第322話 人形少女は魔王少女と再び契る
クララちゃんの騒動があってから数日。
日が沈んだ月明かり差し込む廃墟に私とマオちゃんは来ていた。
廃墟というには少し失礼かもしれない…何故ならここは元々魔王城があった場所で、この魔族が駆逐された魔界にで一番立派だったはずの場所だから。
でも今はそんな風にはとても見えず、周りの民家だった場所とそう違いはない。
なんとなく壊れるという事への虚しさを思い知った気分だ。
どれだけ立派でも壊れてしまえば何も残らない。
月日が全てを押し流し、やがてはそこにあったという事さえも忘れられていく。
私が普段何気なく踏みつけて歩いている場所にも、ここと同じように素晴らしかったはずの何かがあった場所なのかもしれない。
そう思うと少しだけ悲しく…はならないか。
私には関係ない事だからね。
今が幸せならいいのよ!どれだけ過去に思いを馳せても、私が知らないことは私が気にする事じゃないし、未来を夢想しても妄想以上の何かにはなるはずもなし。
勿論それが絶対に正しいとは言わないけれど、私はせっかく今を生きているのだからいつだって今ある一瞬を楽しみたい。
「どうしたのリリ。なんかしたり顔してるけど」
「んぇ」
せっかくなんとなく賢い事を考えていたのにマオちゃんに横やりを刺されてしまった。
いや…別に意味のない思考なんかよりは目の前にいるマオちゃんのほうが大事なので横やりとは言えないのかもしれない。
というかね…今日はね…ほんっっっっっっっっ~~~~~~~~~~~~~とぉおおおおおおおおに凄い日なのよ!!!
事の始まりは数日前。
遂にマオちゃんに私の制御権を渡す魔法が完成したので早速…という話になったのだけれど、そこでマオちゃんが言ったのだ。
「…ねぇリリ。こういう時は何かないの?」
「ん?何かって?」
「いやほら、リリってこういう時は何か儀式?みたいな習慣があるの!って言ってるから。何かあるのなら合わせてあげたいなって」
私はついついその場に両手と膝をついて崩れ落ちてしまった。
長かった…ここまで本当に長かった…。
ありとあらゆる行事をスルーされ続けて幾星霜…ようやくマオちゃんがそう言うのをやりたいと言ってくれた!!!!
これは妥協できねぇ!何かないのか!?こういう時にぴったりのラブラブな私たちに相応しい行事は!!!!!!???
「結婚式だぁあああああああああああ!!!!」
私のあげた叫びに、その場にいた全員が肩をビクッと振るわせたが、そんなこと気にしている場合じゃない。
私とマオちゃんは結婚式をしていないのだ!何かそれっぽい雰囲気になって、それっぽい事をしただけで結婚式はしていない!!
しないとなぁ!結婚式!!
「メイラ!教会を予約してきて!!」
「あ、はい」
ちなみにだが結婚という文化は一応というか普通にこの世界にもあるらしく、結婚式というものは近いものが人族には文化としてあり、魔族にはないのだとか。
なお、人族の間でもわざわざ式を挙げるのは貴族だとかの一部の人たちだけらしい。
ほぇ~と私には関係ない事だなぁと考えていたけれど、しっかり弊害があり、教会の予約なんて出来なかった。
貴族が開く式だからね…一般ピーポーの結婚式なんて受け付けてないわけですよ。
更には今現在そんな余力のある国はほとんどない。
なんでも最近全世界規模で起こった災害が原因らしい。
ちくしょう!
そんなわけで妥協に妥協を重ねてこの場所にたどり着いたわけである。
夜なのはマオちゃんがそうしたいと言ったからだ。
なんとなくマオちゃんは私と特別な事をするのは夜というイメージがあるらしい。
私もマオちゃんも夜目はきくから何も問題はない。
クチナシもそうだしメイラも当然ながら問題なし。
リフィルも大丈夫で、なぜかアマリリスも大丈夫らしい。
夜型しかいないのか我がファミリーは。
それからは私が前世での知識でどんなことをするのかを伝えて、それらしい準備を整えた。
いや、もちろん経験したことないし、出席したこともないので完全に正しい式ではないのだろうけどそれでもこういうので大切なのは気持ちなのだから大丈夫!たぶん!
「まだかなまだかな~」
先に準備を済ませた私は一高く積まれた瓦礫の前でそわそわしながらマオちゃんを待っていた。
クチナシとメイラが鬼のようなスピードで私たちのドレスを作ってくれて、今はメイラがマオちゃんの着付けとヘアセットをしてくれている。
出来る女は本当に何でもできるんだなぁとしみじみ…。
思えばメイラと出会ったのも凄く昔のように思える…あの頃はまさかこんなことになるなんて思わなかったなぁ。
我ながら遠くまで来たもんだ。
「姉様、綺麗です」
「ありがと」
クチナシが少しだけ頬を赤らめて褒めてくれた。
黒を基準とした細身のドレスは結婚式には似つかわしくないとは思うけれど確かにキレイだ。
露出がそこそこあって、できれば私的には球体関節が見えないほうがよかったんだけど…そんな事を気にしてるのは私だけだ。
過去と決別したからか昔ほど嫌ってほどでもないから、皆が綺麗と言ってくれるならとこのドレスにしてもらった。
髪もいつもたらしてるだけなのを綺麗に編み込んでもらって、自分でも自分が別人に見えるレベルだ。
皆がせっせとやってくれて、本当に私は縁に恵まれたんだなぁって泣きそうになったのは秘密。
やがて私の耳にコツコツとヒールが地面を叩く音が聞こえてきて、ついに来たんだとはやる気持ちを抑える。
「ママの入場です!」
「にゅぅ~じょお~」
マオちゃんをエスコートしてくれていた娘たちが両手を広げて…やってきたマオちゃんを見て息をのんだ。
時間が止まったとはまさにこういうことだ。
何も言えないし何もできない。
「どうかな…リリ」
ただただ私はマオちゃんに釘付けにされていた。
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