第186話 人形少女は服を返す
とりあえず屋敷に戻ると掃除をしていた悪魔ちゃん二人が私にぺこりと頭を下げてマオちゃんと娘たちはお風呂に入ってると教えてくれた。
正直マオちゃんのあの様子だと隠し事をいつかは話してくれると思うけどすぐにではないだろう。
私も考える時間が欲しいからちょうどいいんだけどね。
だから気になるけどそのことで悩むのはおしまい。
今日明日くらいは遊んであげないと娘たちもいい加減怒りそうだしいまのうちに野暮用を済ませてしまおう。
私は悪魔ちゃんに出かけて来ると言っておいてと言付けを頼んで再び空間移動を発動させ、王国に行くことにした。
空間移動してきたところを見られるとめんどくさいのでマナギスさんのお店に直接とぶ。
私の用事はもちろん借りパクしていたドレスの返却である。
そんなこんなでやってきたマナギスさんのお店。
「わぁ」
「わぁ」
移動してきた瞬間にマナギスさんの顔が目の前にあったので少し驚いてしまった。
向こうもそれは同じようで、お互いに間抜けな声を出してその場に固まってしまう。
「えっと、こんにちはマナギスさん。私の事覚えてる?」
「…そりゃあもちろん。お人形のリリちゃんだ。いや…急に出てくるからびっくりしたよ」
「ごめんごめん。外に空間移動繋いじゃうと人に見られちゃうからさ~」
「空間移動…?ちょっと私には理解できなわねぇ…それでどうしたの?こんな時に」
私はいつもの闇空間の中から洗っておいたドレスを取り出しマナギスさんに手渡した。
「これドレス返し忘れてて~」
「今どこから出したのこれ…はぁ~本当にすごいお人形さんなのねぇ。ちょっと一回でいいから分解させてくれたりは?」
「しない~」
「残念」
「それよりこんな時にって忙しいの?」
「ん?知らないの?ちょっと大変な事になっててね~」
よく見るとマナギスさんのお店は前に来たときに比べて物が少なくなっており、商品なんかもほとんどが片づけられている状態だった。
「お店閉めるの?」
「そうなるでしょうねぇ~というか君が犯人じゃないの?」
「ん?何の話?」
「君が王宮に侵入した日にそこにいる偉い人たちがみんな殺されるって事件があってね~この国はもう終わりだよたぶん。王様からお姫様に宰相から本当にみんな死んでしまったから」
そういえばそんなことがあったなと思い出した。
あれは私も大変だった…物探しに来ただけだったのにホラー映画もびっくりの惨状だったし、無実の罪を着せられかけるわで…あ。
「待って!私じゃないよ!?私が行った時にはすでにああなってたから!」
「そうなの?まぁ私はどっちでもいいんだよ別に」
「え」
「私はねこう見えても職人だから。自分の手で最高のパペットを生みだせればそれでいいの。だからその足掛かりになるかもしれないあなたに敵対するようなことはしないの」
おっと、この人さてはヤバイ人だな?
こういう人は何をやらかすか分からないから気を付けておこう。
「一応言っておくけど私のこと探ろうとしたりしたら殺すから」
「おっと。怒らないで、悪かったよ」
「怒ってないよ?一応言っただけ」
「そっか~ところで探るって言うのは?どこまでアウト?」
「ん~…私を作った奴の事なんかにたどり着いちゃうと殺しちゃうかも」
「それはちょっと厳しいかもねぇ…まぁでもわかったよ。気を付けるよ、うん」
正直もうどうでもいい感じではあるのだけどマナギスさんがもし私を作ったアイツと同じところまで行ってしまったらと考えると不快なのでそこはダメと言っておくことにした。
「うんうん、お気をつけ~。それにしても国が終わりってそんなにひどいの?」
「酷いよ。もう碌に政治ができる人間が残っていないし…それに悪いことに一緒に隣国の王子様まで死んでしまったからね~」
「あれま」
「おかげでこっちの内政はボロボロだってのに隣国はこっちの陰謀だなんだと言って侵攻してきそうな勢いと来た」
「大変だ」
「でもさ、面白いのはここからでね」
そこでマナギスさんが耳打ちするようにしてこそこそと続きを話し出す。
「実はそもそも隣国から王子様が送り込まれてきたのもこの国を侵略するための布石だったみたいでね」
「そうなの?」
「そそ。あまりに隣国の動きが早すぎる。これはもともと準備されていたことで間違いないね」
「へぇ~」
「んでね?ここからがさらに面白い。これは表には公表されてないんだけど…なんとなんと王国側も隣国を無理やり取り込むつもりでお姫様の結婚話を持ち掛けていたみたいなんだよ」
「ええ?」
なんだかぐちゃぐちゃした話になって来たぞ?
「王宮内を詳しく調べたところそんな感じの資料と計画書が出てきたんだってさ。面白いと思わないかい?今回起きた世紀の惨劇には人間の醜いところがたっぷりと詰まっている。私の大好きな美しいパペットたちにはない汚い泥のような物を心に秘めた人間だからこその喜劇だよ」
「ほほう~」
正直なにがそんなに面白いのかは分からないけどマナギスさんはすっごく楽しそうだった。
「ま、そんなわけで私はさっさとこの国を抜け出して次の場所に行こうかなってね~」
「次はどこ行くの?」
「まさに今渦中の隣国まで行ってこようかな~って思ってるよ」
「え?そこも危ないんじゃ?」
「いやいや、この国に戦う力なんてないよ」
「そうなの?兵士の人とかも死んじゃったの?」
マナギスさんは目を細めてクスクスと笑う。
「あのね?人間は頭がないと動けないの。それは集団、国という大きなくくりになっても変わらない。自分で考える脳を持っているくせに別に命令されないと動けない…それが人間。もう何をどうしようと統制のとれた軍に対抗なんてできはしないの」
「そういうものなのかぁ」
「それにねなんでも隣国には今面白い芸をする旅人が来ていて話題になってるそうだよ」
「面白い芸?」
「うん、なんでも不思議な舞と詩を詠む美人だとか」
「ふ~ん?」
私にはよくわからない話だった。
邪魔しちゃ悪いしそろそろお暇しようかなと考えたところでお店の裏にある扉が開いて中から男が出てきた。
まさかマナギスさんの彼氏?
「いやぁマナギス女史、いい湯だったよありがとう」
「ああ、どういたしまして~。お連れさんの様子はどう?」
「いや何とも言えないね。僕たちもそろそろ動かないとまずいのだがいかんせん彼をどうにかするための手がかりが…」
よく見るとヒートくんだった。
「やっほ~ヒートくん」
「…」
ヒートくんが無言で屈伸したり腕を伸ばしたりと準備体操のような物を始める。
なので私もさりげなくお店の出口の方向に身体を向ける。
「…」
「…」
今だ!!!
瞬間、私は華麗なる全力ダッシュでその場から逃げた。
勢いよく扉を開けてなにやら以前来たときよりも寂れてしまったように見える街を駆け抜けていく。
後ろからは同じく全力疾走でヒートくんが追って来ている気配がするので、また以前のように曲がり角を曲がった瞬間に空間移動で屋敷に帰ることに成功したのだった。
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