33-6.Bグループ開始


 おれたちは開始地点に降り立った。

 今回、それぞれのチームはランダムなエリアからスタートになる。

 この運が、まず差をつけことになるだろう。


「さっきとは違うところですね」


「ねえ、いま確認することはできないの?」


「いえ、全チームがスタンバイするまでは、スキルは使用禁止です。使ったら五分のペナルティですよ」


 姫乃さんがぎくりとなる。

 ……なにか使おうとしてたな。


「……トワ。まずはおれが探知スキルでルートを確認し、そのまま森へと向かう。ついてこれるか?」


「フン。誰に向かって言っておるのじゃ」


「まあ、そうだな。……よし、そろそろだ」


 すると、腕章の魔晶石が赤く輝いた。


『各チーム、スタンバイOK! それではBグループ、魔晶石が青くなったらスタートです!』


 どこからともなく、アナウンスが響いた。

 ここからは見えないが、あの映像を中継する魔具で声を通しているらしい。


「姫乃さん、構えてください。すぐですよ」


「え、ちょっと、まだ心の準備が……」


 その瞬間、魔晶石が青く輝いた。


 ――『十重の武装フル・アームズ』発動!


 おれはすぐにウルトを展開した。

 スキル『オーバー・エコー』を発動し、おれたちの位置、そして各チームの現在位置を確認する。


 ……が。


「……やっぱり、全域は無理か」


 普段はフロアすべてを網羅するはずのスキルは、いつもの半分程度で止まった。


 ――高レベルハンターへの制限。


 このトーナメントでは、最高レベルが40に設定されている。

 それ以上のハンターは、このダンジョンを満たす特殊な魔素により能力を抑えられる。

 例えばいくら戦闘能力を磨こうと、このダンジョン内ではレベル40の平均値までしか発揮できないのだ。


 おれはすぐに『十重の武装』を解除した。


「……やっぱり、これは魔素の消費が激しいな」


「どういうこと?」


「このダンジョンでは、魔素の自動回復機能が停止されています」


「……なに、それ?」


「普通のダンジョンでは、消費した魔素は時間をかければ回復するでしょう? でも、いまは一定の容量しか使用できない状態なんです。だから、姫乃さんもスキルは節約しながら使ってくださいね」


「えー。なんかやだ……」


「みんな条件は一緒ですよ。とにかく、森の位置まではわかりました。あと、2チームの現在位置も」


「寧々さんたち?」


「いえ。あれは、さっき会った『疾風迅雷』のリーダーと、別のチームですね。やはり森のモンスターはスルーするようです。さ、行きましょう」


「あ、待ってよ!」


 おれたちは、まっすぐエリアを歩いて行った。

 本当は走りたいが、それで別のモンスターに見つかって足止めを食っては意味がないからな。

 

 おれの横を行くトワが、口元を押さえてにやにやしている。


「……なんだ?」


「お兄ちゃまよ。引退しとったらしいが、あれから腕が上がったのではないか?」


「え?」


 あれから?


「……どういうことだ?」


 もしかしてグリフォンのことか?

 それとも、あのマイロの森での戦闘のことだろうか。


「さーのう」


 トワははぐらかしながら、すたすたと進んでいったのだった。


 ……なんだ?



 …………

 ……

 …



 トーナメント会場。

 利根はゲスト席にやってくると、ピーターの隣の空いた席にどかっと座った。


「どうも」


「やあ、久しぶりだね。まさかキミが来るとは思わなかった」


「去年のランク戦以来だ」


「あのときはボクがラッキーだった」


「……チッ」


 ダンジョン内の映像に目を向ける。


 Bグループの5チームは以下。

 チーム【牧野】

 チーム【小池屋】

 チーム【並盛つゆだく】

 チーム【家族マート】

 チーム【アトランタス】


「このステージ、誰が獲る?」


 もちろんプロ級である牧野と寧々が優勢だが、他のチームもアマチュアながら筋のいいのがそろっている。

 もしかしたら、あるいは――。


「それはもちろんマキノさ! 『ハント』は彼の得意中の得意テーマだからね!」


「……そうかい」


 平常運転の元パーティメンバーに、利根はうんざりしながら顔を背けた。

 相変わらず、こいつの牧野信仰は治っていないようだ。

 まったく、あんな男のどこがそれほど……。


 しかし――。


「……と、前のボクは言ったろうね」


「……?」


 予想外の言葉に振り向くと、ピーターは不敵な笑みを浮かべていた。


「――このステージ。十中八九、ネネが獲るよ」

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