33-3.どさんこ


「な、なんでおまえが?」


「それはこっちの台詞だし! てめえ、まさかあたしらのこと尾けてきたんじゃねえだろうな!」


 あたしら?


 洞窟の向こうから足音が聞こえる。


「こら、おハナ! ひとりで勝手に動くなってあれほど……」


「え……」


 そこには、小樽営業所の佐藤さんが立っていた。


「ゲッ。牧野さん……」


 ゲッて言ったよ。


「ひ、久しぶり。このトーナメント、参加してたんだね」


「まあ、はい」


 すげえ嫌そう。

 まあ、あんまりいい思い出じゃないだろうしなあ。


「……祐介くん?」


「い、いや、なにも考えてませんよ」


 いけない。

 あのときのこと思い出したのが顔に出てたな。


「……コホン。じゃあ、もうひとりは『どさんこ』のメンバー?」


「あー、そのつもりだったんですけどねえ」


 佐藤さんがケッと吐き捨てて、髪をくるくるいじり出す。


「……どうしたの?」


「なんかー、うちの連中、この連休で彼氏と遊びに行くやつらばっかりでー」


「へ、へえ」


「……ハア。ほんとギルド解体しようかなあ」


「…………」


 これ以上、触れたら藪蛇になりそう。


「あれ。じゃあ、もうひとりは?」


「…………」


「…………」


 ふたりは、そっと洞窟の向こうに目を向けた。


「……ハア、ハア」


 そこから、のろのろと人影が出てきた。


「ちょ、ちょっと、ふたりとも、はやいよう……」


「源さん!?」


「あ、牧野……」


 彼女は、へたり込んだ。


「疲れた……」


「ど、どうして源さんが?」


「か、数合わせで……」


 佐藤さんたちがため息をつく。


「……まさか源さん、こんなにすっとろいなんて」


「……マジ足手まといっていうかあー」


 ひでえ言い草だな。


「源さん、戦闘できないんだから無理しなくても……」


「で、でも、参加すると新しい魔具のお試しができるって……」


 あぁ、なるほどね。


「……んあ? ていうかあー、そっちのもうひとりはー?」


 ハナがぼやいたときだった。


「呼んだかの?」


 そっと背後から、ハナの両目がふさがれた。


「だーれじゃ?」


「ちょ、マジ誰だし!? 離せ……っ!」


 バッとその手を引きはがした瞬間、ハナの顔が真っ青になった。


「え、あ、……え?」


「ハッハッ。久しぶりじゃのう、生きておったか」


「…………」


 うわー。

 すっごい膝がくがくしてるー。


「な、ななな、なんで、てめえが……、もがっ!」


 トワに口をふさがれる。


「おしゃべりなやつは嫌いじゃのう」


「…………」


 こくこく、とうなずく。


 蛇に睨まれた蛙のようだ。

 いや、ハナのほうが蛇なんだけど。


「おハナ、どうしたの?」


「い、いや、なんでも、そうなんでもねえ、し……」


「……? まあ、いいですけど」


 佐藤さんは、ビシッとおれを指さした。


「とにかく、優勝賞品のハワイ旅行はわたしたちのものなんで覚悟してくださいね!」


「う、うん」


 そう言って、佐藤さんはハナと源さんの腕を掴んで引っ張る。


「リア充なんかに負けなーいっ!」


 すごい闘志を燃やしながら、転移装置で戻っていった。


 ……まあ、すでにメンバーのふたりは意気消沈だけど。


「……トワさ、ハナになにしたの?」


「ムフフ。なあに、ちょっとひねってやっただけじゃよ。ちょこっとな」


 ちょこっとねえ。


 まあ、頼もしいっちゃ頼もしいな。


「じゃあ、マッピングに入りますか」

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