33-5.スタンバイ
『決まったあーっ! Aグループ、ギルド【迷宮美食探究会】! 152ポイント獲得で、決勝進出です!』
アナウンサーの実況に会場から拍手が起こる。
おれもダンジョン内の様子が流れる映像画面を見ながら、おーっと声を上げる。
いやあ、魔晶石を使った映像機器まで持ち込んでるとは、地方のトーナメントにしては力が入ってるなあ。
『解説のピーターさん、いまのゲームはどうですか?』
『イエス。このギルドは、ダンジョン発生当時から続く老舗ギルドです。組み合わせとしては、オールソゥ妥当なリザルトかと』
うわ出た。
ピーターの余所行き用のエセ日本語キャラ。
『今回のトーナメント、やはりプロかそれに準ずる方々のエントリーが多く、アマチュアハンターにはつらい戦いになりそうですね』
『バット。このトーナメントでは、ハイレベルなハンターほどビッグなリミットが与えられます。もしかしたら、ワンダフルなドラマが待っているかもしれませんよ』
……前から思ってたけど、もしかしてピーターって英語できないんじゃないのかなって。
まあ、聞いてるひとは楽しんでるからいいんだけど。
世界ランカーのトークなんて、なかなか生で聞けるもんじゃないし。
と、転移装置の準備が整ったようだ。
『では、予選Bグループを開始します。出場チームは、転移装置に集まってください』
おっと、おれたちか。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうね」
「うむ」
おれたちも転移装置へと歩いて行った。
……おや。
「あれ。寧々たちもBグループ?」
「…………」
寧々が不機嫌そうに顔を背けた。
……無視とか。
苦笑している美雪ちゃんに耳打ちする。
「……どうしたの?」
「あー。寧々さん的には、決勝でマキ兄たちと当たって華麗に倒して優勝するプランだったらしいんだよねえ」
「……あぁ、そう」
変なとこをこだわるなあ。
「まあ、いつ当たってもいっしょだろ。頑張ろうぜ」
「……っ!」
――ぎろり。
うわ、恐え。
なんでそんなに敵意剥き出しなんだよ。
……佐藤さんもなんか言ってたし、女子ってそんなにハワイ行きたいのかな。
と、参加理由と言えば……。
「そういえば、どうしてトワはこんなところにいるんだ?」
「む。気になるか?」
「そりゃそうだろ」
普通、亜人がこっちに来ることはないって聞いたけど。
「むー。話すと長いんじゃがのう。あれはそうじゃ、月が赤色を二周したころじゃったなあ。わしがあるダンジョンで……」
「おい、キサマ!」
鋭い叫び声が、会話をぶった切った。
なんだ、利根か?
もしかして、あいつもBグループ……。
振り返って、おれは眉を寄せた。
そこには、ひとりの黒ずくめの男が立っていた。
服装は利根に似ているが、その身長はすらりと高く、謎のイケメンオーラを放っている。
彼はなにか期待したまなざしを向けてくる。
こ、こいつは……。
「……どちらさん?」
「うぐっ!?」
なにかショックを受けたようなリアクションだった。
「ま、まさかおれを覚えていないのか?」
「いや、さっぱり」
「く、くそう。どこまでもコケにしてくれる……」
だからなにがさ。
すると、向こうからちんまい感じの少女が走ってきた。
その背中には、大きなメイスを担いでいる。
「ハイドさん! 置いてかないでくださいよ!」
ハイド?
その言葉に、姫乃さんが反応する。
「あら。もしかして西郷さんの……」
あっ。
「あのときの『疾風迅雷』の?」
「……そうだ。やっと思い出したか」
「あー。お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「…………」
彼はハアとため息をついた。
「……まあ、いい。キサマには礼を言っていなかったな」
礼?
あ、もしかしてあの若者たちを助けたことか?
「あ、いえ。当然のことをしたまでです」
「……フンッ、善人ぶって気に食わないな。それに、これはトーナメント。恩はあるが、全力で潰させてもらうぞ」
「は、はあ。お手柔らかに……」
すると、向こうでチャラい感じの青年が声を上げた。
「ハイドさーん。つかさちゃーん。ほら、行きますよー」
「はい、店長」
「はい、店長!!」
「……いや、外で店長って呼ぶのやめて」
店長なのかあ。
おれは、彼らが転移装置で飛ぶのをぼんやりと見ていた。
……なんか、濃い予選になりそうだなあって。
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