第93話 人形少女はあまり役に立たない
「あれ?勇者くんだ、何してるの」
ふらふらとしながらも立ってこちらを見ているのは勇者くんだった。
いつのまにそこにいたのか…もしかしてアーちゃんがさっきボコボコにしてたのって勇者くんだったのかな?
だとしたら君が勝っているところを私は見た覚えがないよ?いや、最後に私の所有者だった奴には勝ってたかな…でもあれも私の頑張りがあってこそだからなぁ~。
「ああ、あなたまだいたのですか」
シラけたようなめんどくさそうな声を出すアーちゃんの様子から何かあったんだろうなという事は想像できるなぁ…以前私もすっごくイライラさせられたし、アーちゃんも同じようにイラっとしちゃったのではないだろうか。
「やっぱり悪魔と関係があったんですねリリさん」
「ん?」
「神都では自分は関係ないって言ってたのに…!やっぱり嘘だったんですね」
「え~…」
なぜ今その話を持ち出してきたのか…そもそもその時も信じてなかったじゃん。
なに一人で裏切られたみたいな顔してるのさ、わけわからん。
「そこの彼とお知り合いだったのですか?」
「ん~?まぁ知り合いと言えば知り合いかなぁ?」
「そうですか。それよりもリリさんという名前なのですね、素敵な名前です」
「あ!そういえば名乗ってなかったね…う~挨拶は大事なのにぃ~」
いろいろあって不幸なファーストコンタクトになってしまったので許してほしい。
「ずっと…悪魔とつながっていたんですか…たくさんの人が不幸になるのを手助けしていたんですか!?」
「いや本当に何言ってるのさ。名前すら知らなかったってアーちゃん言ってたじゃん。さっき知り合ったばかりだよ」
「そんな事!この状況で信じられるわけが…!」
「あ~はいはい。もういいよ」
どうせ次に会ったらこうする予定だったのだから。
私は勇者くんに素早く近づくと、その首をすぱっと切り裂いた。
「あら。容赦なくいきましたね」
「前回殺すつもりだったんだけど逃げられちゃったからさ~、もう会うたびにうるさいしちょうどいいかなって」
一応角度とかは気を付けて切ったけれどやはり首だから血がすっごく噴き出して軽く服が汚れてしまった。
「あ、が…?」
そのまま自らの血で出来た水たまりに音を立てて倒れ込んだ勇者くんを見てようやくつっかえていたものが一つとれたような気分になれた。
というか勇者くんは一人でいたのかな?いつもならもう二人くらいいたと思うのだけど…あ、いた。
眠っているのか気絶しているのかわからないけれど倒れて動かない大男を聖職者ちゃんが介抱していた。
だけどさすがに衝撃を受けたらしく、私のほうを見て聖職者ちゃんが固まっている。
う~ん…どうしたものかなぁ…聖職者ちゃんも以前はブッコロリストに入っていたけれど、今はもういいかって気持ちになってるところもある。
まぁもし向かってくるようなら殺そう。そう思って聖職者ちゃんのほうを見てみるけれど…私と目が合うなり顔を赤らめてサッと目をそらされた。
なによその反応…しかしどうやら戦う気はないみたいなので放置で決定。
「じゃあ行こうかアーちゃん」
「…」
「アーちゃん?」
「何かがおかしい…」
アーちゃんの視線は私の足元にある勇者くんの死体に注がれていた。
どこかおかしいところあるかなぁ?普通の死体だと思うけど…。
その時、勇者くんの死体が突如として眩しい光を放ち始めた。
「うぇ!?なにこれ!!」
「リリさん離れてくださいませ!」
私の身体に黒くにゅるんとした触手のようなものが巻き付いて、後ろに引っ張られた。
どうやらアーちゃんの背後から出てきてる何かみたいだけど…地味に不気味でなんとなく微妙な気持ちになる代物だった。
だけども今はそんな事より目の前の光り輝く勇者くんの死体である。
「なにが起こってるのこれ?」
「外部からの干渉のようなものを感じますね。この感じ…もしかして…?」
なにか心当たりがありそうだし詳しく話を聞きたかったけれど事態はそれを待ってくれず、勇者くんの身体から出ていた光がそのまま死体を包み込み、ふわりと空中に舞い上がる。
まるで光で出来た繭みたいで気味が悪かった。
そしてさらに視界がつぶれるほどの眩しい光が放たれ、なんとか視界を取り戻すとそこに何かがいた。
光の繭を守るように白い翼を背中にはやした鎧を着た石像のようなものがそこにいる。
「なんだろうあれ?天使みたいなあれかな?」
「天使?初めて聞きましたけど…」
悪魔はいるのに天使はいないらしい。
いやでもなんとなくだけど目の前にいるあれに名前を付けるとしたら天使がぴったりだとは思うので天使と呼ぶことにします。
そして天使はその手に金色の盾と剣を出現させると私たちに剣先を向けた。
どうやらやるつもりらしい…見た感じかなり強そうで一筋縄ではいかない感じだ。
「やっぱり人間ではなかったみたいですね。それどころか勇者という存在そのものが…」
「アーちゃん、アーちゃん。考え込んでるところ悪いけど向こうはやるつもりみたいだよ」
「みたいですね。困りました…今は眷属たちもいないですし私自身あまり戦闘向きではないので…リリさんはどうです?」
「荒事は任せて~って言いたいところだけど今ちょっと家出してる子がいて戦闘力はあまりって感じなのよね~」
「なるほど…よくはわかりませんが不安はあるわけですね?ですが逃がしてくれそうにもないですし、やってみるしかありませんね」
アーちゃんが何かを取り出す。
それは十字架の様に見えたけれど…よく見ると十字架のように見えるナイフだった。
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