第210話人形少女と魔王少女は誓い合う 上
≪マオside≫
何か硬い感触がする。
つるつるしてて冷たくて…だけど不思議な安心感があって心が温まるような感覚。
これはきっと…。
「…リ、リ…?」
「っ!?マオちゃん!起きたの!?」
目を開けると心配そうな顔をしたリリが私を覗き込んでいた。
やっぱりこの手に伝わってくる感触はリリが手を握ってくれていたものみたい。
まだ少しぼ~っとする頭を無理やり起こしてぼんやりとあたりを見渡すとどうやら屋敷の寝室まで運んできてもらったらしい。
見慣れた場所に寝慣れたベッドの上で、窓からは夜空が覗いておりかなりの時間寝ていたらしいことが分かった。
「ごめんね、心配かけちゃった」
「ううん…マオちゃんが無事ならそれでいいよ。もう大丈夫なの…?」
「うん大丈夫。他のみんなは?」
「クチナシはリフィルとアマリリスを寝かしつけてもらったよ。もう遅い時間だからね…二人ともマオちゃんから離れないって言い張って大変だったんだから」
どうやら本当に心配をかけてしまっていたようだ。
アルギナに文句を言ってやりたいけれど多分もう叶わないんだろうなと寂しさを感じつつせっかくの旅行なのに娘たちに悪いことしたとちょっと胸が痛くなった。
「あ、クララさんは?」
「あの人ならどっか行っちゃったよ」
「そっか…」
「どうかしたの?」
「いや、一言お礼をって」
「なるほど」
まぁ文句も言うかもしれないけれどね。
それからはしばらく二人で無言の時間を過ごした。
不思議なものでリリと二人きりの時は何も喋らなくても気まずくないし退屈でもない。
まぁリリがどう思ってるかは分からないんだけどさ。
そしてリリが水を持ってきてくれたタイミングでいい機会だと私は意を決してリリに向かい合った。
「マオちゃん?」
「リリ…ちょっと聞いてほしい事があるの」
リリなりに何かを感じ取ってくれたのか同じように私と向かい合ってベッドの上に二人で座った。
「あのね…その…前に言ってた話なんだけど…」
さっき水を飲んだのに喉が渇く。
手が震えているのが自分でもわかった。
やっぱりやめてしまおうか…リリなら「やっぱり何でもない」とかいえば納得してくれるはず。
そんな考えが頭をよぎってしまうが私はもう逃げないと決心したのだ。
思えば遅すぎたんだ。
もっと早く話すべきことだった。
リリにだけはちゃんと話さないといけなかった。
だけど同時にリリにだけは話したくなかった事でもある。
唾を飲み込んで…怖いけれどまっすぐとリリの瞳を見て私は全てを話した。
「あのね…私は…」
私がリリに隠していたこと。
魔王の正体とその役目。全て話した。
全部全部、包み隠さず何もかもを話した。
リリは何も言わず静かにじっと聞いてくれていて…不安だった、怖かった。
これでリリの心が離れてしまったら私は…。
話し終わった後に耐えきれなくなってうつむいてしまい…そのままでリリの反応を待った。
まるで刑を言い渡される囚人のような気持ちだ。
やがてリリがゆっくりと口を開いた。
「マオちゃん…ごめん。実は全部知ってたの」
「…え?」
「マオちゃんと二人で魔界に行った後にマリアさんって人が全部教えてくれたの魔王の事」
「そう、なんだ」
さすがにこうなるとは思ってなくて少し困惑している。
マリアさんってだれ?だとかいろいろと処理できない。
リリは気まずそうな顔してどうすればいいか分からない私をよそに話し続ける。
「それでね…その話をきいて私は…」
リリがどこからともなく小さな箱を取り出した。
そのままリリが箱を開くと中には銀色に光るシンプルな指輪が二つ入っていた。
綺麗だな…飾り気も何もないのに私はそう思った。
「実はこれ…マオちゃんにもっと前に渡すつもりだった。だけどその話を聞いて渡せなくなった」
「…っ」
その言葉が私の心に重くのしかかった。
ただ指輪を渡せないと言われただけなのに…なぜだかとても胸が痛かった。
私にはよく分からないけれど…リリにとってその指輪が特別な意味があるものなのだろうなと理解してしまったから。
それを渡せないと言われて私の中の何かがバラバラに砕けそうだ。
リリでも…私を受け入れてはくれないのかと絶望しかけた。
でも仕方がない…魔王とはそういう存在なのだから。
メティアさんになんていえばいいのだろうか…そもそも私はこれからどうすればいいのだろうか?
何もわからない。
「ごめん…マオちゃん私…」
「…」
何か言わなければと思うのに声が出ない。
嫌だお願い捨てないで。
さっきまでの決意も他所にそんな未練がましい事ばかりが浮かんでは消えていく。
私はリリがいないと生きていけないのに…。
「ずっと考えてたの…マリアさんに話を聞いてからずっとずっと…」
ポロっとリリの瞳から涙がこぼれだした。
なんでどうしてリリが泣くの…?
「リリ…?」
リリの瞳からこぼれる涙は堰を切ったかのように溢れ出し、やがて子供のようにワンワンと泣き出してしまった。
「うわあああああああああん!」
「ええ!?ちょ、ちょっとリリ!?どうしたの!?」
「だって…だってぇええええええ~」
怒涛の展開に本当に意味が分からなくなった。
なんとかリリを宥めようとするけど一向に泣きやまない。
そしてリリは、
「どれだけ考えても…いっぱいいっぱい…たくさん考えたけど…でも…マオちゃんが何をそんなに悩んでいるのか全然わからなかったのぉー!わ~~~~~ん!!」
「…はい?」
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