主任、今回はだいたいこんなテンションでお送りしようと思います

20-1.ケルベロス


『えー。マジでー? ほんとに異界人じゃーん。どうしてこんなとこ、いるわけー?』


 ラミアがケラケラ笑いながら、おれを見下ろしている。


「…………」


 おれは双剣を構えると、じっとそいつを睨みつけた。


『あ、もしかして迷っちゃったのかな? うーん、どうしよっかなー。いつもならささっと殺しちゃうんだけどー。いまちょっと、わたしら忙しいしー』


 ――『風神』発動


 腕を回すと、そこに気流が発生する。

 その場で、剣を振り抜いた。


 ――ズバンッ!


 風の刃に切り裂かれ、ケルベロスの頭のひとつが落ちた。

 ぼとりと頭が落ちて、そいつがひざを折る。


 ラミアが、にんまりと口角を歪めた。

 その瞳の奥に燃えているのが、捕食者としての殺意に変化した。


『……へえー? やってくれるじゃーん』


 おれは舌打ちした。


 ケルベロスの身体が震え、その傷口からなにか気味の悪い靄があふれた。

 それは首を持ち上げると、そのまま傷口を合わせる。


『……グルル』


 そして、切断したはずの首が復活した。


『うーん。その感じ、迷子ってわけじゃなさそうだよねー。もしかしてだけど、わたしらの邪魔しようってのー?』


「……どうかな」


『アハッ。ちょっとちょっと、わたしらがあんたになにしたってのよー。ほんと忙しいんだから、どいたどいた。いまなら、そうねー。ちょっぴりむかついたから、半殺しくらいで勘弁してあげるからさー』


「生憎と、そういうわけにはいかない」


 おれはもう一方の剣も構えた。


「あのエレメンタルは渡さない」


『……ふうん? あんた、あのボンクラどもを守ろうっての? なにを聞いたか知らないけど、関係ないんだからほっときなさいよー』


「こっちも、事情があるもんでね」


 再び『風神』を発動する。


 しかしその刹那、ケルベロスから放たれた火炎弾が襲い掛かった。


 ドォ――――ンッ! 


 木々がなぎ倒され、焼けていく。

 それを紙一重で避けると、おれは木々の間に潜んだ。


 ――補助スキル『迷彩』発動


 一定時間、自分の姿を見えなくするスキル。

 ラミアが面倒くさそうに舌打ちする。


『ハア。これだから異界人って面倒よねー。こいつら、いろんなスキル持ってるから殺しにくいったらありゃしない』


 言いながら、ケルベロスの腹をなでた。


『ま、いいっしょ。魔力が反応すれば、場所もわかるしー。ほら、行くよー』


 やつらが湖のほうへと進んでいく。

 それを背後から追いながら、おれは次の手を考えていた。


 ケルベロスの特性『三位一体』。

 やつの頭には、それぞれ『保存』『霊化』『再生』のスキルが備わる。


 特に常時発動型パッシブスキル『再生』が厄介だ。


 それは簡単に言えば、超自己回復。

 やつを倒すためには、まず『再生』スキルを持つ頭を落とさなければならない。


 初撃が失敗した以上、次の首を狙うことになる。

 しかし『風神』であれほどの威力を出すためにはの時間が必要だ。

 あの火炎の速度、その猶予をくれるとは思えない。


「……予定通りで行くか」


 アレックスと合流するために、湖のほうへと向かった。

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