主任、ダンジョンデートしましょう
30-1.ピーター襲来
……ハア。
今日も手応えはイマイチかあ。
このままじゃ、今月もまたお説教コースだ。
――ピリリ
外回りの途中、携帯が鳴った。
仕事関係かと思ってどきりとするが、相手はピーターだった。
「どうした?」
『やあ、マキノ。ちょっと時間あるかい?』
「まあ、これから会社に帰るところだけど」
こんな時間にかかってくるなんて珍しいな。
いつも時差があるから、こっちの深夜になりがちなんだけど。
『あぁ、よかった。それなら少し話そう』
「え。これからか?」
できれば、仕事が終わってからにしてほしいんだけど。
『あぁ、そこの喫茶店がいいな。あのポスターの【ときめきイチゴパフェ】がおいしそうだ』
「は?」
反射的に、おれは周囲を見回した。
通りの向こうに、チェーンの喫茶店がある。
その店頭のポスターに、真っ赤にな冷凍イチゴをてんこ盛りにしたパフェが載っていた。
「……まさか」
おれはそのまま、くるりとうしろを向いた。
通行人たちが、その日本人離れした美男子を遠巻きに見ている。
まあ、この歳で美男子というのも気が引けるのだが。
「やあ、マキノ! 久しぶり!」
ピーターが、屈託のない笑顔で手を振っていた。
…………
……
…
そして仕事上がり。
おれと姫乃さんは、会社のほど近いバーにいた。
テーブルの向こうでは、ピーターがにこにこしながらビールを傾けている。
「どうしてまた日本に?」
「なんだい。まるで来ちゃいけないような口ぶりだね」
「いや、そんなことはないけど」
ちょっとびっくりしたっていうか。
「他のパーティメンバーは?」
「まだロック・ドラゴンが見つからなくてね。こっちの仕掛けにかかるまでは休暇中さ」
「ふうん。じゃあ、ただ遊びに来たのか?」
「そんなところだよ。キミとクロキチャンがうまくやってるか気になってたしね」
「そんなことのために来なくても……」
ふと姫乃さんと目が合って、慌てて逸らした。
……まだこういう風に茶化されるのは慣れてないんだけどな。
ピーターはにやにや笑いながら、ビールに口をつけた。
「ま、本当はネネに会いに来たんだけどね」
「そうなのか?」
「あぁ。ちょっと参ってるみたいだから、元気づけにさ」
「え。なにかあったの?」
体調が悪いとか聞いてないけどな。
もしかして店のほうでなにかったか?
「…………」
「え、なに?」
なぜかピーターが深いため息をついた。
「クロキチャン。マキノをぶん殴りたくなったら遠慮しちゃダメだよ」
「……う、うーん。どうでしょう」
姫乃さんの目が泳いでいる。
……なんか悪者にされている気がするんだけど。
「ま、いいさ。それよりも、キミたちに用事があったんだ」
「用事?」
すると、姫乃さんが身体を乗り出した。
「どんな用事ですか?」
「そりゃぼくとキミたちの仲だろ? もちろんダンジョンさ」
あー。
まあ、そりゃそうだよな。
「実はこっちに来たついでに、知り合いに仕事を頼まれてね。どうせなら、いっしょに潜らないかと思ってね」
「いいわね! 行きましょう!」
「姫乃さん、待ってください」
ほんとにこのひとは、ダンジョンと聞くとこうだもんな。
「……ピーター。前みたいな危ないやつじゃないだろうな?」
「ハハハ。まあ、マキノが思ってるようなものじゃないさ」
「どんなクエストだ?」
するとピーターは、にやりと笑った。
「お化け退治さ」
おれたちは、顔を強張らせた。
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