒めるべきか、ヤバいなこの女と驚愕するべきか…マナギスさんは間違いなくヤバい女だとは思うのだけど。
数字で計れないというのならなぜ計算したのか。
頭いい雰囲気を出しているけど、間違いなく出会った人間の中でダントツで頭が悪い部類の人だ。
「無事だったんだけどもさ…はぁ…な~んか変な方向に行っちゃって人の限界を超えるどころか人外の「神様」になっちゃった。そうやって生まれてしまったのが「惟神」。レイの帯びていた神性がまさかの方向で作用してしまったものだねぇ…本当にがっかりだ」
「がっかりなの?凄い事じゃん」
「いやいや、人間でなくなってしまうのなら意味がないんだよ。私は人の可能性そのものを証明したいのだからね。だからなんとか人に戻せないかと色々試してみて、最終的に母親を殺させたり脳を修復不可能なレベルまで無茶苦茶にいじってみて精神を懇切丁寧に壊してみたんだけど…ダメだったんだよ。はぁ…自分の失敗を話すのがこれほど恥ずかしいとは思わなかったよ」
この人なりにこだわりがあるらしい。
本当になんでレイはこんな人を頼ったんだ。
まぁ前世で私なんかと仲良?くしていたわけだし変人に引き寄せられる何か習性のようなものを持っているのかもしれない。
だからと言って残念だったねと済ませるつもりはないけれど。
この人は殺す。
私がそんな事を考えているのを知ってか知らずかマナギスさんは暗い表情のままで話を続ける。
「私のその失敗は色々と尾を引いていてね…レイが欠片となって散らばったあとはその欠片が入り込んだ人が適合すれば最終的に惟神に目覚める神様に変容させるまでになってしまった。本当に失敗だ…あの皇帝様だって人のままだったのならさぞ素晴らしい存在だっただろうに」
なるほど。
それが神様が産まれる仕組み…うん?じゃあなんで私は惟神が使えるの?
「…私の中にもレイの欠片があるってこと?」
「いや?そんなはずは無いよ。あれは人族にしか定着しない。それ以外の種族、魔族や悪魔なんかはあの欠片に適合することができないから吸収されたとしても異能には目覚めずに、せいぜい身体能力が向上する…てい、ど………そうだ、その程度で終わるはずだね?うーん?」
マナギスさんは顎に手を当てて何かを考え込みだし、十秒ほどで顔を上げた。
「まぁどうでもいいか。神様のことなんて興味ないしね。さて私は黒歴史を離し終えたわけだけど次はリリちゃんに色々聞いちゃおうかな?」
「何が聞きたいのさ~」
「そうだねぇ…とりあえず魔力はいつ回復するのかな?」
「さぁ」
分かるけど教えてあげる義理もない。
このままのらりくらりと質問をかわしていく方向で行こう。
「う~ん…リリちゃんさぁ、私に制御権を奪われていることだし、少しくらいは私に優しくして置いたほうがいいと思わない?あんまり私の機嫌を損ねると大変な事になっちゃうかもよ?」
「そうだねぇ」
まぁ実際それを考えると怖い。
あの身体を好き勝手に動かされ、何一つ私の思い通りにならないあの頃に戻ると思うとついつい震えてしまいそうになる。
でも今は私はあんまり心配していないのだ。
だって待っていればそのうち───
その時、まるで大爆発が起こったかのような轟音が窓のない部屋に響き渡った。
それは一度ではなく、二度三度と続きどんどんこちらに近づいてくる。
「なんだい!?」
マナギスさんは驚いて慌てているけど私はその音が近づいてくるたびに安心感が増していく。
だってそれは私がこの世界で一番安心できる人の気配だったから。
一際大きな轟音と共にこの部屋の壁が吹き飛んだ。
パラパラと落ちる壁の破片や舞い上がる砂埃や粉塵に混じって真っ赤なオーラのようなものが見える。
「なんだなんだ…何が来たのさ…いや、何を連れて来たのさリリちゃん」
「さぁ~?」
質問には答えないスタイル継続。
それにどうせすぐにわかる。
その人は私の最愛の人なのだから。
「…随分とてこずらせてくれたわね、横恋慕する雌豚が」
可愛らしい口から放たれた言葉にびっくりしてしまったけど、壁をぶち破って現れた人物は…見るまでもなくマオちゃんだった。
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