23-5.3バカ再び


「よろしくお願いします!」


 司が頭を下げると、大学生らしき男たちが優しい笑みを浮かべた。


「まあ、簡単な試験だからさ。気楽に行こうよ」


「はい! 頑張ります!」


 ふんすと鼻を鳴らした。


 話によると、今回の試験は中級モンスターのタイムアタック。

 ダンジョン中層の『クレイジー・キャット』をハントし、その素材を入手する。


 更衣室で着替えて、男たちと合流した。


 司の装備はメイスと呼ばれる棍棒と、女性用のライトアーマーだった。


「へえ。専用の装備を持ってるんだね」


「はい! お姉ちゃんにつくってもらいました!」


「え。お姉ちゃんに、つくって……?」


「あ、いえいえ! なんでもないです! じゃあ、行きましょう!」


 司は転移の間に進んでいった。

 男たちが顔を見合わせ、にやと笑い合うのにも気づかず――。



 …………

 ……

 …



「よっと!」


 一閃。

 リーダー格の男が、迫りくるモンスターを真っ二つにした。


「お兄さんたち、すごいですね!」


「いやあ、このくらい当たり前だよ」


「おれたち『疾風迅雷』でも特に期待されちゃってるからさ」


 司の言葉に、男たちは気をよくしたようだった。

 額の汗を拭いながら、周囲に転がったモンスターの死骸を見る。


「しかし、今日はやけにモンスターが多いな」


「まだ上層なのに、次から次に湧いてくるぜ」


「ま、このくらい楽勝だけどな」


 彼らはこそこそと囁き合う。


「よし、次のフロアで決めるぞ」


「でも、いいのかよ」


「大丈夫だって。ダンジョンの中じゃ、なにがあっても問題にならないしな」


 階段を下りて、次第に人気のないエリアへと進んでいく。

 周囲の雰囲気に、司は不安げに振り返った。


「こっちに『クレイジー・キャット』いるんですか?」


「そうだよ。危ないから、おれたちから離れないでね」


「はい! お兄さんたちがいっしょでよかったです!」


 その純粋なまなざしに、男たちが苦笑する。


「そうかい?」


「はい! だって、普通のひとといっしょだと、わたしダンジョンに潜れませんから!」


「そういえば、昨日もそんなこと言ってたね。どうして?」


 司はにこりと笑うと、はっきりと告げた。


「だって、わたしモンスターを呼び寄せる体質なので!」


 しーん。

 男たちが沈黙した。


 やがて、リーダーの口から、空気の漏れるような声が出た。


「……は?」


 そのときだった。

 背後から、モンスターの唸り声が聞こえた。


「お、おい……」


 リーダーが振り返って、その光景にぞっとした。


 そこには、通路をふさぐほどの大量のモンスターたちが構えていた。

 敵意を向けながら、じりじりとこちらに詰め寄ってくる。


「な、なんだこりゃ!」


「に、逃げ……!」


「ダメだ、うしろもモンスターが……」


 男たちがうろたえる中、司が首を傾げた。


「あれ。お兄さんたち、『疾風迅雷』のメンバーなんでしょ?」


「ん、んなわけねえだろ! あんなくそギルド、とっくに辞めちまったよ!」


「えぇー!? ど、どうして嘘ついたんですか!」


「そ、そんなことどうでもいいだろ! おまえこそ、そんな大事なこと先に言えよ!」


「だ、だって先に言ったら、みんな逃げていくんですもん!」


「当たり前だろうがあ! ……くそ、おらよ!」


 ――ドンッ!


 うしろからリーダーに突き飛ばされた。

 司はモンスターたちの前に転ぶ。


「モンスターども、あいつ狙ってるんだ! 突っ切れ!」


 そう言って、男たちは来た道を走っていった。


「……え。うそ」


 取り残された司は、呆然と周囲を見回した。

 モンスターたちが飛びかかろうとした刹那。


「いやああああああああああああ」



 ――銃声が、洞窟に鳴り響いた。

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