33-2.ツンデレなあいつ


「というわけで、よろしくのう」


 ハーピィの少女――トワが言った。


「あ、あぁ」


 本当は拒否したいけど、あんなの見せられたあとじゃ、なにされるかわかんないしな。


「おーい、牧野。もうひとりは決まったかあー」


 向こうから、寧々たちが歩いてきた。


 と、トワを見た彼女が目を丸くした。


「はあ!? お、おい、その女、あのときのハーピィじゃ……」


 ぶちゅー。


「……あぁ、牧野の妹か。そういえば、ハンター志望だったっけ? ま、頑張れよな」


 なにこの劇的ビフォーアフター。


 寧々すらも一瞬で手玉に取るトワに、おれはぞっとしていた。


「……お、おい。変な後遺症とか残らないだろうな」


「ハッ。愚妹といっしょにするでない。帰るときにちゃんと解呪してやるわい」


 ……ほんとかよ。


 美雪ちゃんが、じーっとトワを見る。


「……マキ兄、妹なんていたっけ?」


「わあーっ! 実はほら、直接の妹じゃなくて、ほら、叔母夫婦の又従兄弟の親戚のお兄さんの子どもでさ! ちょっとこの大会だけ面倒見てるっていうか……」


「それ、赤の他人じゃん……」


 疑わしげな視線に、おれは慌てて言い訳する。

 なおも追及しようとする彼女の言葉を止めたのは、運営テントからの声だった。


「では、チーム小池さん、『マッピング』へどうぞー」


 誘導係のお姉さんが、転移装置の前で手を振った。

 寧々はそっちを向くと、軽く手を振り返す。


「りょーかーい。よーし、それじゃあ、わたしらと当たるまで負けんじゃねーぞ!」


 そう言って、美雪ちゃんと眠子を連れて行ってしまった。


「マキ兄、あとでちゃんと説明してよね!」


「はあー。めんどくさー」


 ホッと胸をなでおろす。

 しかしトワは不満顔だった。


「……なんじゃ。記憶を変えてしまえばよかろうに」


「そんなの、ほいほい使っていいわけないだろ。おれたちもおまえの妹にやられたとき、反動で頭が割れるかと思ったんだぞ」


「あの愚妹め、まだ不出来な記憶操作を使っておるのか。まったく、困ったものじゃのう」


 いや、困ったのはおまえだよ。


「どうしたの?」


 姫乃さんが覗き込んでくる。


「えっ!? あ、いや、ちょっとトーナメントの流れを教えてやってて……」


「あら。そういえば開会式も終わったのに、すぐ始まるわけじゃないのね。あの『マッピング』って?」


 転移装置に並ぶ寧々たちに目を向ける。


「今回のトーナメントのテーマは『ハント・オン・タイム』ですね。これは単純に、制限時間内にモンスターをハントして得たポイントを競うんです。このルールでは、事前にダンジョンの構造をチェックする時間が与えられるんですよ」


「どうして?」


「まず、初見さんへの配慮ですね。やっぱり経験者と未経験者には大きな差が出るので」


「あぁ、なるほどね」


「他には、モンスターの生息地の確認です。特に高ポイントのモンスターは開始早々に争奪戦になりますから、より早くここを制圧することが戦局に大きく影響します。寧々みたいな索敵専門にとっては、ここは腕の見せ所ですね」


「ふうん」


 と、誘導係のお姉さんがこちらに手を振った。


「チーム牧野さーん。次にどうぞー」


「あ、はい」


 おれたちは転移装置によって、ダンジョン『ザ・キューブ』へと降り立った。


 ここはいくつもの立方体の空間が、四方八方に伸びる通路でつながり合うダンジョンだ。

 つまりひとつのエリアへの移動経路が多く、奇襲や待ち伏せなどを先読みしづらい。

 いかに相手を自分の土俵に上げるかが勝利の鍵になる。


「さてと、まずは高ポイントのモンスターの生息地を……」


「あーっ!」


 その声は、おれたちのうしろから聞こえた。


「あ……」


 振り返って、おれは言葉を失う。


 そこには赤髪の少女――ハナが立っていた。

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