33-7.たかぶっておるのか


 大物が生息する森の中――。


「そりゃああああ!」


 姫乃さんの一撃で、モンスターが倒れる。


「……ふう! それにしても、なかなか進めないわね」


「まあ、スルーしてあとで囲まれても面倒ですからね」


 すると、うしろのほうで観察していたトワが笑う。


「ハッハッハ。そこな女子も、なかなかやるではないか」


「いや、おまえも手伝えよ……」


「なぜじゃ。わしが手を下さずとも、やれとるではないか」


「いや、でもチームとして組んでいる以上はさ」


「ぬう。男のくせにみみっちいやつじゃのう」


 魔素に限りがあるんだから当然だろうに。


 そのときだった。

 ガサガサと茂みが揺れたかと思うと、数体のモンスターが飛び出してきた。


「しまった!」


 慌てて、そいつの攻撃を受け止める。


「くそ! おい、トワ! そっちのを頼む!」


「え、い、いや、わしは……」


「文句を言ってる場合か!」


「ぬ、ぬう……」


 彼女の目の前には、大きな角を持った牡鹿のようなモンスター。

 それに、片手剣を持ったトワが向かい合う。


「ふ、フフフ……。運のないやつじゃ。わしはいま、血が昂っておるでの」


 トワは不敵な笑みを浮かべると、剣を振りかぶった。


「この剣の錆になるがよいっ!」


 鋭い剣撃が繰り出され……。


 ――ガシンッ。


 その剣がツノに止められた。

 そのまま、ビシッと弾かれる。


「おりょ?」


 牡鹿のツノが、トワの足元をすくった。

 そのまま、ぽーんと彼女の身体を宙へ放り投げる。


「うぎゃ――――っ!?」


 その一連の光景に、おれと姫乃さんは呆然としていた。


「……ハッ。いけない!」


 おれは目の前のモンスターを叩き斬った。

 即座に脚に『ブースト』をかけると、跳躍して彼女を受け止める。


「姫乃さん!」


「了解!」


 姫乃さんが剣を振りかぶり、牡鹿に躍りかかる。


 ――斬撃スキル『三日月斬』発動!


 その鋭い太刀筋が、モンスターを一刀両断した。


「よーし、やったわ!」


 腕章の魔晶石が黄色く点滅する。

 無事、得点を獲得できたようだ。


 おれは腕に抱えたトワを下ろす。


「……大丈夫か?」


「う、うむ。失敗したのう。ま、いまのはほんの小手調べじゃ。見ておれ、次は華麗に決めて……」


「……あのさ、トワ」


 おれはふと思ったことを口にした。


「……おまえ、もしかして弱い?」


 ぎくりっ


「よ、弱くないわ! ちょっと、ほんのちょっと調子が、あの、その……」


 言い訳が、どんどん小さくなっていった。


 ――キッ!


「そもそも、強かったら愚妹から逃げてなどおらんじゃろーが!!」


 せやったなあ。


 おれはため息をついた。

 これはとんだ誤算だ。


「……じゃあ、なにができるわけ?」


 無理にパーティを組まされた以上、なにか役に立ってもらわなければ割には合わない。


「か、回復なら得意じゃぞ」


「あぁ、なるほど……」


 グリフォンの谷のことを思い出した。

 あれは確かにすごい回復スキルだったな。


 しかし、トワの妹がああだったから、てっきり彼女も戦えると思い込んでいた。

 とりあえず、一から作戦を立て直さなければいけない。


 おれと姫乃さんで、なんとかなるといいけど。


「……でも、妙だな」


 おれは周囲を警戒しながら言った。

 すでにおれたちは、例の大物が生息する場所を圏内にとらえていた。


「なにがじゃ?」


「いや、これを見てくれ」


 おれは腕章に触れた。

 わずかな魔力を込めると、空中にBグループのデータが映し出される。


 現在ポイント

 【牧野】――9

 【小池屋】――0

 【並盛つゆだく】――12

 【家族マート】――2

 【アトランタス】――5


 姫乃さんがそれを覗き込む。


「あら、便利ね。……でも、なにが気になるの?」


「すでに各チーム、多少のポイントを獲得しています」


「そうね」


 おれたちみたいに、大物を狙いに行く途中で小型モンスターと遭遇しているのだろう。


「……寧々たちが、まだポイントを獲得していない」


「それがどうしたの?」


「さすがに妙です。あの寧々が、こんなに立ち上がりが遅いはずはありません」


「確かに、そう言われれば……」


 このルールは時間との勝負だ。

 いくら寧々がトラップ専門とはいえ、美雪ちゃんたちもいてノーマルモンスターに苦戦するはずはないんだけど。


「……どうするの?」


「……あいつらのことは気になりますけど、とりあえず予定通りに動きましょう。ここで止まっていたら、それこそ他のチームに引き離される」


 制限時間は一時間半。

 すでに十分ほどが経過している。


 おれたちは、前方に鎮座するモンスターを目標に歩を進めた。


 ――その名は、古代樹トーレント。

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