第125話 ある神様の御伽噺2
世界に一人っきりだった神様が一つの小さな芽を見つけた。
神様は芽の側で眠りにつき、その力を受けて育った芽は大樹となり、そこからたくさんの生命が産まれ神様はひとりぼっちではなくなった。
そして神様に初めてできた友達は銀色の大きな龍で、眠る前と比べて様変わりした世界を毎日のようにその背に乗って眺めて回っていた。
「わぁ~すごい!あなたとても高く飛べるのね!」
「これくらいなんて事もない」
あの何もなかった砂と暗闇だけの世界だったのに今では緑と青に覆われて眩しいほどに美しく、どれだけ眺めても飽きない。
生き物もたくさんいて、小さな動物や龍の様に大きなものまで千差万別…その中でも自分によく似た姿をした人という種族に神様は溢れんばかりの関心を抱いた。
「ねーねーレリズメルド」
「なんだ?」
「あの私とよく似た種族のみんなと仲良くなれないかなぁ」
「…やめておいたほうがいい」
てっきりこの大きな友達は背中を押してくれるものだと思っていたため神様は驚いた。
「どうして?」
「あなたはこの世界を創った神様で、人族は弱い生き物だ。きっとあなたという存在に耐えられはしない」
この時、神様はレリズメルドの言うことが良くわかっていなかった。
この事が少しずつ何かを狂わせてくことに神様はまだ気づいていない。
世界の中心にある大樹…それは始まりの樹と呼ばれ、意志を持つ生き物は例外なくその樹を敬い、崇め奉った。
意思を持たない生き物も始まりの樹にだけは手を出さない。
神様はそこでたまに遊びに来てくれるレリズメルドと戯れる以外は世界を覗いて暇をつぶしていた。
ある日、神様は人族同士が争っていることに気が付いた。
「ねえレリズメルド…どうして人はお互いに傷つけあっているの?」
「彼らはお互いの違いを受け入れられないのさ」
「違い?」
「人間の中に人族と魔族で別れているのは気づいているか?」
言われて初めて神様は人間に二種類の種族がいたことに気が付いた。
神様の見た目により近く、しかしその身体は脆くて弱い…しかし数は多い人族。
神様の形をベースにどこか一部が異形化し鋭い爪や角などを持った力は強いが数は少ない魔族。
その二つの種族はいつもいがみ合い、争っている。
神様はそれが悲しくて悲しくて仕方がなかった。だから初めて神様は人前にその姿を見せることにした。
レリズメルドは最後の最後まで止めたが、それでも神様は人に手を伸ばした。
人と魔族は始まりの樹から現れた美しい女性の姿をした神を目にし、ひれ伏した。
その身から感じるあまりにも神々しい力を前に自分たちの浅はかさを嘆き、争いはとまった。
その結果に神様は満足して心から喜んでいたけれど、そこから少しずつ神様を取り巻く環境は変わっていった。
始まりの樹の周りにお供え物や献上品としてたくさんの物が置かれるようになった。
それだけならまだいいが酷く天候が荒れたときや、災害が起こった時などに人が集まってくるようになり、困惑した。
口々に「助けてください」などと言ってくるが、そんなこと神様が介入することではない。
無理だ、できないと断っていると次第に生贄と称して人が送られてくるようになった。
それを口実に口減らしで子を送り込んでくる者まで出てくる始末…そしてまた争いが始まった。
「だから私は言ったのだ。人はあなたという存在に耐えられない。超常の力を持つ存在を知ってしまえばそれに頼らずにはいられない」
「そんな…」
ただ争いをやめて欲しかっただけなのに…結局何も変わらず、いやむしろ悪化してしまうという結果に神様は涙を流した。
自分の浅はかさと言いようのない虚しさ…そんなものが神様の胸を満たした。
そんな状況を見守っていたレリズメルドだったが神様の涙の前に怒り、人を追い払った。
神の裁きが下ったのだ。
そんな風に言われたがさらに人は争った。
人族が強欲だから、いや魔族が傲慢だからだ…そんな理由をつけてひたすらに争いは広がっていく。
優勢なのは人族だった。
数の違いに加え、魔族にはない柔軟な思考に発明…それらを持って魔族を蹂躙し、魔族の数は激減し住処も侵略されていった。
「レリズメルド…どうすればいいのかな…私のせいで…」
「…わからない。だが、あなたがそこまで思い詰める必要もないだろう。あれは人の持つ性だ。あなたが手を出さなくてもいずれどちらかが滅ぶまで争いは続いただろう…だから自分を責めるな」
そんな友の言葉を聞きつつも神様は必死に考えた。
どちらかが滅ぶまで争いは無くならないというのなら…どちらかの種族を自分がいないものにすればいい。それが神様が出した精一杯の結論だった。
神様は数の少ない魔族を人族に気づかれないように匿い、決して人と関わらないことを約束させ、始まりの樹の下に小さな魔族の国を作った。
すると人族は魔族の根絶に成功したと喜び、世界を実質支配する生き物となった。
そうなったときにもう一度だけ神様は人の前に姿を見せ、今後一切人間とは関わらない事を宣言して消えた。
当初人間たちはその宣言に見捨てるのかと焦り、抗議したが神様が聞く耳を持たないとなると諦めた。
そこからは魔族の国でやはり崇められながらもゆっくりとした時間を過ごしていたがある日、始まりの樹の側に小さな人間の赤子が捨てられていた。
見捨てるわけにはいかず、その子供を神様は拾い上げ…「レイ」と名前を付けた。
これが悲劇の始まり、その第一歩。
――――――――
「本当にやるつもりなのか?女狐」
「ああ」
「もしもの事があったらどうする」
「それはそれで構わないさ。失敗しても成功しても私に損失はないし…アルソフィアの子供の正体ももしかしたらわかるかもしれないぞ」
「つい先日あの娘は自分の子だとか言うておった癖に」
「最近のアルソフィアは私の手から離れようとしているようだからな。それでは困るんだよ…何のためにあの子にここまで時間をかけてきたと思っている」
「…ワシにはやはり理解できぬわ」
「だろうさ。私の胸中など私にしか分からないのだからな」
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