20-2.vsケルベロス


 アレックスは計画通りの場所で待機していた。

 迷彩を解くと、彼女に走り寄る。


「アレックス!」


「ユースケ」


「カンテラの話した通り、ケルベロスだ。そして、ラミアもいる」


「どうだった?」


「右の首を落としたけど、『再生』じゃなかった。攻撃が速くて、正面からじゃタメの時間を待ってくれそうにはないな」


「……わかった。じゃあ、当初の予定通りに」


 そう言って、彼女は手元の魔晶石に魔力を込めた。


「そうだ、カンテラは?」


「見ていないわ。無事だといいんだけど……」


「モノケロースがいるから大丈夫だとは思う。おれたちは自分の仕事に集中しよう」


「……そうね」


 強い魔力の気配が近づいてきた。

 おれは双剣を構えると、自分たちに迷彩スキルを施して潜む。


『うーん。意外に我慢強いじゃなーい。そろそろ出てこないと、ほんとにエレメンタルはいただいちゃうぞー?』


 その姿を見たアレックスが、眉を寄せる。


「……本当に、人間みたいね」


「できればケルベロスだけ倒して、やつは追い払いたい」


「それは可能かしら」


「マイロによれば、あいつら自身はそれほど強い戦闘能力は持っていないらしい。おそらくケルベロスを倒せば逃げるはずだ」


「……そうね。わたしも、あいつを倒すというのは気が進まないわ」


 おれたちはうなずき合うと、行動に移した。


 まずはケルベロスのスキルを使わせる。

 それによって発生した魔力で、『再生』を持つ頭を特定しなければならない。


 そして特定できたら、おれの『風神』で頭を落とす。


 やつらは湖に近づくと、その水面を覗き込んで言った。


『あった、あった。それにしてもー、ほんとに来ないじゃーん。もしかして、ちびって逃げ帰っちゃったー?』


「――『アンダーソン』発動!」


 途端、湖を囲むように設置してあった魔晶石が輝きを放った。

 その青い光は細長い線を描きながら、ラミアたちを取り囲むように展開する。


『はあ? なに、これー。いっちょ前に、罠とか仕掛けちゃってるんだー?』


 ラミアがその光に触れた瞬間、その肌がジュッと焼けた。


『熱っつ! ちょ、なによ、これ! わたし、こんなの知らないんだけど!』


 その瞬間、ケルベロスの真ん中の頭が魔力を放った。

 その口から炎が上がると、それはみるみる身体を包み込む、


 ――スキル『霊化』


 攻撃スキルを使えない代わりに、一切のスキルを無効化する。

 やつはその状態で『アンダーソン』の檻を抜け出すと、アレックスへと飛びかかった。


 ――『風神』発動!


 双剣『風神』に込められた特別なスキル。

 左の剣で風を取り込み、右の剣でそれを解放する。


 左の剣により、周囲の空気を手元に吸収する。


 酸素がなくなれば、炎は消える。

 ケルベロスのまとっていた炎が、みるみる弱くなっていく。


「うらあああああああああああああああああああ」


 そして『霊化』を保てなくなったそいつが元の姿に戻った瞬間、風の刃を叩き込んだ。

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