33-4.ルール説明です


 『ザ・キューブ』は、こういったトーナメントには最適なダンジョンだ。

 1フロアが広すぎず、狭すぎず、単純すぎず、複雑すぎない。

 しかし最も大きな理由は『多属性ダンジョン』というところにある。


 このダンジョンは、エリアごとに持つ属性が違う。

 あるエリアには森の豊かな茂みがあり、あるエリアには大きな湖がある。

 それぞれに適したモンスターもいて、ハンターたちは各々の長所を生かしてハントできるのだ。


 おれたちは森の茂みを確認していた。


「うーん。やっぱり入り組んでますねえ」


 これは地形を覚えるのが大変そうだ。

 トワはともかく、姫乃さんにはサポートが必要だろう。


 と、向こうから気配がした。


「おっと、隠れてください」


 おれたちは、そっと茂みに身を隠した。

 その脇を、のそのそと牡鹿のようなモンスターが歩いて行く。


 それが去ったのを確認すると、おれたちは顔を出した。


「……なんか、普通にモンスターもいるのね」


「そりゃ、その確認のために潜ってますからね」


「いま狩ったらダメなの?」


「ダメです。ペナルティで大きな減点を食らいますよ」


「でもトラップスキルとかなら、いまのうちに仕掛けられるじゃない」


「これを見てください」


 おれは、開会式のときに配られた腕章を見せる。


「ここに魔晶石がはめ込んであるでしょ?」


「あ、ほんとね」


「これは探知機なんですよ。マッピングの最中にスキルを使用したり、試合中にルール違反をすると反応します」


「ルール違反?」


「同じ腕章を持つハンターへの攻撃行為ですね。今回の『ハント』では、ハンター同士の攻撃は禁止です。他にもありますけど、あとで教えますよ」


「ふうん。反応するとどうなるの?」


「強制的に『エスケープ』が発動して戻されます」


「じゃあ、いまモンスターに襲われたら危ないじゃない」


「大きな危険にも反応しますので、一応は大事にはなりません。やっぱり無茶するひとも多いので」


「ふうん。命があってのモンスターハントなのにね」


「…………」


「な、なによ?」


「いや、それを姫乃さんが言うんだなって……」


「さ、最近はちゃんとしてるでしょ! わたしだって成長してるの!」


 ほんとかなあ。


「これ、お兄ちゃま。妹の前でイチャつくでない」


 ぐいっと耳を引っ張られる。


「いて。なんだよ」


「あっちを見ぃ。あれはなかなか大物ではないかの」


 わくわくしているトワの言う方向に目をやる。


 微かなモンスターの気配がする。

 おれは開会式で配られた地図を出した。


「……そうだな。あっちにはこのフロアで最高ポイントのモンスターがいるはずだ」


「では、手始めにあいつを狩るのかえ?」


「…………」


 おれは考えた。


「……そうだな。このステージには、三体の大物がいる。そいつらからポイントを獲得するのが常套手段――いや、必須事項だ」


 今回のトーナメントの参加者は、合計で20組。

 1ステージ5組で予選を競い、そのトップの4チームが決勝に進む。

 そして各ステージの二位で敗者復活戦を行い、その勝者1チームを加え、5組で決勝を行うシステムだ。


 つまり1ステージの5組で、この大物三体を分け合うことになる。

 もちろん他にもモンスターはいる。

 しかし、これを獲得できるかどうかが勝利に直結するのは確かだ。


「……よし。この森のモンスターが、記録では最も狩りづらいとされるやつだ。開始直後に、これを狙おう」


 姫乃さんが、首をかしげる。


「え。狩りづらいのに?」


「えぇ。むしろ狩りづらいからこそ、他のチームと鉢合わせることはない。他の二体を4チームが競っている間に、確実にポイントを獲得します」


「あ、なるほど」


 エピックとはいえ、この上層ならそれほど困難なものではないだろう。

 ダンジョンに慣れたトワもいることだし、ここは大胆に狙っていく。


 そのほうが楽しいしな。


「よし。じゃあ、戻りながら最短ルートを確認しましょう」


「おーっ」


 こうして、おれたちは地上へと戻ったのだった。

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