25-2.おさらいします


「よーし! じゃあ、行くっしょ!」


「元気だなあ」


 ハナはぐっぐっと足を伸ばしてストレッチしている。


「うっせーし。あんたこそ、足引っ張んなよ」


「いや、おれのほうが強かったろ」


「はあー? あたしのスキルにやられて死にかけてたの誰だっけ?」


「いや、あれは『風神』で消耗してたし……」


「言い訳とか、マジ男らしくねえなあ」


 そもそもトゥルーエピックと二体だったろ。

 一対一なら、おれのほうがレベル高いし。


「……ていうか、源さんは?」


「マスターは寝てるって」


「あぁ、そう」


 できればいてほしかったんだけどなあ。

 こいつとダンジョン内で二人きりとか、本当に殺されかねん。


「……なんか失礼なこと考えてねえ?」


「い、いや、別に?」


「マジ肝っ玉小せーし。別にもう、あんたの命とか興味ねえし」


「あ、そう」


 まあ、こいつだって源さんに養われてるわけだしな。

 ここで問題でも起こせば、ぜったいにバレる。

 ハンター協会に目をつけられて困るのはこいつで……。


「でもおー。あたしの乳揉んだのは許してないっていうかあー?」


「…………」


 とにかく背中には気をつけとこうか。


 寒い鍾乳洞の中を歩いていく。

 虹色に輝くつららや壁、そんな神秘的な光景に目を奪われる。


「……あっ、足元やべえし!」


「え?」


 見ると、この前の芋虫が足にまとわりついていた。

 ちくちくと小さな牙を立てようとしているが、いかんせんおれの防御力のほうが上だ。


 おいおい、こんなの屁でも……。


「そいつに食われると、性欲吸われるから!」


「うわっほー! 危ねえ!」


 バシッと弾くと、そいつはいそいそと逃げていった。


「……ふぅー。やばいダンジョンだな」


 見ると、ハナがお腹を抱えて笑っている。


「い、いや、なにいまの、うわっほーって……」


「…………」


 おれは熱い顔を悟られないように、コホンと咳をする。


「ていうか、おまえらとしてはどうなの?」


「なにがあー?」


「おまえらだって、一応はモンスターなんだろ? 同じモンスター倒すとか、精神的にきつくないの?」


 先日、あの芋虫を躊躇なく焼き払ってたのを思い出す。


「いや、同じじゃねえし」


「そうなの?」


「あたしらのほうがすげえじゃん?」


 なんかよくわからんけど。


「あれっしょ。あんたらだって、豚とか食うっしょ」


「うん」


「でも、同じ動物っしょ」


「あー、はいはい。そういうことね」


 そういえば『KAWASHIMA』で遭遇したミコトというハーピィも、モンスターをためらいなく切り刻んでたな。

 それに『マテリアル・フォレスト』で、ケンタウロスのマイロもそんなことを言っていた。


「……まあ、おまえがいいならいいんだけど」


「あ、なに? もしかして、あたしの心配してんの?」


「違う、違う。おまえがモンスターと組んで殺しに来ないか警戒してるだけ」


「んなあ!? まだ信用してねえのかよ!」


 ひとのこと殺しかけた相手にできるかい。


 ふとそこで、濃い魔素の匂いを感じる。


「……っと、そろそろだな」


 おれたちは、エレメンタルのあるフロアへと降り立った。

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