21.5-3.リア充にはよくあるらしい


『あばよ、ガキども』


『ドクタアアアアアアアアアアアアア』


 ――ちゅどーん


 そして世界を破壊するべく放たれたミサイルは、ドクターの手によって宇宙へと放り出された。


「うおおおおおおおおおおお」


「やべえ、ドクターかっけえ!!」


 おれたちは騒ぎながら、だらだらワインを飲んでいた。


「いやあ。一回、見たやつでも、もう何年も経ってると忘れるもんだなあ」


「おい、寝ようとすんな。まだあるぞ」


「ええっ!? もう二本見たろ!?」


「三本、借りてきたんだよ」


 言いながら、最後のDVDをセットする。

 最後は今年、海外で興行収入一位を記録したダンジョンサスペンスパニックホラーラブロマンス。

 ……もうなにがなんだかって感じだな。


「あ、わたしこれ見た」


「あ、マジで? すまん」


「いいよ。もう一回、見たかったし」


 これはダンジョンをテーマパーク化した近未来を舞台にした映画だ。

 おれとしても興味はあったけど、結局、仕事が忙しくて見に行けなかったんだよな。

 

「……あれ。でもこれ、なんかあったような」


「どうした?」


 寧々は少し考えたが、やがて首を振った。


「うーん、忘れた。まあ、見てれば思い出すだろ」


 言いながら、最後のワインをグラスに注いだ。


「ていうか、どうしていきなりこんなに見ようと思ったわけ?」


 あ、そういえば言ってなかったか。


「今度、主任がうち来るんだよ。そのとき、どれがいいかと思ってさ」


「え……?」


 ふと、寧々の動きが止まった。

 しばらく視線をさまよわせたあと、なぜか、おれからそっと距離を取る。


「……あ、そう。ふうん」


「どうした?」


「……いや」


 言いながら、グラスを置いた。

 膝を抱きながら、つま先をちょいちょいといじっている。


「じゃ、じゃあ、アレだな。けっこう、順調な感じ?」


「……あー。どうだろうな」


 会社では言えないから、いつも通り、上司と部下。

 そして水曜日には『KAWASHIMA』でモンスターハント。


 結局、前と大して変わらないっていうか。

 それが嫌なわけじゃないけど、じゃあ、なんなのっていう感じだよな。


「まあ、こういうのはなるようになれって感じだしな」


「…………」


「あー。でも、アレだよなあ。おまえといるほうが、気楽っちゃ気楽だよな」


 ぴく、と寧々がこちらを見る。


「……どういう意味?」


「だって、おまえとは付き合い長いしさ。やっぱり主任とは、友だちって付き合いはしてこなかったわけじゃん。ちょっと距離感が一足飛びで、なんか難しいよなって」


「…………。そうかもな」


 テレビではテーマパークに異変が起こり、主人公たちが閉じ込められるところだった。


「…………」


「…………」


 なぜか会話が消えた。

 集中してるのかと思って遠慮していたが、彼女の肩が震えている。


「……寧々?」


 キッとこちらを睨むと、ふいにおれを押した。

 おれは抵抗もなく、カーペットに仰向けに倒れる。


 ――ごつんっ!


「いたた……」


 起き上がろうとすると、ふと腹に馬乗りになってくる。


 その目が、完全に据わっていらっしゃる。


「あー、もう! ほんと、おまえそういうとこ!」


「え、え、え?」


 急展開に頭がついていかない。

 寧々はおれの襟をつかむと、ぐいっと顔を近づけた。


「なんでそういうこと言っちゃうかなー! ひとがせっかく、どうにか立ち直れそうになってるところでさー!」


「……あ、いや、ちょ、待って」


 おれが弱々しく制止しようとした瞬間。


 その唇が、触れ――……。

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