第307話 人形少女は帰る
勢いよく色々なものが流れてきて…視界が真っ暗になった。
今までにない怒り方をしていたマオちゃんが私が囚われていた場所ごと潰してしまったというのはすぐに分かった…分かったけども、心の準備も何もできていないものだから何もできなかった。
実はマオちゃんの名前を叫んだ辺りで魔力が回復してしまって動けたのだけど、それをマナギスさんにバレるわけにはいかなかったからマオちゃんを信じて手を出さなかったんだけど…まさかこうなるとは思わなかった。
以前は数日かかったのに魔力が急に回復したことを疑問に思う暇もなく、まさか生き埋めになってしまうなんて…死にはしないと思うけど誰かが掘り起こしてくれるまでこのままなのだろうか…それは少ししんどいかもしれない。
埋まることもそうだけどマオちゃんや皆に謝れないのがな~…きっとみんな心配してるよね。
リフィルとアマリリスは泣いていないだろうか、メイラはしっかりしてるから大丈夫かなぁ…いやでもクチナシと揃って意外と甘えん坊だし…マオちゃんも私のためにあんなに怒ってくれてたんだよね…。
別に忘れていたわけじゃないけど、改めて私はもう一人じゃないんだと自覚した。
私がいなくなるだけで悲しむ人がそこそこいるわけで…まぁ自惚れかもしれないけどさ。
それにレイとの約束も果たせなくなるのは悲しいなんてものじゃない。
いろいろしっかりしないといけないのに…はぁなんで私ってこうなのか。
「─────」
「願わくば早めに掘り起こされますように」
「──────り」
とりあえずやることないし寝て時間をやり過ごすかぁ~。
そうしよう。
「──────り!」
さっきから何か聞こえる気がするけど私と同じように生き埋めになってる人がいるのかもしれない。
助けてあげたいけれど私もどうしようもないのよ~ごめんね見知らぬ誰かさん。
「──リリ!!」
「はい!?」
耳元で大声で叫ばれてなんとなく微睡んでいた意識が爆発するように覚醒した。
慌ててがばっと上半身を起こす。
あれ?埋まってない?目を開けるとそこは見慣れた寝室だった。
私とマオちゃんが普段寝ている部屋…どうしてここに…?
夢かもしれないとキョロキョロ見まわすと私にしがみつくようにしているマオちゃんとその後ろに泣きそうな顔でいるクチナシとメイラがいた。
「もしかして夢じゃない…?戻って来たの私…?」
「うん、おかえり」
マオちゃんにぎゅっと抱きしめられて、そこを中心に徐々に鈍くなっていた感覚が戻ってくる。
「生き埋めになったんじゃ…」
「そんなわけないでしょ。メイラさんとクチナシちゃんが頑張ってくれたの」
話を聞くとあの場所が瓦礫に飲み込まれる瞬間にマオちゃんが事前に持ってきていたメイラの血液をぶちまけ、それを感じ取ったメイラが直接現場に来るわけにはいかなかったクチナシに合図をだして空間移動で私とマオちゃんを回収したという事らしい。
クチナシは正確に言えばパペットではない。
私の力の一部でパペットのような見た目をした何かだ。
だからあまり問題はないかもしれないけど私と同じような目に合わない保証もないのでお留守番だったのだがあの部屋が崩壊する一瞬で状況を把握し私たちを回収してくれた。
メイラは部屋に突入してくる直前まではマオちゃんと一緒に行動して、露払いをしてくれてたそうだ。
そして何より身体を張って戦ってくれたマオちゃん。
「ごめん…皆…ありがとう」
「どういたしまして。でももうこんな思いはしたくないよ。それは分かっておいてね」
最後に釘を刺されつつ無事に私は…私たちの家に帰ってくることができたのだった。
「無事…というには一つだけ不安要素があります」
そう言いながらクチナシが私の元まで寄ってくる。
もしかして本当に泣いていたのだろうか?うっすらと目元に水滴が通ったような跡がある。
「え…?」
「現状マスターの制御権は私のほうで再びマスターの元に戻してあります。しかしそれでは先に起こった問題を何も解決できていません」
「それはそうだけど…でもマナギスさんはもう死んじゃったんじゃ?」
クチナシは首を少しだけ捻るとゆっくりとシーツをめくりあげて私の胴体をあらわにした。
そして薄いネグリジェのようなものを着せられていた私の胴体…脇腹の辺りだろうか?そこが一部欠けていることに気がついた。
「あれ…何だろうこれ」
「私がマスターたちを回収する寸前…ほんの一瞬ですが何者かが接近してくる気配がしました。おそらくその時に…」
あの一瞬で誰かが私の脇腹に穴をあけた?なぜ…?いや、マナギスさんは私の身体の一部を欲しがっていた。
でもマナギスさんは私の身体を傷つけることは出来なかったはずで…いや、そう言えばあの時は身体がなんだかおかしかった。
もしかすればそれが原因…?だとするとマナギスさんはしぶとく生きている可能性がある。
「まだあの女の死亡は確定ではないですし、マスターの制御権を奪える人物が他にもいるかもしれません。一人にできたのです、絶対に不可能というわけではないでしょうから」
「確かに…」
そうなると問題は何も解決していないように思える。
私はレイの件があるのでマナギスさんに用がある…だから生きているのならまだ会いに行かないといけないのだけど…こんな状況で行けるわけがない。
「何か方法は無いのかな」
「あるにはあります。マスターの制御権をマスターが持っているから問題なので…誰かほかの人がそれを持てばいいのですが…」
クチナシの語気がどんどん小さくなっていく。
あぁそっか、この子は私がそれを何よりも嫌っていることを知っている。
だから言いづらいのだろうけど…でも今はあの頃とは違う。
私には私の身体の全てを明け渡せる人がいるのだから。
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