16-2.食べ放題大人2900円(ドリンク別)


「えー。結局、ここー?」


「文句言うなよ。焼き肉も寿司もあるだろ」


「だってさー。ここ、あのころと変わってないじゃーん」


 わいわいと賑やかな喧騒の中、おれたちは順番待ちの椅子に座っていた。

 ハウステンボス帰りの家族や、ハンターらしき男たちがごった煮のように店内にあふれている。


『ファミリーSAKABA〝陣〟:佐世保店』


 主任がきょろきょろと見回している。


「ここは?」


「えーっと。『KAWASHIMA』の酒場の家族向けですね。ダンジョン素材を使っているという点では一緒なんですけど、ここは一般のひと向けの食事を出してます」


 県内ではトップを誇る、地域密着のチェーン店。

 主に焼き肉と総菜、回転しない寿司をバイキング形式で取っていくところだ。


「へえ。おもしろいわね」


「でしょ。主任は初めてだし、こういうのもたまには……」


 隣で眠子たちがブーイングを投げる。


「そんなこと言って、ほんとは安く済ませたいだけじゃーん」


「牧野さん、いまどきの高校生はこんなので満足しないよー?」


 うるせえ黙れ。

 おまえらこそ、一般サラリーマンの財布事情を甘く見るんじゃねえよ。


「四名でお待ちの牧野さまー」


 お、呼ばれたな。


「ほら、行くぞ」


「しょうがないなー。今日はケーキぜんぶ食べてやろーっと」


「あ、牧野さん! おれ先に飲み物取ってくる!」


 ノリノリじゃねえか。



 …………

 ……

 …



「あ、それわたしが取ってきたやつじゃーん」


「また取りに行けばいいだろ」


「はあー。牧やんはわかってないなー。これは他のと違って、ちょっと美味しいやつなんだよー。オンリーワンを大切にしないやつは……」


「ケーキじゃなくて、そっちの肉食っちまえよ。焦げてんぞ」


「あ、それおれが育ててたやつ!」


「育てんな。さっさと食えよ」


 あぁ、まったく。

 こいつらといると、ちっとも気が休まらない。


「あ、主任。飲み物、取ってきましょうか」


「じゃあ、お願いしようかしら」


 と、そこで眠子が手を上げた。


「牧やん。わたしが持ってきてあげるよー」


「え? 珍しいな」


「失礼だなー。たまには師匠に敬意を払うよー」


 そう言って、すたすたとドリンクサーバーのほうに歩いて行った。

 ていうかこいつ、こういうときはちゃんと自分で歩くんだな。


「……そういえば、明日のハントはどうするの?」


「あ、ザビエルのことですか?」


 まだ細かい計画は立ててなかったな。


「ガニマタはどうするんだ?」


「おれ明日からバスケ部の練習だからなあ。今日も無理言って休んだし、これ以上はマジで先輩に睨まれる」


「じゃあ、明日は眠子と三人で行きましょうか」


 と、眠子が戻って来た。


「はい、牧やん。こっちが黒ぴーね」


「く、黒ぴー……」


 主任がこっちを見るけど、首を振って応える。

 こいつは言っても聞かないからな。


 そうして、やつの持って来たコップに口をつける。


 ぶはっ。


「……おい、こら」


「え。なに?」


「なんだこれ」


 ウーロン茶を頼んだはずだけど、なぜかこう、毒々しい色で濁っている。


「眠子ちゃん特製スペシャルドリンクだよー」


「…………」


 こういうことするやつ、久しぶりに見たなあ。


「おまえが飲め」


「やだ」


「飲ーめー」


「うぎゃあ! 牧やん、暴力反対、虐待禁止ー」


 主任が、恐る恐ると口をつける。


「うえ……」


「……いや、主任も飲まなくていいですよ」


「でも、勿体ないし……」


 真面目か。


 と、そんなときだった。


「ねえねえ。そこのひとたち」


 振り返ると、大学生くらいの爽やかな男が立っていた。


 ……誰だ?

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