第224話 魔王少女は帰りたい
「う、うわああああああああ!!!」
恐怖に駆られた魔族が数人、武器を持って駆け出してきた。
こういう時に逃げ出すのではなく向かってくるというのは魔族たちの攻撃性を現していると言えるのかもしれない。
まぁ数人で向かってきたところでどうするつもりなのだと…いや、もしかして誰がそうなりたい?って聞いたから名乗り出てくれたのかもしれない。
「じゃあお望み通りさようなら」
その場から動きさえせずに向かってきた魔族たちをミンチにした。
丁度そのあたりで歩きすぎて足が痛くなってきたので近くの瓦礫の山となった家にオーラを伸ばして椅子を拝借して座る。
「ああごめんね。ずっと歩いてたから疲れちゃってさ。ちゃんと相手はするから気にしないで」
そういえば皇帝さんにちょっとしたコツを教わった事を思い出した。
私は小柄だから普通に椅子に座るとただの小娘にしか見えないから人前で座る時は足を組んでさらに肘置きを使って偉そうに頬杖を付く。
こうすることでなんとなく支配者感がでるそうな。
リリは背も高くてすっごい美人だからただ座ってるだけでも迫力があるんだけどなぁ~。
あーリリの事考えたら早く帰りたくなってきた。
「かかってくるなら早く来て?私帰りたいんだけど?」
結局家族旅行も台無しにしちゃったし全部終わったらみんなでのんびりと遊んだりしたいな。
魔族が居なくなった魔界を見て回るのはどうだろう?誰にも邪魔されずゆっくりできそうな気がする。
あ~でも死体の処理とか適当だから娘たちに見せるのはちょっと…って思っちゃうなぁ。
一回リリと掃除がてら下見に来るのはどうだろう?いい感じのスポットとか見つかるかもしれないしいい案かもしれない。
それに二人っきりになる口実にもなったり?
いや、娘が邪魔とかじゃ全くないよ?でもやっぱりたまには二人っきりでこう…仲を深めたいわけで。
娘たちとは寝室は別だから夜は二人っきりなんだけど…リリは夜は性欲おばけになるので私としては身体の触れ合いじゃなくて心の触れ合いというかデートみたいな物をちゃんとしたいのよね。
…ちゃんと気持ち良くしてくれるから夜も嫌いじゃないんだけどもさ。
ただし盛り上がったとかいう理由でいきなりお腹に仕込むのだけは辞めさせないといけない。
うん、絶対に。
ほとんど無意識に私の手はいつの間にか下腹部の辺りをさすっていた。
それに気づいて少し気恥ずかしくなって慌てて手を戻すとそこにキラリと光る指輪が目に留まって…。
「ふふっ…本当に家族ができたんだなぁ私に」
もう何度思ったかもわからないことをさらに思ってしまう自分は本当に浮かれてる。
でも仕方ないじゃない、こんなにも嬉しいのだもの。
私はきっといま世界で一番幸せな女だ。
だって欲しかったものを全部手に入れられたのだから。
優しくて強くて綺麗なパートナーに可愛い娘たち…これ以上は何もいらない。
「そう、君たち魔族もいらないんだよ」
私の言葉にビクッと肩を震わせて怖気づいたような表情をする魔族たち。
「どうしたの?以前は君たちが私を前にしたときはもっと楽し気にニタニタ笑ってたじゃない。ほら、あの時みたいに私の事馬鹿にしていいよ?それどころか武器を持って向かって来てもいいのに何を怖がってるんだい?」
挑発してみてもがたがたと震えるだけで魔族たちは動こうとしない。
そんな姿を見せられるたびにこいつ等に心を裂いていた以前の自分がどんどん愚かに思えてくる。
同時にこんな奴らに私より前の魔王たちも苦しめられたんだと思うと怒りも湧いてくる。
もういいや。
「来ないなら私から行くよ?」
手にオーラを集めて魔族たちを一気に薙ぎ払おうとしたその時、聞き覚えのある破裂音が聞こえたと思ったら私の腹部目掛けて何かが飛んできたのでそれをオーラで防いだ。
勢いを殺されて地面に落ちたそれは銀色の筒のようなもので…やはり私はそれに見覚えがあった。
「ふーん、そこにいるの?レザ」
ざわつく魔族たちが道を譲り、その間から出てきた人物はまるで死にかけの老人のような風貌をしていたが間違いなくレザだった。
「アルソフィア…」
「ずいぶんと雰囲気が変わったね。どうしたの」
「白々しい事を…」
「…?」
白々しい事?私が何かしたって事?いや心当たりはないんだけど…。
「それはいい、アルソフィア、一つ聞きたいことがある」
「なに?」
「…俺たちに何があったんだ」
「ん?」
「全部思い出したんだ…俺はお前が好きだった」
「は?」
いきなりどうしたのかわけのわからない事を言いだした。
「べリアも言っていた…何かがおかしいんだ…いつの頃からか俺の、俺たちの考えや記憶が別の物に置き換わっていたんだ…」
「ふーん」
少しばかり要領を得ないけどもしかして原初の神様による思考誘導という奴だろうか?皇帝さんが言ってたやつ。
いや、もしかしたらアルギナが何かした可能性もあるかも。
「なぁアル…教えてくれ…気持ちが悪くて仕方がないんだ…」
「触らないでよ」
フラフラと私に手を伸ばしてくるレザの手をオーラで払う。
本能というかなんというか…触られたくなかった。
生理的に無理というやつだ。
「な、なんだ…どうしてそんな目で俺を見る…お前はそんな子じゃ無かっただろ…?いつも優しくて控えめに笑う姿が可愛らしくて…そんなお前に俺は…」
「気持ちが悪いんだよ今さら」
手を伸ばせば届く距離だったけどオーラを使ってレザを拘束して吊り上げた。
そのままゆっくりと首を絞めていく。
「ぐぁ…アル…なんで…」
「いや君がなんでだよ。何か干渉を受けていたんだろうけどそんな事関係ないんだよ。今さらベラベラと言い訳を並べられたところで私がされたことが消えるわけじゃないし、私の気持ちも変わらない。そっか~レザも被害者だったんだね、じゃあ仲直りしよう?とか言うわけないでしょ?馬鹿馬鹿しい」
「ちがっ…お前は…そんな子じゃなかった…目を覚ませ、お前もきっと操られて…」
「ウザいんだよ。もう死になよ」
首を絞めるオーラに一気に力を込めた。
こちらにも聞こえるくらいの音でレザの首から音がする。
絞め殺すなんて生易しい事は言わない。
骨ごと首を砕く。
「ア…ブブ…」
「そうそう、さっき私のお腹を狙ったよね?もし当たってたら大変な事になってたんだよ?」
まぁまだまだ全然目立たないから傍からはわかんないだけどね。
「納得できないならこれはその罰とでも思えばいいよ。じゃあねレザ…私の友達だった魔族さん」
ものすごい粉砕音と共にべチャリとレザの胴体が地面に落ちた。
首は宙に浮いたままだったが気持ち悪かったのでぽいっと捨てた。
はぁ~ちょっとだけスッキリ。
さて、お掃除を再開しなくちゃね。
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