第280話 おせっかい
「リフィルか…?何のつもりだ!」
フォスは声は聞こえたが姿の見えないリフィルを怒鳴りつけ、辺りを見渡した。
しかし声はハッキリと聞こえたにもかかわらず、どこにもリフィルの姿は見えない。
「急にどうしたんだい?お友達でもきたの?」
「なに?」
どうやらマナギスには先ほどの声は聞こえていないらしく、フォスは苛立たし気に舌打ちをした。
リフィル…というよりはアマリリスは転移魔法を使えるのでリフィルがこちらに来たのかと思ったがどうやらそうではないらしいと理解して叫んだ自分に少しだけ恥ずかしさを覚えた。
「んふふふふふ!こーちゃん恥ずかしぃ」
「黙れ、何のつもりだ」
幻聴かと思ったが再びリフィルの声が聞こえ、おそらくは何らかの魔法で直接こちらに言葉を届けているものだと思われた。
「ちょっとこーちゃんを手伝ってあげようと思って」
「なんだと?」
そこでフォスはリフィルの様子がいつもと違う事に気が付いた。
普段のリフィルは無邪気な子供という仮面をかぶっている。
その下にどれだけ邪悪な貌が隠れているとしても、見た目は人懐っこそうな可愛らしい少女だ。
しかし今のリフィルの声色からはその無邪気さが感じられず、様子がおかしかった。
まるで何かに怒っているような…フォスはここで何度目かになるかもわからない嫌な予感を覚えた。
「リフィル落ち着け。何があったのかは知らんが、これは我の問題だ。手を出すな」
「それがね~そういうわけにもいかないんだよね~。こーちゃんが戦ってる人は~…バイバイしないといけない人だから」
ゾクリとフォスの背中に冷たいものが奔る。
そして次の瞬間、突如として空間からスルリとガラス玉のようなものが数個現れてフォスの周りを浮遊する。
「ん…?そのガラス玉…最近どこかで見たね?」
マナギスは首をひねり、何かを考え込んでいたが手を出すつもりはないらしく、腕を組んでその場で佇んでいる。
「本当はアマリにあげる物なんだけど、こーちゃんにあげるよ」
「やめろ!おい!」
フォスの制止虚しくガラス玉はその身体にぶつかるように飛来し、吸い込まれるように消えてしまった。
その数瞬後にフォスは自らの身体に違和感を感じた方と思うと、全身に耐えきれないほどの痛みと息の詰まるような苦しさを感じてその場に崩れ落ちる。
「うぐぁ!!…クソが!何をしやがったリフィルぅうぁ!!!」
「あれれ?アマリは平気なのに、こーちゃんはあんまり大丈夫そうじゃないね?ん~…困ったなぁ。どうしようか?こーちゃんどうする?」
「さっさと…っ我の中に入れた変なのを取りやがれ…!馬鹿がぁああ!」
「え~それね~取り出すのは近くにいないとダメなの~。アマリいま気持ちよさそうに眠ってるからそっちに行けないし…うーん。あ!じゃあこうしよう!んふふふふふ!こーちゃんも気に入ってくれるといいな!」
それを最後にリフィルの声は聞こえなくなった。
しかしフォスの身を襲う苦痛はさらに勢いを増し、まるで四肢と首を鎖につながれて無理に引き延ばされているような壮絶な痛みを味わった。
なまじ過去の経験から苦痛に対して耐性を持つフォスだからこそ、意識を失うことも、心が折れることもなくそれに耐えてしまう。
そしてその結果、彼女の身にある変化が起こる。
「ほぉ~。それはまた…どういう理屈なんだろうね?ふんふん、こうしてみるとなるほど確かに。かつて見た皇帝様ご本人だ」
マナギスが興味深げに見つめるフォスは…先ほどの幼子の見た目ではなく大人の姿へと変わっていた。
20代半ばといったところだろうか?スラッと伸びた手足に程よく鍛えられしなやかな身体に流れるような長い金髪。
人を射殺さんばかりの鋭い目つきがなければどこかのお姫様と言われても信じてしまえそうだった。
「くそっ…最悪だあのガキが…!」
フォスはふらつく身体を無理やり安定させながら立ち上がる。
急激な成長を遂げた身体が先ほどまで身に着けていた衣服に収まるはずもなく、白い裸体が白日の下に晒されていたが、地につくほどに伸びた金髪がそれを覆い隠していた。
「ガキ…それに先ほどのガラス玉。もしかして皇帝様はあの子供の事を何か知っているのかな?リリって言う名前の人形の事を知っているようだったし?」
「まさかあいつらの知り合いだとか言うつもりか?」
「知り合いと言えば知り合いかな?リリちゃんには魔道具を売ったことがあるんだよ私。それにあの異様な子供にはちょっと興味があるんだ。さっきリフィルって言ってたよね?それが名前なのかな?こう黒髪にたくさんメッシュが入ってる子なんだけど」
「はぁ…そういう事かよ。貴様…リフィルに何かしたな?」
フォスは理解した。
自分は今、リフィルの私怨に巻き込まれたのだと。
思えば何かに怒っている様子だったのはそういう事だったのだろう。
ますますフォスはマナギスをこのまま生かしておけないと思った。
今はこの程度で済んだが、これ以上はリフィルが何をしでかすか分からないためだ。
「最悪で不快で最低な気分だが…こうなった以上はしょうがない。おとなしく死んでおけ根暗女」
「ふふふっ、残念だけどまだまだ私は死なないね。だって未来に向かって必死に頑張っている私が死ぬはずないのだから」
「うるせぇ、そういうのはもう聞き飽きた」
フォスは腕の中に光の剣を作り出すと、自らの髪を掴み上げ、バッサリと切り取った。
地に着くほどだったそれはセミロングほどの長さになった。
「あちゃ~切っちゃうのね」
「あんな髪で戦えるか」
「いやぁでも…いろいろ見えちゃってるけど大丈夫?」
「見られたところでなんだ?我の身において他人に恥じ入る部位などただの一つもない」
皇帝時代、隙あらば服を脱いでいたフォスは久しぶりの解放感を噛み締めていた。
幼子の身体とは身に受ける風が違う。
剥き出しの肌に日光が突き刺さり、風が撫でる。
確かにこの状況は最悪としか言えないが、それでもフォスは久しぶりの成人した身体を大いに満喫していたのだった。
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